012 精霊召喚
書けちゃったので投稿しときます。
明日こそお休みもらいます。
「じゃあ、ここまでにしましょうか。魔導書の内容の確認なんてしてたら、きりがないから」
師匠は、魔導書を閉じながら、そう言った。
「……師匠」
「何?」
「……今の内容だと、火を扱うには精霊と契約しなきゃなくないですか」
「ええ、そうよ」
それが何か?と言うような調子で師匠が肯定する。
「何か、知識を身につけて魔力の扱いを覚えたら、魔法は使えるみたいな雰囲気だったんですけど?」
「……それは、ね、気のせいよ、そう! 気のせい!」
…………。
驚愕で、言葉に詰まる。
そして、私は思うのだ。
ああ、やっぱり師匠はお茶目なんだな、と。
そして、新たに天然も追加しようと心に決めたのだった。
「次は、魔力の扱いについて。……と、言っても、あなたには容易いことでしょうけどね」
そうですね、とも、そうでもないと思います、とも言えないでいると、師匠が、魔力を出して見せた。
「これが、物質世界に出した魔力。これは、以前あなたも出来たわね」
私が頷くと、師匠は、その魔力を体内に戻し、言った。
「……正直言うとねえ、魔力の扱いなんて、結界張れればそれで良いのよねえ……」
「……え?」
「いや、本当よ? だって、物質世界に出した魔力に、属性を付与して放つのが魔法なんですもの。物質世界に出して、結界を張る程度のことができれば、何も問題ないのよ」
思わずツッコミを入れたくなるのを抑えつつ、私は言った。
「じゃあ、後、精霊と契約しなきゃないんじゃないんですか?」
「そうなのよ。でもねえ、正直、面倒くさいのよねえ……。風属性だけならカネレのところで済むのだけど、全属性だと、歩きで一月かかるのよ」
「一月……?」
私は、かなり困惑した。一月もかかるのは、確かに面倒だ。召喚でも出来ればいいのに。
「……あ」
突然、師匠が何かに気づいたような声を上げた。
「私、召喚魔法使えたんだった」
私は、心底呆れてしまった。
それもしょうがないと言うものである。
自分の使える魔法を忘れるとは。
やはり、師匠は天然なのだ、と、再認識したのである。
この屋敷には、召喚の部屋があるのだと言う。本来はなくても良いのだが、部屋が余っていたので適当に召喚部屋にしたそうだ。
おかげで、ほとんど使われることなく数十年放って置かれていたらしい。
扉を開くと、埃が舞い上がったのが、その証拠である。
「いやー、ちゃんと掃除しとけば良かった」
という師匠の呟きが聞こえたが、きっと今後も掃除されることはないのだろうと悟った。
師匠は、部屋の中へと進み出ると、風を操り、部屋中の埃を隅に寄せた。かなりの高さの小山になっているので、数十年、と言っても、二十年などではなく、七十年、八十年なのだろうと推測できた。
書斎同様、この部屋にも、入り口以外に扉が一つ付いている。
師匠は、その扉を開け、中から杖を引っ張り出してきた。
銀色の持ち手に、金色の天球儀のようなものがつき、その中心には、青いクリスタルが固定されている。
さっきの師匠の様子からは想像できないほど、その杖からは尋常ではない力を感じ取ることができた。
師匠の力の一端を見たようで、少し不思議な気分になる。
師匠は、部屋の中心に歩み出ると、杖の先端を床に勢い良く打ち付けた。
カーン……という音と同時に、師匠を起点とした、部屋いっぱいに広がる魔法陣が起動した。
魔法陣は、白い光を放ち、そこには、訳の分からない文字や、幾何学的模様が浮かび上がっている。その光が、いつの間にか光の遮られていた部屋を、神秘的に演出する。
「万物を司る精霊よ、我の召喚に応えよ。我は、精霊の御力を欲するものなり。我が願い、聞き届け給え。現れよ、精霊達の宴」
それは、先刻のふざけた師匠ではなかった。
その顔は、完全に魔法使いの目をしていて、思わず見惚れてしまうほど、美しかった。
「インベル、こっち」
師匠が、手招きをしているので、魔法陣の真ん中に進み出る。
魔法陣の中に足を踏み入れると、凄まじい力に、一瞬怯む。
「大丈夫。真ん中まで来て」
師匠に支えられながら、魔法陣の中央に歩み寄った。
「祈って」
そう言われ、私は手を組んで祈りを捧げた。
すると、部屋の天井から、様々な色の光の珠が十一個、降って来たのだ。
すると、脳に直接語りかける声が聞こえた。
(なんか、凄い力を感じたから、来てみたよ! 僕の力、存分に使って)
その言葉と同時に、脳裏に、また一つ、珠が浮かび上がる。
その紅い珠には、「四大元素に基づく炎の精霊サラマンダー王位レクス・サラマンダー」と文字が浮かんでいる。
……王位?
(あら、先駆けですの? レクス、いい加減に無駄な競争心を捨てたらどうなの? ……あら、ごめんなさい。貴女のこと、忘れてしまっていたわ。これから、よろしくね?)
もう一つの紅い珠には、「五行に基づく炎の精霊王位レーギーナ」、と。
(あちゃー、先越されちゃった。まあ、いいや。インベル、これからよろしく!)
黄色の珠には、「五行に基づく金の精霊上位アウルム」。
(お、私の席は……残ってるな。……よし、これからよろしく!)
茶色の珠に、「五行に基づく土の精霊上位テッラ」。
(テッラ、こんな凄い力の持ち主なんだったら、俺の方が役に立てるさ。俺のこと、贔屓にしてくれよな!)
もう一つの茶色の珠には、「四大元素に基づく地の精霊ノーム王位エブル・ノーム」。
(私、お役に立てるよう、頑張ります!)
「五行に基づく木の精霊王位ウィリデ」、と。
(あらら、もう皆さんお揃いなの? ふふ、私も混ぜて貰おうかしら?)
「五行に基づく水の精霊王位カルレム」。
(あら、カルレム、私を差し置いて契約するなんて。身の程を弁えた方が宜しいのではなくって?)
「四大元素に基づく水の精霊ウンディーネ天位サピュルス・ウンディーネ」と。
(フェネ、貴女の愛弟子には、私が付いてあげないとね)
「四大元素に基づく風の精霊シルフ天位カネレ・シルフィード」。
カ、カネレさん⁉︎
何やってんですか!
(あら、嫌なの? 因みに、風の天位精霊なら、私が一番強いのよ?)
そ、そうですか。
あ、ありがとう、ございます。
(ふふ、どういたしまして)
「終わった、かな」
師匠が、安堵の声を上げる。
(まだまだ終わっちゃいないよー!)
……え?
(僕は、光の精霊最上位レーギア! 僕が来てあげたんだから、消失なんてしないでよ?)
「光の精霊最上位レーギア」、と。
「ひ、光の、最上位……?」
師匠の反応を見るに、やばいやつらしい。
(ははは、びっくりしちゃったかな? でもね、この子には、強い光の力を感じたんだ!)
「ありえない、絶対、ありえない」
あ、師匠が現実逃避に走った。
(フェネ、落ち着きなさい。あなたが取り乱してどうするの)
カネレさんが、師匠に声を掛ける。
「だって、信じられる⁉︎ 光の、それも、最上位よ⁉︎」
(しょうがないじゃない、もう契約は済んじゃったんだもの)
「カネレ、だって……」
結局、そこから師匠を慰めるのが、一番手間が掛かりそうなのでした。