第2話 ヒロインとの出会いを丁寧に記述
ヒロインと出会う!
「おいカロ!今日はもう上がりでいいぞ」
親方が叫ぶ。
「へーい」
俺は返事をし、
使用していた道具を棚に戻した。
「ったく、気の抜けた返事をしやがって。たとえスキルが無くても、もう少し覇気がありゃちゃんと雇うのによ」
親方はため息をつく。
「親方、そんな心にもない事言わないでください。【鍛冶】スキルなしで鍛冶屋なんて聞いたことないですよ」
俺は答える。
「いや、最近はスキル持ってても根気のない若者が多いからな。その点、お前は見どころがあるぞ!俺がどんなに怒っても屁でもない様子だからな!大したもんだ」
親方はガハハと笑う。
「いいから、今日の給料下さい」
俺は言う。
「ったく、相変わらず生意気なやつだ!ほらよ」
そうは言ったが親方は上機嫌だ。
俺は礼を言って帰路に就く。
俺の持つ【翻訳】スキルは、この単一言語の世界ではなんの役にも立たない。
人間はおろか、魔族、エルフ、獣人族までもがアース語と言う言語で意思疎通が出来るからだ。
この超絶外れスキルを持つ俺はこの世界では落ちこぼれ。
定職にも就けず今日の様なアルバイトをして、なんとか生計を立てている。
一体、それもいつまで続くのか。
先の見えないその日暮らしに、俺はため息をついた。
ここまで何とか人の道を踏み外さずに生きて来れたのは、
偏に母さんのお陰だ。
幼いころに父を亡くした俺を、
懸命に育ててくれた。
なんとか母さんに楽させてやりたい。
俺はいつもそう願っていた。
だが【翻訳】と言う外れスキルを引いた俺にはどうすることも出来ない。
諦めと葛藤。
俺は今日も暗い顔をして、家路を急ぐ。
これが毎日の繰り返し。
なんの変化もない人生。
俺の人生は、生まれた時から積んでいたのだった。
・・・
・・
・
だが、その日はいつもと違う事が起きた。
帰り道を歩いていると、街中に人だかりが出来ていた。
「なんだ?」
見ると、その中心で少女が叫んでいる。
彼女は見たことも無い様な服に身を包んでいた。
特徴的なのは黒髪のショートカット。
珍しい髪色だな、と俺は思った。
何をしているのだろう。
俺は興味本位で、その人だかりに加わり、少女の様子を窺う。
「*******、******ッ!」
女の子は、俺たちが聞いたことも無い様な言葉で叫んでいた。
単語の一つも聞き取ることが出来ない。
だがそれは決してデタラメではなく、
女の子はなんらかの意思を持ってその言葉を発しているのだと言う事が分かった。
「あらあら、貴女どうしたの?」
近くにいた老婆が、少女に話しかける。
「****!****。」
少女ははじめ嬉しそうに老婆に答えた。
「あなた、何を言っているのかしら?どこから来たの?」
老婆は少女に語り掛ける。
だがそれに対する返答はない。
少女は何かを躊躇し、口を動かそうとしたが、
やはて諦めたような表情で首を振った。
老婆も困ったような表情になる。
「あらあら、ごめんなさいね。力になれなくて・・・」
そう言って老婆は人だかりから離れて行ってしまった。
少女は暗く、絶望した表情をしている。
「おい!どいてくれ!どくんだ!」
人だかりを押し分けて、二人の兵士が現れた。
「君か!街中でふざけていると言うのは。見ない顔だな?どこから来たんだ?」
強面の兵士が少女に迫る。
それに少女は完全におびえた様子だった。
「*****、******っ」
少女は言葉を発するが、それは兵士に伝わらない。
「なんだそれは、ふざけるんじゃない!ちょっと来てもらおうか!」
それどころか兵士の機嫌を損ねたようで、
少女は腕を引っ張らられ無理やり連行されそうになる。
「*****!!」
少女は涙を浮かべながら叫ぶ。
俺はその姿を見て、悲痛な気持ちになった。
その悲痛な姿を見て、なんとか助けてやりたい。
だがどうすれば。
俺はそんなことを考える。
だがその時、ふと思いついた。
もしも彼女の発している言葉に、
言語的な法則があるのだとしたら、
俺のスキルを使えば、
少しくらい何か分かるかもしれない。
そして俺は自らのスキル【翻訳】を発動させてみる。
前に使ったのはもう数年以上前だったから、
使い方も忘れかけていた。
なんとか発動してくれたスキルは、
彼女の発する言葉を変換し、
俺の耳へと届ける。
『誰か!誰か助けてください!やめて!』
俺の意図通りに彼女の言葉が理解できた。
彼女は必死に助けを求めていた。
俺はその言葉を理解した瞬間、全身に鳥肌が立ち、
気が付けば人込みをかき分けていた。
身体が勝手に動く。
その時、頭にあったのは彼女を助けなくては、という使命感だった、
俺は人だかりを抜け出し、
今まさに連行されようとしている彼女の手を掴んだ。
急に手を掴まれたことにより、彼女は驚いて俺の方を見る。
『走れ!』
俺の言葉もまた【翻訳】スキルにより変換され、
彼女の耳に届いた。
彼女は一瞬驚きの表情を浮かべたが、
すぐに俺の言葉通りに走り出した。
「あ、おい!待ちなさい!」
兵士が叫ぶが俺たちは止まらなかった。
少女の手を引き、俺は街を走り続ける。
追手を確認するために振り返ると、
代わりに彼女の顔が目に入った。
彼女の目からは大粒の涙が流れていた。
出会った!