夏服
「夏服、似合いますね」
「ああ? 半殺しにするぞ」
部室に入った僕と安夏先輩の第一声である。
「え、いや、褒めたんですが?」
不機嫌過ぎる。
「ん……?」
ぽかんとして何かを考える先輩。
「おっと、悪いな。褒められたことに礼を言うと、即告ってくる男共がうざくて、クラスメートの友達に撃退方法を聞いたんだ」
「いやー……。もうちょっと考えた方が良くないですかね?」
確かに先輩は可愛くて美人だから大変なのかも知れないけど、喋り方とか「ヤンキー系の格好いい女子」に近づいて来てて、それのせいで女の子のファンも増えてる、らしい。
「あたしは話したこともないヤツと付き合う気はサラサラねぇからな」
「まぁ、それは確かに」
先輩はひらひらと手を振って、読書に戻った。
「今日はなんの本ですか?」
「砂糖を吐くような恋愛小説だ。甘すぎて胃もたれしそうだが、内容はかなり面白い。主人公が女子高校生の夏服フェチで夏バージョンセーラーの胸元のエロさについて延々と語ってる。そろそろ十ページだな」
「お、面白いですか?」
「読めばわかるが、ヒロインに共感すんぜ?」
ヒロインはまともなんだろうか。そこでふと気付く。
「あ、待って下さい。僕は夏服の似合う先輩を褒めたのであって、胸元がエロいとか考えてないですからね?」
「マジか」
目を見開く先輩。おいおい、嘘だろ。
「ヤバイ誤解しないで下さいっ」
慌ててそう言うと、先輩は意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ふふ、冗談だっての。むっつりソウ君は尻派だもんなー?」
「……やめましょう、この話題」
余計なことを言うんじゃなかった。




