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蒼き髪の魔術師  作者: ゆず
第一章 技術向上ノ章
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013 彼女の正義

 話を聞くと、光の最上位精霊は、一人しか存在しないのだそう。

 姿を現すことすら稀で、ましてや契約精霊になるなど、聞いたことがないのだとか。

 高等技術を持つ魔導師ですら会ったこともないのが通例で、存在すら否定されることもあるらしい。もちろん、師匠も会ったことなどなく、未だ信じていない様子だけど。

 光の最上位精霊の登場により、天位精霊二人に王位精霊五人、その他は上位という異例中の異例の召喚結果は、あまり注目されることはなかったのである。


 夜風の心地よいテラスにて、その者たち––––フェネ・シードゥストラとカネレ・シルフィード––––は、小さな会談を開いている最中であった。

 彼女達の後ろにはエルム、という女性が控え、彼女達の紅茶の給仕をしている。

 彼女達は、それぞれ十杯以上も紅茶を飲んでおり、その会談が如何に重要性のある物で、長きに渡って行われているかの表れであった。

 実は、彼女達の会談が始まったのは、まだ日も暮れ切らぬ頃である。

 そして、今、満月が西の空に沈もうとしている事から考えても、その会談の長さには驚くという物である。

 そんな二人の会談の議題は、言うまでもなく、インベル・シードゥストラの契約精霊の事だ。

 当の本人は、既に自室で眠るように言ってある。

 何故かと言えば、彼女がまだ子供だからであるが、実際のところ、彼女であれば、膨大な精霊の力を操ることができるだろうと、二人は考えていた。

 それは、彼女が、年齢に合わず、精神的にも身体的にも強く、我慢が出来、そして何より肝が据わっている事から見れば当然の考えであった。

 彼女は、これから、どんどんと成長するだろう。数多ある魔法術式を覚え、数々の実戦を積み、技術を高めて。

 そして、恐らくは、自分達よりも永い時を生きるのだろう。それこそ、永遠に等しいかもしれない。

 しかし、それは、彼女にとって幸せなのか?

 彼女は、自分の運命を知り、泣いた。……しかし、その後に「心臓の翼」を使うか、と聞いたら、否、と答えたのである。

 そんな彼女の選択に、二人は文句を言うことができない。

 しかし……、消滅するならば、今なのだ。

 のちのことに責任を持っているわけでもなく、配下も、一人のみ。そして、その存在は、二人が全力で秘匿している。

 この先、生きることが幸せでないなら、彼女を、消滅させた方がいいのか?

 その最終選択を、そろそろせねばならない。

 ……その二人は、悟っていた。

 彼女が、自分達をも越し、いずれ魂消しに抗えるようになるだろう、と。

 自分達が始末してしまうなら、今しかない。

 その時期を過ぎれば、彼女が心臓の翼を使う以外に消滅する方法がなくなる。

 他者が、彼女の生に関わることができなくなってしまうのだ。


 彼女よりも強い、「転生者」が現れぬ限りは……。


 ……そして、結論は出た。

 今一度、彼女に聞いてみるべきだ、と。


 そして……、朝が訪れる。


 私の部屋に、柔らかな光が差し始める。

 一日の始まり。

 起床。

 着替え。

 美味しい朝ごはん!


 私は部屋を出、ダイニングルームへと向かう。

 もう迷わないだろうと思ったのだが、自分の部屋の前に戻ってしまった次点で駄目だと悟った。なので、記憶力の良い司書さんに道を教えて貰いつつ、やっとダイニングルームに辿り着くことが出来たのである。

 司書さんは、能力スキルとしての効果だけでなく、その知識量が凄まじく多い。知識面でもとても重宝する存在なのだ。

「あら、今日は早かったわね?」

 ……実は、昨日はまだ司書さんの便利さに気がついていなかったのだ。故に三十分も屋敷内を彷徨う羽目になったのだが、今日は十分程度で済んでいた。

 エルムさんから聞いた話によると、八割の部屋は使われていないのだとか。

 そこも、師匠の性格が出ていると言うことなのだろう。

 ……私にとっては迷惑でしかないが。

「今日は、パンとサラダ、野菜のスープに果物です」

 この屋敷、パンの扱いがとても良いのだ。

 ちょっと訳がわからないかもしれないが、本当にそうなのである。

 パンに載せるジャムは十種以上。ピザトーストや惣菜パンの具材は驚愕の三十種。おまけにマーガリンやバターは塗り放題。ついでに言うとパンは焼きたて。

 素晴らしい。実に素晴らしい。

 ……しかし、四人しか食べる人がいないのに、部屋の端にその具材達が並んでいるのはなかなか滑稽なのだが。

 しかも、朝食が済むと、師匠が結界を張り巡らせる。その内部は時間経過が関係なくなり、ほぼ永遠に保存が可能。

 その具材達の中には、数十年食べられていない古参もいるらしいが……。

 それだけ人気がない、と言うことなのだろう。悲しい現実である。

「ご馳走さま」

 師匠がそう言うのだが、いつもと違う。

 師匠は、自分が食べ終わると、紅茶を持ってきて私達が食べ終わるのを待つ。

 しかし、今日は、席から立たずに、何やら真剣な顔で考え込んでいるのである。

「……インベル」

 突然名前を呼ばれたものだから、はいともいいえとも言えずにいると、私の返事を待たずに、師匠があることを問うた。

「あなたは、本当に死ぬ気はないのね?」

 …………。

「このままだと、あなたは、魂消しに抗える術を身に付けると思う。それは、私ですら習得していない究極秘術。でも、あなたなら、きっとすぐに出来てしまうと思うの。……何の話がしたいかと言うと、私が、あなたを消して差し上げましょうか、そう言う話」

 …………。

「……さあ」

「……どういうこと?」

「……私にも、わかりません。死んだ方が幸せかもしれない、とは思いますが、折角貰った二回目の人生だし、蔑ろにはしたくありません」

「……あのね、あなたが魂消しに抗うということは、他人があなたの生に干渉できなくなる、ということなの。あなたが、大きな罪を犯しても、他人は断罪出来ない。……それって、とても辛いことなんじゃないかって、思うのよ」

「……正しさって、誰が決めるんでしょうね」

「……え?」

「私、前世で自殺したことは話しましたよね? それって、もう訳わかんなくなったからなんです。正しさとか、正義とか、善とか悪とか。そういう言葉が訳わかんなくなって、自殺したんです。けど、今考えてみたら、何で悩んでたんだろうって。過去の自分の考え方が、こんなに理解不能になったのは初めてで。……この世界に来て、私はほぼ永遠を手に入れたから、ある意味で自殺は失敗したかもしれないです。でも、生きる価値は、理解できたような気がします」

「生きる、価値」

「誰にだって、正義はあるんです。私をいじめた子にも、もちろん私にも。ヒーローにも、悪党にも。愚王にも、賢王にも。正義って、自分にとっての正しさ=理想=美しさのことなんだなって。他の人は違うかもしれないけど、それもまたその人の正義なんだって。だとしたら、美しくあることが、正しいことなんだって。反対に言えば、自分に正しくいれば、それは美しいんだって。そういうことかなって」


「美しく生きます。私にとっての美しさは、死ぬことじゃなかったみたいだから」


結構お気に入りの回になりました。

最後のインベルさんの言葉は私が考えてることそのまんま代弁してもらいました。

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