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蒼き髪の魔術師  作者: ゆず
第一章 技術向上ノ章
6/33

005 決断

今回短めです。

区切りのいいところで切ったらこうなりました。

今後とも宜しくお願いします。


「つまり、私に、半永久的な時を生きろと、そう、仰るつもりですか」

  ……余りに相手のことを気遣わない言葉が、自分の口から出たことが、信じられなかった。

  レイン・ウェールの話は、自分から聞かせてくれと頼んだことだ。

  己の背負った運命に悲観するだけならまだいい。

  最低だ。

  他人に、自分の悲しみや、怒りや、その他諸々の感情をごちゃ混ぜにした物を、私は投げつけた。

  それが、如何に愚かで、最低な行動だという事は、後で気が付いた。

  ……だが、それは言い訳にすらならない。

  私が放った一言で、カネレさんも、フェネさんも、表情が曇ったのがはっきりと分かる。

  謝ろう。

  謝らねば、ならない。

  そう思うのだが、たった6文字の言葉は、喉に引っかかって出てきてはくれない。

  私が四苦八苦している間に、フェネさんが顔を曇らせたまま、話し始めてしまった。

「……あなたが、私達に当たってしまうのは、仕方のないことだと思う。……昔は、皆が不老不死を願った。けど、不老不死なんて、不幸以外の何者でもないの。……あなたも、それを悟ったんでしょう?」

  私は、頷く事も、声で肯定する事もできず、俯いていた。

  ……フェネさんが、私のした事を、割り切ってくれたのも、フェネさんがすごく優しい人だという事も、すごく分かった。

  ……分かったから、こそ。

  謝らねばならない、そう、思えた。

「フェネさん、ごめんなさい。あんな最低なこと」

  涙なんて、流してはいけない。

  私には、そんな権利なんてない。

  そんな、権利なんて……。

「……泣きなさい」

 

「ゔああああああああああああああああっ!」

 

  辛うじて繋がれていたものが、切れたのだと、分かった。


 

  いつまで、私は、フェネさんの腕の中で泣いていたのだろうか。

  かなり落ち着いてきた頃から、フェネさんの隣にカネレさんも来て、私の頭を撫でてくれていた。

  今まで、辛うじて私を大人の土台にあげていたものが、全て崩れた。

  ……やはり、私は、大人ではないのだと、実感した。


  フェネ・シードゥストラは、その時、ある事を思い出していた。

  自分が助けた、小さな小さな少女の事を。


  その子も、自分の運命に対して、思いっきり泣いた。

  あまりに残酷で、あまりに無慈悲なその定めに、少女は泣き続けた。


  フェネ・シードゥストラは、やっと繋がったその光景を、今でもよく思い出すのだ。


  人生最後の思いと共に。



  私が落ち着くと、フェネさんは、私を膝の上から下ろし、元の位置に座らせた。

  外は、もう暗くなって、橙色が空を支配している。

「ないわけでは、ないの」

  フェネさんが、ぽつりと呟いた。

「え……?」

  衝動的に聞き返した。

「レインの作った【心臓の翼】は、別に秘匿されてるわけじゃないから、使えない事もない。……それから、私の気持ちを一切考慮しないなら、私があなたを消す事もできる。……でもね、私は、あなたがその道を選ぶ気がしないの」

  フェネさんは、そこで一旦言葉を切った。

  3人の息の音だけが、静かに響く。

「だって、あなたは我慢強いでしょう?」

  ……それは、母の優しさのようであり、姉の冷たさのようであり、祖母の励ましのようであった。

「そうかも、知れません」

  自分の言葉が、自分の背中を押した。

  ……その時が、私が、ひたすらに待つ事を決めた瞬間だったのだと思う。


  ただ、ひたすらに、自分より強い魔術師が、自分を消し去ってくれる事を。


  それだけが、自分が消えることが許される法だと信じて。


  本当は、どうしようもなく、怖い。怖くてたまらない。

  自分が待つ間、周りは次々といなくなるだろう。

  誰かを好きになっても、いずれ老いて逝ってしまうだろう。

  最愛の友も、消え去ってしまうだろう。

  カネレさんや、フェネさんも、ひょっとしたら、消えてしまうのだろうか。

  怖い。

  孤独が、怖い。

  ここに来て、やっと分かった。

  最強なんて、ただの孤独でしかない、と。

  ただ、自分は、そこに向かっていく。

  時が流れれば流れるほど、孤独になるだろう。

  ……それでも、生きたいと願ったのは、何故なんだろうか?


  生きれなかったからかもしれない。


  そう、思った。

  前世で、私は、何を願っていたのだろう、と考えると、やはり、意識を失う直前まで、生きたかった。

  この世界に来て、異世界転生を直ぐ思い浮かべたのも、生きたかったからなのだろうと、そう、思った。

  ……私は、生きたいと願った。

  ……周りが、それを、拒んだ。


  そうだった。

  私が願ったことは、たった一つだけだったのだと。


  いつまでも、この空だけは、狂わぬように。


  それだけだったのだと。



「……それで、あなたは、これからどうするの?」

  帰り際、フェネさんが私に聞いた。

  確かに、いつまでもカネレさんの所に居座るわけにもいかない。

  かと言って、住む場所があるかと言われれば、そんなものはない、と答えるほかない。

「あのね……、家に、来ないかしら? 消えるつもりがないなら、魔術の勉強はしなきゃないだろうし、いつまでもカネレの所に居るよりは、家に住み込みで修行してもらった方がいいと思うのだけど」

  フェネさんがそう言うと、カネレさんも私の顔を覗き込んだ。

  確かに、その方がいいのかも知れない。

  カネレさんの所では、精霊魔法とやらが存在するならば、教えてくれたりもするだろう。それに対し、フェネさんは、万能型の魔術師だろうから、精霊魔法に限らず教えてくれるだろう。

  その中から、得意な分野を見つけられるかも知れない。

「……そうしたいです」

  カネレさんや、あの小さな妖精さんと別れるのは辛かったが、会えないと言うことはないだろう。……カネレさんなんて、フェネさんの友達らしいし。

「なら、決まりね」


  私は、カネレさんの所で一旦荷物などをまとめ、明日の午前中にここに移ることになった。

  部屋などは向こうで用意してくれているそうだ。

  楽しみでもあり、少し不安でもある。


 

  ……その次の日の朝焼けが、また綺麗だった事も、私が鮮明に覚えていることの一つなのである。

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