017 飛行魔法
現在、豊穣国アシュベルクの「シルフの森攻略部隊」は、無属の地との境を越え、ミラル川に差し掛かっていた。この川を越えれば、森は目と鼻の先だ。
部隊を率いるマルス将軍は、この戦の勝利を確信していた。
攻略部隊には、アシュベルクの精鋭部隊、「王宮騎士団」が組み込まれている。騎士団に敗北の二文字はなく、常に戦を勝利で飾ってきたのだ。
また、後方支援部隊として王宮魔術師団も編成されている。怪我人は直ぐに魔術師団によって治療を受け、戦場に復帰できる体制となっていた。
アシュベルクが誇る騎士団と魔術師団がいれば、勝利は揺るぎはしないのだ。
将軍は、そう信じてやまない。
しかし、頭の片隅に、ある言葉が浮かぶ。
精霊の聖地に、手を出してはいけない––––。
幼い頃、両親から散々聞かされた言葉だ。
シルフの森は、精霊の聖地だ。
……だが。
それでも、こちらの勝利は、揺るぎない。
彼は、もう一度信じなおし、自分の後ろに続く部隊の士気を高めるため、声を張り上げ、アシュベルクの勝利を神に祈る。
神に裏切られる事はない。
彼は、そう信じてやまない。
彼の行先にいる者が、神の力の権化のような存在だったとしても。
私は、来たる戦いの日のために、ある術式の開発に着手した。
実は前から研究してきたが、実用化までは至っていない術式なのだ。
「飛行魔法」。
誰しもが、一度は夢見るであろう、憧れの魔法。
……なのだが。
これがまた難しいのだ。
どうしても術式がだらだらと長くなってしまって、実用化には程遠いのだ。
《主人》
何でしょう、司書さん?
《この術式は、八割が不要な部分であると考えられます。よく吟味することを推奨します》
……八割?
いやいやいや、そうならそうと早く言ってくれよ!
馬鹿みたいに試行錯誤しちゃったことになるじゃん!
…………。
いや、こういう時だけ答えないってずるくない?
……ま、良いけどさ。
で、不要な部分ねえ。
……あ、ここの文全部要らんわ。
よく見れば、ほぼ要らないとこだし。
やっぱり、司書さんはいつでも正しいんだな。
と、言うことで、飛行魔法の完成です。
いやあ、もう二百以上術式を作ってるもので、慣れちゃったんですよ。
また師匠にため息つかせちゃうかもなあ。
《……主人のその言葉から、反省の意図は読み取れませんでした》
……司書さん、余計なこと言わなくて良いから。
《……しかし、主人は、毎回この類の会話を楽しんでいるように思います》
……言わなくて良いから。
《了解しました。次からも、しっかり言わせていただきます》
よしよし、しっかり……。
え⁉︎
おい、司書さーん!
……全く、困った能力である。
「……飛行魔法?」
師匠が固まっている。余程凄いことなのだろうか?
「……呆れた。私でも使えないのに。これまで、飛行魔法を我流術式として取り入れたのはニクス・ウェールだけよ?」
「マジですか」
「マジよ」
いや、これはかなりやっちゃったかもしれないな。
妄想力が暴走して師匠でも使えない魔法生み出しちゃったか。
「……あのねえ、いい加減自覚しなさい。あなたは、最早魔法の創作の面では私を越えたの。美しさでも、魔力保持量でも、既に負けてる。後は、努力から来る技術が残るのみよ」
「技術っていうのは、つまり魔法を操る力ってことですか」
「……まあ、そうなるわね」
魔法を操る力、か。
私は、近々練習室を貸切にすることを決めたのだった。
ちょっと短めですが、次は割と早めに書きあがりますので少々お待ちください。