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地蔵  作者: 二堂至
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足音で目が覚めた。この音はおそらく女性だろう。鼻歌が聞こえるぞ。これは~どこかで聞いたことのあるような曲だけどなあ。また思い出せない、最近は健忘症の傾向が強くなってきてしまった。


スニーカーが軽やかに木の葉を蹴る音が、鼻歌と交わってスネアやハイハットに成り代わり、彼女のリズムを支配しているようだった。大変陽気そうなスニーカーのスイスイと土を蹴る音は、林を楽しませ、こころなしか笹が揺れて踊っているような心地にさせる。姿が見えた瞬間、地蔵はあ!となった。この女性は三か月前にここにきていたのだ。地蔵を見つけ鼻歌をやめると、スキップするように楽しげな様子で地蔵の前に行った。


「お地蔵様、ありがとうございました。お地蔵様のおかげでコンクールで金賞をとることができました。あのとき一番怯えていたソロパートも本番、最高のパフォーマンスで演奏することができて本当に良かったです。お地蔵様に会ってから覚悟を決めて、新しい気持ちで練習に臨んだその日からだんだんと調子がよくなり、最高のコンデションで本番を迎えることができました。」女性は一瞬困ったような顔をして「あれ、まあいいか。」というと話をつづけた。「それもこれもお地蔵様のおかげです!本当にありがとうございました!」そう言って背負ったバッグから大福を取り出して置くと、手を振りながら軽やかに去っていった。去るときはバッグのこすれる音が聞こえて、軽やかさが生む不協和音は地蔵を不快にさせた。


大福なんか食べれるわけがないのに、何のためにそんなものを置いていくのだろう。おそらく彼らは、地蔵が持ちを食べたという話を聞いたならば笑って作り話だと歯牙にもかけないくせに、肝心の自分らは堂々とお供え物だとか言って食べ物を置いていく。そもそも、俺が君らの幸せなんか願ってるなんてことが妄想で、実際僕は人間の趨勢に無関心で、ひとつもつ関心といえばここに来たものが幸せになって帰っていく姿を見ることに対する憎悪だけだ。


ああ神様仏様。私に感情をお与えになるのならば、人に干渉する力も与えてくださったらよかったのに。うごけないこんな退屈、人生への生殺しです。



置かれた大福の粉が梱包について、その隙間から見える大福は元の大きさより小さくなっているように見えた。


ちくしょう、せめて置いてくなら袋を外せよ。手が使えないのは見てわかるくせに。ちくしょう




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