第3話 ヒロイン描写して、物語が進む
ヒロインの話!
俺たちは街外れの公園まで逃げた。
ここまで逃げれば兵士も追ってこないだろう。
「ハァハァ・・・君、大丈夫か?」
俺は肩で呼吸をしながら、少女に声を掛ける。
だが驚いたようにこちらを見るだけで、答えない。
「あぁ、そうか」
俺は、気が付いて再び【翻訳】スキルを発動する。
『大丈夫か?俺はカロだ。怪しいもんじゃない』
俺の言葉が聞こえたようで、彼女は途端に安堵の表情を浮かべる。
『あなた・・・私の言葉が分かるんです、ね・・・』
そう言うと彼女はまた目に涙を浮かべ始めた。
『あ、おい。ごめん泣くなって。俺、あいつらももう追ってこないから大丈夫だぜ?』
俺は必死で慰める。
だが彼女は泣きながら首を横に振った。
『違う、違うんです。確かにさっきの人たちは怖かったけど・・・、それ以上にこの世界で人と話したのが初めてだったので』
彼女は言った。
『この世界でって、どういうことだ?』
俺は尋ねる。
『わ、私にもよく分からないんですけど・・・私は魔王を倒すためにこの世界に召喚された、勇者、らしいのです』
彼女はゆっくりと話始めた。
彼女の名前は、二宮日向<にのみや・ひなた>。
高校二年生。
下校途中にトラックに引かれ、
目が覚めると、目の前に神と名乗る老人がいた。
神によると彼女が死んだのは神の手違いで、
お詫びにと、異世界への転生を打診される。
しかたなくそれを承諾するが、
ついでに転生先の世界で悪事の限りを尽くす魔王を
討伐して欲しいと頼まれてしまう。
頼まれたら断れないタイプの彼女は、
その願いを聞き入れ、目が覚めたら一人山中に居たらしい。
『そこから3日間。森の中を彷徨い、ようやく街にたどり着いたと思えば、誰とも会話が出来ず・・・途方にくれていました』
彼女は一気に話し終えた。
よほど会話に飢えていたらしい。
『ちょっと待ってくれ』
俺はようやく彼女に声を掛ける。
『はい?なんでしょうか』
彼女は俺に尋ねる。
『完全に俺のキャパオーバーだ。スキルによって意味は分かるが、理解が出来ん』
俺は言った。
それに【翻訳】スキルのお陰で言葉は理解できるが、
ところどころ意味が分からない部分がいくつかあった。
トラックとは一体どういうものなのだろう。
『そ、そうですよね・・・。だいたいこの手の異世界転移モノでは、私が異世界から来たことを隠すのが普通なのに私ったらつい・・・』
彼女は慌て始めた。
だが彼女が慌てている意味すら、
俺には分からなかった。
どうしたものか。
俺がそう思っていると、
グルルルルルルルルと腹の鳴る音が響いた。
見ると彼女が顔を真っ赤にしていた。
『いや、あの・・・はは・・・・』
『食べてないのか?もしかして3日間も』
俺の質問に彼女が首を縦に振った。
仕方ない。
ここまで来たら、見放すわけにもいかないだろう。
『ひとまず、うちに来るか?母さんが夕食を作って待ってるから』
俺は声を掛ける。
『ゆ、夕ご飯・・・』
彼女は口元から、本当に涎を垂らしていた。
『って、きたねぇな!可愛い顔してるのに、そういうギャップは止めろ!』
俺は叫ぶ。
『え、え・・・?か、可愛いですか?』
彼女には別の部分が刺さったらしく、
顔を赤くした。
『とにかく帰るぞ。えっと・・・ヒナタ!』
『は、はい』
俺たちは夕暮れのトキオの街を歩き始めた。
ヒロインは転移者でした!