027 知識のミカエル
本日二話目になります。
約束破ったお詫びです。
その時、司書……いや、知識のミカエルは、無限の闇の中にいた。
ここは……。
ああ、精神世界か。
主人は、死んだんだった。
ミカエルは、思い出す。
主人が、術式によって死に絶えたこと。それはそれは完璧な術式で、文句のつけようがなかったこと。
また、放浪の旅が始まった。
ミカエルにとって、レインと過ごした約二万年は、一瞬に過ぎなかった。その何百倍もの時を生きてきたミカエルにとっては、塵ほどの価値しかない時間だったのだ。
そして、数百年の後、ミカエルは見つけるのだ。
宿るべき魂の輪廻を。
ある世界で老衰で死んだ老婆が、闇の中で「千葉さつき」と言う女性の腹に宿ったこと。
その女性がやがてその子を産み落とし、「水月」と名付けたこと。
その女の子が十四歳で自殺したこと。
そして、輪廻の輪を潜り抜けたこと。
おかしい。
なぜ、これ程にありふれた人間の輪廻が、こんなに痛烈に印象に残るのか。
インベル・シードゥストラ。
彼女は輪廻の先で、そう呼ばれることとなった。
*
《飛翔術式を使用します。最適解により管理しますので、攻撃をしてください》
……ええ。
「氷華大乱」
氷の華が咲き乱れる。
咲いては砕け、砕けては咲いていく。
まあ、こんな物で仕留められるわけがない。小手調べだ。
フェネがインベルの方を見る。
……インベルは、一歩も動いていなかった。
「……身体強化だけで防げるのね……。成長した物だわ」
「炎華よ、咲え」
今度はインベルのターン。
炎の華がフェネの周りに咲き誇る。
《身体強化にて防御……成功。続いて、反撃に移ってください。「蒼珠」からの「風炎斬」を推奨します》
「蒼珠」
フェネが鍵の言葉を口にすると、何処からともなく水が現れ、インベルの周りに珠を作った。
「風炎斬」
そして、それを炎を纏った風が吹き飛ばしていく。
人間なら、骨すら残らない猛攻なのだが……。
「蓮花」
《回避行動を選択》
元々フェネがいた辺りに、眩い光の蓮が咲いた。
恐らく、これに当たっていたら、肉体は吹き飛んでいただろう。
魂への干渉効果も入っていた可能性がある。
高度な魔法の打ち合い。
それは常人に理解できる範疇を超えていた。
「おい、あれ、何やってんだよ?」
「副将……俺にもさっぱり……」
イラルドがそこら辺の部下に聞いてみるが、期待していた答えは返ってこなかった。
「やっぱりか……。俺もさっぱりだ」
「雨水即発」
《当たると魂が吹き飛びます。回避します》
……魂吹き飛ぶって……。
っていうか、この幾千もの雨粒をどうやって避けるって言うの⁉︎
《座標演算……完了。転移します》
え?
転移?
フェネがそう思った時には、雨粒の範囲外に転移していた。
これも、インベルの術式?
いや、そんな訳はない。
戦いの少し前に飛行魔法を開発したと喜んでいたのだ。そんなすぐ、移動系の最上位とも言える転移魔法を開発するとは思えない。
《主人の術式ではありません。私が自己流で今開発した物です》
……今?
《はい。正確にいえば、三秒前、です》
……あなた、誰なの?
能力が最適演算をするのはまだ納得がいく。最適行動などの能力は聞いたことがあったから、信じられるのだ。
……しかし。
主人の自我がほとんどない今、その能力が自分で考え、行動する?
それも、許可なく、演算し、最適化された術式を一瞬で開発する?
転移魔法を?
最上級能力でもそんな話は聞いたことがない。
となれば、あなたは……。
《……バレたのなら致し方ありません。私は、十字熾天使が一柱、「知識」のミカエルです。能力の最終覚醒体であり、世界に四体のみ存在する天使の名を冠する者。序列一位のミカエル、それが通称です》
その瞬間、フェネの意識が途絶えた。
戦闘中に、思いっきり気絶したのである。
《致し方ありません。……フェネさんの身体を使用し、攻撃及び防御を行います》
その瞬間、フェネの黒い瞳が蒼く光った。
そして、感情が抜け落ちたかのように動き始める。
「……問題なし。演算通り、遂行します」
それは、初めて物質世界に響いた十字熾天使の声。
十字熾天使、即ち、究極の力。
自我を持ち、精霊や悪魔、天使といった精神世界の生命体とほとんど同じ存在とされる。
しかし、その権能はそれらにはまったく及ばない。
例えば、演算能力一つとっても、それは「格」からして違うのだ。
自我のない天才魔導師と、自我を持つ究極の能力の戦いが、ここで幕を上げた。
ブクマ一件増えるだけで死ぬほど嬉しがります。