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1話 1ヶ月ぶり2度目の異世界転移にキレそう

 イカれたメンバーを紹介しよう!


「私は、皆さんのお役に立ちたいのです。知識は使ってこそ意味のあるもの。私はこれまでの自分の人生に、意味を持たせたい!」


 王国中から天才魔導士と称された、才色兼備のお嬢様――シャリー。


「やれやれ、面倒だが救ってやるか……この世界ってやつをな。勇者様、お手柔らかに頼むよ」


 射撃の名手であり、有効射程距離は国一番と謳われた色男――ウェッジ。


「おにいちゃん、わたしに近付くと、不幸になるよ。え? 魔王をやっつけるの? へー、悪者なら不幸になったっていいよね」


 古代の魔女をその身に封印された少女――アリエス。


「度数の高い酒が飲みてえ!」


 そこらへんにいた情報通のおっさん――おっさん。

 

 そしてこの俺――『異世界召喚』で呼び出された現代日本の高校生。


 おっさんは途中いなかったような気もするが、ともかくこのメンバーで、俺たちは世界を――国を救った。


 具体的には、『感染するタイプの呪い』を『アルカディア王国』に振り撒こうとした魔王を討伐した。実は生きていました、という展開を避けるために、きっちりと念入りに死んでいることを確認した。そうして役目を終えた俺は、異世界から解放され、現代日本に帰ったのだった。


 異世界での旅は1年ほどだったが、元いた世界に戻ってみると、時間は全く経過していなかった。


「いよっしゃあああああああああああああああああ!」


 現代日本に戻った俺の第一声である。召喚される直前に持っていたアイスを地面に落としてしまったが、そんなことはどうでもいい。


 俺は発情したチンパンジーのように――いや、今の比喩は最悪過ぎるな。


 ええっと、あれだ。


 クリスマスプレゼントをもらった5歳児のように、全身で喜びを表現した。



 ――それから1ヶ月が経過した。



 正直に言おう。退屈である。


 一年間苦楽を共にした仲間と別れた寂しさもあるが、それ以上に現代日本における退屈さがきつい。異世界で獲得した能力はバッチリと維持しているが、まったくと言っていいほど使いどころがない。


 朝起きて、学校に行って、勉強をして、家に帰る。


 あまりにもパターン化された毎日に、これひょっとしてループしてるのでは? と何度か思ったが、そんなことはなかった。


「あ~、退屈だー」


 俺は自宅のベッドでゴロゴロしながら、Twitterを眺めていた。


 なんとなく、古代の魔女を封印された少女―アリエスのことを思い出していた。黒髪おかっぱの7,8歳くらいの女の子。メンタルの弱い危なっかしい性格の子だったが、元気にやっているだろうか。他の奴はなんとかやってそうな気はするが、あの子は心配だ。


 なんてことを考えていたら、突然スマホから着信音が鳴り出した。


「うわ! なんだなんだ!」


 全く身に覚えのない番号なので出ようか迷う。しかしまあ、よく考えたら魔王を倒した俺に、怖いものなんてないはずなので問題ないか。


 俺は通話に応じることにした。


「はい、もしもし? どちらさんですか?」

「……公園……来て」

「あー、すいません。電波が悪い、みたいで…」

「10分後、ありぐも公園に来てください!」


 声の主は、俺と同年代くらいだろうか。随分と若い。やけに焦っているな。


 いや、緊張している…?


 というか、そもそも誰だ。


「ええっと、どちらさんですか?」

「えっと、あなたと同じクラスの山田です! 大事なことを伝えたいです! 具体的には愛とかそういうアレです!」


 愛だと!?


 まさか告白!?


「OK! 今すぐ行くよ! ありぐも公園とやらにな」


 そう言うと、俺は通話を切った。

 

 いや、よく考えたら10分後ってもうすぐじゃねえか。ありぐも公園ってどこだっけ。そう思い地図アプリで見てみると、俺の家のすぐ近くだった。これなら余裕で間に合うか。


 まあ、いざってときは魔力を使えばいい話なのだが。


「というか、なんでこいつ、俺の近所の公園知ってるんだ」


 若干怖い気もするが、よく考えたら魔王を倒した俺に怖いものなんてないので問題ないか。というわけで、俺は急いで部屋着から外着に着替えると、両親にバレないように自宅を後にして、指定の公園に向かっていった。


 公園に到着すると、周囲には人影一つなかった。現在の時刻は23時半。元々人通りの多くない場所なので、この時間帯ならこんなもんか。


「お待たせしました!」


 声のした方向に目を向けると、そこには一人の少女がいた。肩まで伸びた水色の髪が印象的な、モデルのように小顔な女の子だ。


 年齢は俺と同じくらいだろうか。


 息を切らしていて、両膝に手を突いている。走ってここまで来たのだろう。何故こんなシビアな時間設定にしたのか疑問だが、そこには触れないでおこう。


「あー、君が電話くれた子? あのさ――」

「お願いします! これ! 受け取ってください!」


 少女は急激に俺との距離を詰め、妙なペンダントを押し付けてきた。お世辞にもセンスがいいとは言えない、奇妙な模様の入った半円のペンダントだ。


 つけたら呪われそうな気もするが、よく考えたら魔王を倒した俺に以下省略。


「あー、ありがとう?」


 俺はひとまずペンダントを受け取った。


「ていうか、え?」

「なに? あっ」

「はは、凄い偶然だね」


 その女の子は、どういうわけか俺とまったく同じ服を身に着けていた。こういう偶然もあるのかなあ。しかも絶妙に似合っていない。


「あっ、これは……うっ、ぐっ」


 唐突に、少女が涙を流し始めた。それを腕で拭い、懸命に溢れ出る感情を抑え込もうとしているようだ。


「お、おい! 大丈夫? 全然状況についていけてないんだけど……なんかあったの?」

「実はわたし――」


 次の刹那――


 女の子の首が胴体から切り離され、ポロリと落下した。


 重力に翻弄され、落下していく少女の首に一瞬目を奪われる。


 それによって、前方から突き出される『攻撃』への反応が遅れた。


「――ッ!」


 俺は寸前のところで、それを回避した。生温かい感触が顔面を覆う。少女の血しぶきだ。俺は状況を理解するため、魔力を使って後方へと一気に高速移動した。


「ふぅ……」


 まずは相手の観察だ。


 相手は黒いマントを身に纏っていて、ピエロのマスクをつけているため素顔は見えない。体躯は俺と同じくらいか。右手には刀身に漆黒のオーラを纏った日本刀を携えている。明らかにこいつは、普通の人間ではない。


「お前、一体何者なんだ!?」

「…………」


 マント野郎は、自分の殺した少女の遺体に目を向けている。なんだ、その行為に一体なんの意味がある?


「おい! なんとか言え!」

「…………」


 マント野郎は日本刀をポイッと捨てると、その場に腰を下ろした。そして、俺のほうに顔を向けて、「しーっ」と言わんばかりに人指し指を口許に近付けた。


「おいお前、ただで済むと思う――なっ!」


 身体全体が得体の知れない奇妙な感覚に囚われた。まるで、何かに引き寄せられているようだ。


 この感覚。前にもどこかで。


 そうだ、これは――


 異世界召喚だ。


 この時の俺は、「またあの世界に呼び戻されるのか」とは考えていたが、まさかその世界が、あれから10年経過していることなど想像していなかった。

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