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蒼き髪の魔術師  作者: ゆず
第二章 大国大戦ノ章
23/33

021 二組の惨状

 二組の戦いは、拮抗のまま続いていた。

 それぞれ、自分が本気なのか、そうでないのか、それを相手に悟らせる事なく、攻撃を続ける。


 その内、一組に動きがあった。

 エルムの組だ。


「ハハハッ! 面白いねえ! 僕相手にここまで出来るんだあ! 正直見縊ってたけど、それはどうやら馬鹿だったみたいだ」

「笑わせるな。まるで自分の方が確実に強いかの様な言い方をする」

「だってそうなんだもん」

「……まあ良い。この試合でわかる事だ」

 そう言い放ち、エルムは攻撃の手を速める。

 そして、それに見事に順応して見せるその男。

 双剣使いであるエルムの攻撃を、剣一本で捌き切るその技量。とても只者とは思えない。

「そろそろ、終わりでも良いかな」

 急に、その男が呟く。

「なんだと?」

 一瞬の沈黙の後。

「……棺桶の飾り花」

 その言葉が紡がれた瞬間、エルムの周りに光が満ちる。

 柔らかく、暖かく、穏やかなその光。

「美しい光の中で、散ると良い」

 それは、死者への手向けの言葉。

 その光で死ぬ者への、せめてもの葬送。


「待てっ、私は、まだしぬわけには––––」


 そう叫ぶ彼女に、幻覚が見える。

 幼き自分と、戦争で亡くなった父に、敵兵に殺された母。


 彼女がまだ人間だった頃に見た、尊い家族の姿。


「––––エルム。こっち––––」


 どっち?


 そう彼女は思う。


 ……私は、死んで良いのか?

 師匠を置いて、死んで良いのか?

 向こうに、行って良いのか?


 両親を亡くし、街でゴミを漁り、空腹に泣いていた私のもとに歩み寄って、師匠––––フェネ・シードゥストラ––––は言った。

「……泣きなさい」

 と。

 ……誰かも分からない赤の他人だった師匠に抱きつき、私は思う存分泣いた。


 そして、師匠は、私を家に連れ帰り、たくさんの料理を出してくれた。

 ステーキや、ハンバーグ、魚、野菜、果物。

「どれが良い?」

 と師匠は聞いた。

 どれにしようかなあ……?

 と、まだ幼かった私は悩んだ。

 ステーキなどは、あまり豊かな家庭ではなかったから、食べた事はなかった。

 そして私は、食べ慣れて、とても美味しいことを知っている、その食べ物を見つけた。

「ぱんにする」

 と、私はこんがり焼かれたトーストに手を出した。

 普段は何も付ける事がなかったが、誕生日などに、たった数回、パンにバターを塗った事があった。

 とても美味しくて、幸せな気持ちになったのを覚えている。

「ばたー、ぬる」

「塗ってあげようか?」

「……じぶんでぬる」

 師匠は、そのあと何も言わず、私が塗り終わるのを静かに見守っていた。

 そして、十分ほど四苦八苦して、やっとバターを塗る事ができたのだ。

「冷めちゃったんじゃない?」

 と、師匠は聞いた。

 私は、一口かじってみる。

「ぬるい」

 そう言うと、師匠は魔法でトーストを温めてくれたのだ。

 そして、私は途端にその師匠が使った魔法に興味を示した。

「それ、なに?」

「魔法。……先に食べた方がいいと思うよ?」

「あ、ぱんまたさめる」

 そう言い、私は再びパンをかじった。

「パン好きなの?」

 と、師匠は聞いた。 

 私は、静かに頷く。

「そっか。じゃあ、朝ごはんはパンにしよっかな」

 と、師匠が呟く。


 その日からだった。

 私がどんどん美味しいものを食べさせてもらえる様になったのは。 

 ステーキや、お魚、野菜のサラダも美味しかった。

 そして、幼かった私は単純で、その美味しいものと、パンを融合させようと試みたのだ。

 成功したものもあれば、大失敗に終わったものもある。

 そしていつしか、朝ごはんの時、トーストの横に用意されるものが、バターやジャムやチーズにハンバーグ、と、増えていったのだ。

 それは、今でも変わらない。

 私が大人になっても、変わらなかった。


 ……優しい師匠。

 ……厳しい師匠。

 ……怒った師匠、はあんまり見た事がないけれど。


 大事な師匠。 

 私は、まだ死ねないのに。


 師匠、助けて。

 師匠––––。



「其方、中々やるな」

 地面に転がるソプラを見て、副将イラルドが言う。

「ハハッ、これ位でやられていては、王位の名が廃ると言うもの……」

 そう言うソプラに歩み寄り、その胸ぐらを掴む。

「だが、其方では私には勝てない」

「知っているさ。もう痛いほど痛感した。……だからこそ、一矢報いてやりたい」

「……それも叶わぬのなら?」

 その問いに、ソプラは考え込んだ。

 そして、結論を出す。

「……その時は、インベル様に挨拶をして、大人しく散る」

「……精神世界の身体も消すぞ?」

「構わない。そこは根性論だ」

 そう言うソプラの頬を、涙が伝った。

 ソプラ自身も、分かっている。

 そんな事あり得るわけがない、と。

 根性で、そんな事が叶うわけがないのだ。


 しかし、それでも。

 ただ、一つ、乞い願うとするならば。


 インベル様。

 どうか、助けてください。


 その、一言だけだ。



 《宣告します。ソプラ、エルム両名に、危機が迫っています。両名の命が尽きるまで、約一分と推測––––》



少し遅くなりました。ごめんなさい。

ソフトがちょっと調子悪かったみたいです。

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