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蒼き髪の魔術師  作者: ゆず
第二章 大国大戦ノ章
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016 戦前の悩み

※残酷な表現が有ります。苦手な方はご注意下さい。

「カネレ、入るわよ!」

 その言葉と共に、カネレ・シルフィードの自室の扉が開かれた。

 彼女を呼び捨てで呼べるのは、同じ天位精霊か、全ての精霊を纏める「精霊の盟主」、後は本人が許した者のみである。そして、声から推察するに、

「あら、クレア、どうしたの?」

 同格である、風の精霊シルフ天位クレア・シルフィードその人であった。

 声から、カネレの態度に見合ったような甘い用事ではない事は容易に想像できた。

「どうしたの、じゃないのよ! 見張りに出してる子が、アシュベルクが進軍を開始したって言うのよ!」

「……森に向かって?」

 カネレの問いに、クレアは頷き、更に言葉を続けた。

「その数、三万二千。その約半分が精鋭部隊よ」

「アシュベルクの誇る一万五千の精鋭部隊、と」

 実は、カネレは、アシュベルクが戦闘態勢に入った事は知っているのだ。

 そして、シュアル王国が、数百の騎士を動かしていることも。

 狙いは、明かにシルフの森。

 ……そして、きっと森の恵みだ。

「……数千年ぶりかしらね、馬鹿な人間が攻め入って来たのは」

「そうね。……来るからには、戦わなきゃいけないわ」

 向こうは、約三万二千で、その内約半分が精鋭部隊。

 対してこちらは、下位精霊が約二万に、中位精霊が五百、上位精霊が百、王位が十、天位は三人。それからフェネとエルム、恐らくはインベルも、か。

 足りる。足りすぎて困るくらいだ。

 それに、アシュベルクのあの王が、即時に判断するだとか、そういう決断を素早くできるわけがない。

 そもそも、聖地が人間に侵されそうになった場合、精霊の盟主の直轄部隊の指揮権を一時的に貰うことが出来る。

 直轄部隊は、全員が上位精霊の中でも比較的実力がある者が厳選される。

 その数は百人と少し程度だが、この世界の戦は数ではない。質だ。

 どれだけ良い能力スキルを持っているか。技術はどうか。知識はどうか、など、様々な要素が絡み合って実力となる。

 そして精霊は、上位ともなると、人間が作った階級で表すとBランク。単機で町の破壊が可能なほどの戦力となる。それが百人。これだけでも大戦力だが、ここに更に王位や天位も入る。

 しかも、下位の精霊ですらD +、Dランクよりも少し強い個体となる。Cランクが単機で集落を破壊可能なほど、とされていることを考慮すると、二、三人いれば集落の破壊は容易となる。これらが約二万人。

 対して、軍隊というのは大国であっても、個々のレベルは脅威となるほどではない。大概の兵士がCランク。班長レベルでC +。そして、小国が滅びるほどの力を持つAランクの者は、総司令官クラス。強くてもA +ほど。多くても一つの軍に二人か三人。

 そして、カネレたち天位精霊は、Sランクとされる。魔王に匹敵し、大国を滅ぼすことができるレベル。

 これが、三人。そして、フェネは大魔導師と呼ばれるだけあり、S +ランクを誇る。インベル、ソプラ、エルムの強さは未知数だが、Aランクに届いている事はほぼ確実。

 そして、精霊は、本来精神世界に存在している。魔法使いと同じように、精神世界の身体を壊されることがなければ、永遠に不滅なのである。

 これが、カネレが攻めてくる人間を「馬鹿」と罵った理由の一つであった。

「クレア、フェネへの連絡は私がやるわ。あなたは、盟主様への救援要請と、軍の招集を。それから、テネルには諜報を任せましょう」

「それが良いわ。……お互い頑張りましょう、カネレ」

「ええ、変な失敗をして負けないようにね」

 二人は笑い合い、そして別れる。

 絶対的な勝利の自信を胸に抱きながら。


「あらカネレ、何かあったのかしら?」

 師匠が、机の上の魔導書に目を向けたままそう言い放ち、やがてゆっくりと顔を上げた。

「フェネ、久しぶりの戦よ。相手はアシュベルク」

 窓からカネレさんが姿を現し、私たちにそう告げた。

「……馬鹿ね」

「ええ」

 ……馬鹿?

「ふふ、はてなマークな感じね。あのね、精霊も精神世界に身体があるの。これで理解できるかしら?」

 ああ、死なない、ってことか。

「理解できた感じね。ああ、それからあなたにとっては初陣になるからね。それ相応の覚悟をしておくこと」

 覚悟?

 カネレさんに視線を向けたが、軽くかわされてしまった。

「まあ、腕試しとしては丁度いい時期よね。我流術式オリジナルマジックの開発も順調みたいだし」

「へえ、もうそこまで行ったのね。エルムは数年かかったのに」

「……インベルが異常なのよ」

 師匠が諦めたように呟く。

「ふふ、まあいいじゃない。早いに越した事はないんだから」

「そうかしらねえ……」

「ところで、インベルはどんな術式を立てるの?」

 カネレさんがそう聞くと、師匠はため息をつき、答えた。

「……常人には使えない術式よ」

「……どういうこと?」

「魔力消費が激しすぎるものばっかり。この子は美しさが第一らしいわね、贅沢なことに」

 ふふふ、実は、そうなのだ。

 私は、器が大きい上に、魔力吸収の効率が馬鹿みたいに良い。

 多少の魔法を使ったくらいでは、魔力が底を尽きる事はないのだ。

 なので、私は、ひたすらに美しさを追求している。

 水滴に結界を付与し、そこに炎をつけて雨のように降らせるものとか。因みに結界は、火が消えないようにだ。

 後は、花弁に毒や麻痺などの異常を付与し、天空から舞うように落とすもの、結界で日光の遮断と外界との隔絶を行い、その中に百合を生やし、植物と本人の呼吸により酸素がなくなり、死をもたらすものなど。

 それらの術式は、約二百にも及び、現在進行形で増加中であった。

 司書さんの知識のサポートと、私の妄想力により、かなりはちゃめちゃなものとなっていたのである。

「じゃあ、今度の戦でお披露目になりそうかしら」

「……カネレ、その事なんだけど……。大丈夫かしら?」

「……私は、可能性は低いと思うわよ?」

「…そう、なら、良いのだけど」

 二人が問題として考えている事、それは、インベル、ソプラ、エルムが、人を殺したことがない、という事だった。

 ましてや、インベルが前世いた国などは、戦がなく、平和な国だったという。

 戦となれば、人を殺さねばならない。フェネですら未だその罪悪感に慣れてはいないのだ。……いや、慣れてはいけないのかもしれないが。

 ……人を殺した事がない者が、人を殺すと、どうなるのか。

 それに関しては、二人はよく知っていた。

 ……狂うのだ。文字通り。

 罪悪感と、後悔と、少しばかりの快感。

 ましてや、魔法など剣とは違って、自分の身体に、刺した、という感覚がくるわけではない。剣は、その剣を伝わって肉の感触が生々しく押し寄せるが、魔法はそういうわけではない。炎によって焼き尽くしても、水によって窒息させても、実感はない。故に、快感が強いのだ。

 罪悪感が薄いために、快感が強い。

 ……実のところ、フェネやカネレは、人殺しが嫌いではなかった。何故か、と聞かれれば答えに困るが、とにかく、嫌いではないのだ。

 ……カネレは否定したが、フェネは今回の戦にインベルを出して良いのか迷っていた。

 その理由は単純。

 まず、思想が違うからだ。

 インベルの前世では、人殺しは問答無用で悪だったらしい。……しかし、こちらはそういうわけでもない。戦では何万人もの命が散る。

 そして、貧民街では、人殺しは毎日起きる。

 それが裁かれる事はなく、それが当然と、全員が受け入れているのだ。

 思想が違う分、彼女が背負う罪悪感は大きくなるはずだ。

 ……だがしかし、この世界で生きるためには、人殺しも必要なのである。

 その人にも大切な人がいるだとか、もうすぐ生まれる子供がいただとか、結婚の約束をしていただとか。そんなものは弱いことの言い訳にはならない。

 ……この世界は、常に非情なのである。


 彼女が、その罪悪感に呑まれやしないだろうか。

 ……それが、フェネ・シードゥストラの一つの悩みとなったのである。


思いっきり風邪引きました。

頭は痛いわ咳は出るわで辛いですが、何とかやっつけます。

皆様も風邪にはお気をつけくださいませ。

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