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蒼き髪の魔術師  作者: ゆず
第一章 技術向上ノ章
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008 お茶目な師匠

なんか書けたので投稿します。

「じゃあ、お手本」

 師匠はそう言うと、指をパチンと鳴らした。

 一瞬で部屋の明かりが消え、天井についた板の間から差し込んでいた光も途切れる。

 部屋を見回して、その仕組みが全く理解できないまま師匠の方に視線を戻すと、その指先には小さな炎が灯っていた。

 真っ暗な部屋に浮かぶ唯一の灯火は、昨日の朝焼けの美しさとは違う、原始的な美しさで、思わず見惚れてしまった。


 ……ここは、昨日紹介してもらった練習室である。

 今日から、本格的に修行開始ということだ。

 まずは、基本中の基本、炎を指先に灯すことかららしいのだが……。


 ……さっぱりわからないのだ。


 お手本と言われたが、演出に凝り過ぎていて何が起きたか全くわからなかったのである。


「わかった?」

 師匠からの問いがあったが、首を横に振る。

「演出が凝り過ぎててわかんないです」

「あら、ずいぶん辛口ねえ。ちょっとふざけただけなのに」

 そして、私は、昨日からここにいて、一つ、気がついたことがある。

 師匠は、思いっきりお茶目だ。

 天井の補修板然り、この会話然り。

 巷で大魔導師と称えられる偉大な魔法使いフェネ・シードゥストラが、この様にお茶目で良いものなのだろうか。

「……真面目にやってください」

 生徒が先生に真面目にやれと注意する構図など、現代日本では見たことがない。

「ふふ、じゃあ、私の書斎に行きましょうか」

「……え?」

「あら、本気で、いきなり魔法が使えるとでも思っていたの? まずは、理論と魔力の扱いからよ。まあ、あなたは吸収が恐ろしく速いから、すぐ終わるでしょうけど」

 つまり、自分の魔法を自慢したかっただけだと。

 ……やはり、師匠は、お茶目だ。


 それから、私たちは、二人で師匠の書斎に移動した。

 正直なところ、この屋敷は広すぎて、何処に行ったら目的地に辿り着けるのか、全くわからない。もう三回は行っている書斎ですら、一人では行けないのだ。

 書斎に着くと、師匠は、入口とは違う、もう一つの扉の方に手をかざし、

短く詠唱を唱えた。

 短く、というのは、一秒や二秒などという単位ではない。最早一瞬なのだ。それは、師匠の詠唱加速の倍率が如何に高いかの現れであった。

 ……恐ろしいほど短い詠唱が済むと、自動的に扉が開き、そこから木の机と快適そうな椅子が滑り出てきた。

 師匠は、それらを自分の机に対し直角になる様に配置し、私に座る様に言った。

 ……これくらいのことで驚いていては、異世界転生など務まるわけもないのだ。心の中では驚いていても、顔には出さない。それがこの世界で生きていく上で必要なことだと思う。

「じゃあまず、この本の重要な所だけ覚えてもらいます。全部覚えるかどうかは自由だけど、どうする?」

 というか、長々と説明されるより、さっさと司書で取り込んでしまったほうが楽なのだが。

「ここの部屋の本の中に、私が見ないほうがいい記述があるものはありますか?」

「いいえ、ないけど……、何をするの?」

「全部取り込みます。その方が、説明が省けていいから」

 ……あれ?

 師匠は、司書の効果について詳しく知らないのだろうか?

 その様な疑問が浮かんだが、私はさっさと席を立ち、10分ほど本に手をかざす作業を行い、再び席についた。

 文字数にすると、およそ50億字。そのすべての情報が司書の管理下に置かれ、私のものとなる。

 しかし、司書さんによると……。


《指摘します。私の知らない情報は一万字もありませんでしたので、時間の無駄と言うものでしょう》


 ……こう言うことらしい。

 一万字も情報が手に入れられたのなら別にいいのではないだろうか。


《回答します。一万字など、私の持つ知識の中で見たら、米粒程度の価値しかありません》


 あ、そう。


《返答します。今、主人マスターがあからさまに冷たい態度を取った様に思います》


 あら、勘の良いこと。


《訂正します。勘ではなく、この場合に有効だと思われる知識から考察しました。その結果、主人マスターがあからさまに冷たい態度を取ったと考えました》


 あ、そう。


《返答します。今の返答には、冷たい意味ではなく、私をからかうような意図が読み取れます》


 あのさあ、つまり、司書さんの知識=私の知識でいいの?



《回答します。その認識で構いませんが、話を逸らそうとする意図が丸見えです。もう少しうまくやった方がいいかと思います》


 こやつ、能力スキルのくせして私に進言しおったわ。

 まあ、面白いから良いんだけどね。


「……すべて、理解したの?」

 師匠が、思いっきり真面目な声で私に問うた。

 物凄い雰囲気で、こちらを見る。

「はい。……何か、あるんですか?」

 私が聞くと、師匠はゆっくりと口を開いた。

「大有りよ。……まず、司書に、そんな手をかざすだけで本の内容を取り込めるなんて能力ないはずよ。司書の知識整頓の本来の使い方は、時空間操作で自分の周りだけ時間を速めて、後は自力で読むのだもの。……けど、目の前でそれをやられたら、最早疑いようがないわね……。今夜、カネレを問い詰めてみましょうか」

 そう言うと、師匠は、不敵な笑みを浮かべたのだった。


より良い、と言うものが、だんだんわからなくなってきました。

一年前は分かってたのになぁ。

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