冷やし中華
「学食に冷やし中華メニューが出たらしい」
いつもの部室にて、向かいに座る安夏先輩が深刻そうな表情でそう言った。長テーブルに両肘をついて、手を組んでいる
「……うん、そうですね。話題になってました」
確か種類は和風ゴマ醤油、香りゴマだれの二種類だ。前者は醤油ベースでいわゆる冷やし中華のタレ、後者は乳成分が入った白ごまのタレだ。
「もう、食べたか?」
「いえ、クラスのヤツに誘われたけど、弁当あったし。食堂について行きましたけど、実物は美味しそうでしたよ」
「あたしは冷やし中華に目がない」
「……はぁ」
だから、どうしたって?
「ここで冷やし中華を作ろうと思う」
「絶対止めてください。アイスよりたくさん調理器具を使うじゃないですか」
「そうか? 多少は仕方ねぇだろ。茹でて、冷やしてタレにからめて出来上がりだ。トッピングはハム、玉子、きゅうり、スタンダードだな。簡単だろ」
「ちなみにどこら辺から作ろうとしてます?」
「小麦粉」
「ばっかっ、無理に決まってるでしょうっ、家でやって下さいよ」
「ふうむ。仕方ねぇか。……なら作る時にうちへ来い。味見役だ」
僕は肩を落とした。
「ここで作らないでくれるなら、良いですよ」
「よーし。まずは麺作りの勉強からだな」
先輩、嬉しそう。ていうか、生き生きしてる。
……いやぁ、冷やし中華好きは一味違うなぁ。




