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蒼き髪の魔術師  作者: ゆず
第二章 大国大戦ノ章
30/33

028 ミカエルの発見

少しいつもより文量多めです。

「北の七星の断罪・第一段階・縛」


 美しくも感情の入らない声でその言葉が紡がれた。

 それと同時に、インベルの足元に巨大な魔法陣が姿を現す。


 その魔法陣は幾重にも重なり、厳格な雰囲気と共に、そこが現実ではないのではと感じさせる何かも持ち合わせていた。


 その魔法陣から白い光の粒が溢れ、インベルを包んでいく。


「……完了。第二段階・定」


 そして、その光の粒から出た輝く糸がインベルの体を固定する。


「……最終段階・断」


 その言葉と共に、周りを取り囲んでいた光の粒が消えた。後に残ったのは、インベルの体を止める糸のみ。

 そして……。


 北斗七星の形に開かれた粒から、光が溢れ……インベルの身を焼いていく。


「……完了。…………魔法中断」

 

 ミカエルは、インベルが気を失い、且つ死んでしまわない絶妙なタイミングで魔法を中断した。

 それは、誰でも完璧だと言うほど完璧だったのだが……。


「––––⁉︎ ……主人マスターの反応が消えました。原因究明に移ります」


 ミカエルは、想定外の事態に、頭を悩ませる。

 十字熾天使クロスセラフィム序列一位の実力は伊達ではない。

 よって、その原因もすぐわかるはず。

 ミカエルはそう信じていた。


「––––! ……危険を察知しました。回避行動を取ります」


 ミカエルは、突然背後に濃い魔力の塊を感知した。

 それが何なのか。


主人マスターである可能性……100%」


 ミカエルの演算は、間違うことはない。

 間違わないのだ。

 だから、ここにインベルがいるはずがない。

 インベルは、さっきの魔法で気絶しているはずなのだ。


 ミカエルは、このあり得ない状況に驚きを隠せない。


 私の計算は完璧なはず。

 そう、絶対的な自信があったのに。

 なのに。

 

「……ふふ、主人マスターは、世界でもトップの性能を誇る私の性能を超えてきたのですね。……その可能性……100%」


 ミカエルは、演算専門であるが故に、あまり感情を露わにすることはない。しかし、もう、ミカエルは振り切れたのだ。

 

 主人マスターは、自我が無くとも私に勝つ可能性がある、という事に気が付いて。


「……ふふ、ふふふふふふふ! ……とうとう、私が最強たる所以を見せる時が来たようです。……目覚めなさい、もう一つの自我(アナザーセラフィム)!」


 ミカエルは、その時、禁忌と言われることを犯してしまった。

 決して、この世界に呼び寄せてはならない、絶対なる力の塊を。


《……ミカエル、来てあげたけど? これは何の騒ぎなの?》


「ふふふ、ラファエル、いいから協力しなさい。私の完璧なる演算によって滅ぼされたくなければね!」


《で? 何をすればいいのかしら。滅ぼされるのは嫌なのよね》


「ふふ、簡単なことです。あそこにいる私の君主マスターを、無力化するだけ」


《ミカエル、それを簡単だと言い切れるのは貴女くらい––––》


「ラファエル、グズグズしてると滅しますよ!」


《仕方ないわねぇ、やってみるわ》


 十字熾天使クロスセラフィイムが一柱、序列二位「運命」のラファエル(ディスティニー)、それが、ミカエルが呼び出した相手だったのである。


 ミカエルが指令を出すと、ラファエルは、その権能の一つ、「運命改変」を行使した。


 これで、運命が変わり、ミカエルの演算は必ず当たるようになった訳だが……。


「……血の雨よ降り注げ。露血雨水ブラッディレイン


 ミカエルの演算によれば、この魔法によってインベルは行動ができなくなる。なぜなら、この魔法に付与されているのは様々な状態異常効果だからだ。


「……ヴッ……」


 インベルが苦しそうな声を上げた。

 魔法使いには、状態異常など身体強化をしなくとも影響を受けることはない。

 しかし、今のインベルは、「魂」ではない。肉体を構成する魔力そのものであり、状態異常を受ければ、魔力は消えていくのだ。そのことで痛みはないからダメージとは言われないものの、体にとっては大切な身体を構成する物質が失われている訳で、それで苦しげな表情をするのは至極当然のことだと言えた。


 その苦しそうな声を聞いて、ミカエルは、嬉しくも複雑な気持ちになった。演算結果が当たって嬉しいが、自分の君主を傷つけている事実は変わらない。

 その事実が、急にミカエルの心を支配しようとしていた。


「ラファエル、ここで気を抜かないでよ」


《分かってるわよっ……。でもっ、抵抗の力が強くて……。後二十秒で片をつけて頂戴。それ以上は保証できない》


「ふふ、貴女らしい。最初は面倒くさいとか言うくせにね! ……光輝瑛玲ライトニング・閃」


 その魔法の光は、通常の光の速さよりも速く、急ぎ足でインベルの元に向かっていく。


「……断」


 その言葉がミカエルの口から発せられた瞬間、インベルを貫いていた光が綺麗に消え去った。


 その辺りで、インベルの体が地上に落ちていくのが見える。


インベル様(マスター)!」


 ミカエルは、その権能で最適解を導き、インベルを抱きとめた。


インベル様(マスター)! インベル様(マスター)!」


《……ミカエル、今目覚めるわけないでしょう? 速く処置してあげなさいな》


「……それもそうか」


 ミカエルは、そう言うと、インベルにそっと浮遊魔法を掛けた。そして、自分の右側に結界を厳重に貼った状態で浮かせておく。


《珍しいじゃない? 貴女が冷静じゃないなんて。いつも、煩いくらい冷静沈着で表情なんて見えないのに》


「……大切な、主だからね」


《そう。……まあ、少し興味が湧いたわ。貴女が惚れた主がどんな人なのか。今度、主が起きてる時にでも、呼んで頂戴な》


 そうラファエルが言うと、その存在の反応がフェネの器内から消え失せた。


 そして、ミカエルは、そっと地に降り立った。


 その間に殺せばいいものを、アシュベルク軍は一向に動く気配がない。

 それは、ミカエルが制限しているわけではない。

 ただ、先ほどの戦いの刺激と情報が多すぎて、頭で処理し切れていないのだ。


 ミカエルは、そこにふかふかのベッドを出して置いた。

 魔法で出したものだが、その品質は折り紙付きだ。


 そして、インベルをそこに横たえる。


「……結界、解除。魂の掌握を開始。並行して、先程まで体を動かしていた物体の解析を開始。……魂の掌握完了。解析結果……「狂心」?」


 解析結果が、ミカエルの予測と違った。

 この暴走状態は、魂の奥底に眠る「悪意の自我」が起こしたものであったと考えていたのだが……「狂心」?


 狂心?


 そこかで聞いたことがある。


 確か、2万年以上昔のことだ。


 レインが、ニクスが「戦場の火悪魔」と呼ばれるようになったのは、ある精神状態があったからだと。

 それこそが「狂心」といって、人を殺すことを厭わぬ、恐ろしいものなのだと。更には、自我が微かに残っており、ある程度コントロールすることが出来るのだとか。


 ニクスのみだったはずの精神状態が、何故インベル様(マスター)に?


 ニクス、レイン、フェネ、インベル……。


 その時、ミカエルの考えの中に、ある可能性が浮上した。

 まだ可能性ではあるが、成果に近いと考えられるもの……。


「二人の雨の子、か」


 


やっと二章終わりそうです。

さあ、ここからどう動いていくのでしょうか。

あまり期待せずに待っていてください。

最後に、感想などなど、よろしくお願いします!

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