安夏先輩と僕
夏休み初日、安夏先輩の家の前。呼び鈴を鳴らすとすぐに玄関が開いた。
「はーい」
運良く安夏先輩が出てきたのだが、ティーシャツにショートパンツ姿だった。髪は少しぼさっとしてて、寝起きらしく、半分閉じた目で僕の姿を確認する。
「こんにちは」
「…………ぎゃぁー!?」
妙な声を上げた先輩は勢い良くドアを閉めた。
「なんなんだ、いきなりっ、お前、どうしてうちのばしょを!?」
「冷やし中華を作るから来いって言ったの、先輩でしょ」
「……あ、そういや、そうだったか?」
忘れていたのか、はたまた寝起きだからか、思考力能力が低下しているようだ。
「たて込んでるなら、出直しましょうか?」
「だ、大丈夫だ。待ってろ」
先輩が出てくるのを待つこと二十分。
ようやく玄関のドアが開いた。
「待たせたな。あと、わるかった」
私服にエプロン姿だ。身なりもきちんとしている。
「いや、僕は別に」
促されて玄関を通り、ダイニングキッチンへ。すでに鍋がコンロにかけられていて、お湯が沸きそうになっていた。
「適当に座ってろ」
冷房もかかっているし、室内はかなり綺麗だ。もしかすると、片付けていたのかもしれない。
先輩は冷蔵庫から中華麺を取り出した。
「昨日、小麦粉から作ったんだぜ?」
「あ、やったんですか」
本当に最初から作るとは。
僕の感心をよそに先輩は手際よく麺を沸騰したお湯に入れ、すかさずかき回す。
「今日、誰もいないんですか?」
「ああ、親は仕事だ。平日だからな」
当然と言えば当然か。
ハムキュウリ、焼いた薄焼き玉子を刻み、茹で上がって冷やした麺の上にトッピングしていく。
「よし」
僕の前に冷やし中華が置かれたったのだった。
「先輩……やっぱり料理上手ですよね」
「よくやるからな」
先輩と僕は向かい合って座った。
「じゃあ、いただきます」
僕は箸で軽く混ぜてから、麺とハムを口の中へ。
「タレも手作りなんだぜ?」
「……! 美味しいです」
醤油と酢と多分レモンの香りがする。
「だろー?」
先輩も食べ始め、しばし無言に。
そして、
「なぁ」
「はい?」
「お前のこと結構好きなんだが、付き合わねぇか?」
「……へ?」
唐突な告白に僕は固まってしまった。先輩は珍しく顔を赤らめていて……。
きっとこの問いに答えれば、今までの先輩との、関係はなくなってしまう。どちらにしても。
あの距離感、僕は結構好きだったのに。
僕はつい、ふっと笑ってしまった。
「おい、なんだその反応」
「いいえ」
そして、僕は答えを口にする。




