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魔法の扉  作者: はやぶさ
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 家に戻ってから、僕は自分の部屋でがたがたと震えていた。アリシアがどうなってしまったのだろうと思うと不安でたまらなかった。彼女の死人のような顔とディンガム氏の憤った顔がまざまざと蘇ってくる。魔法は失敗してしまったのだろうか。思わず目をつぶりながら僕は考えた。彼女の手から魔法の本をディンガム氏はもぎ取ってしまった。きっとあれは魔法にとって良くないことだったに違いない。


そうだとしたら、恐ろしいことが起こってしまったのではないだろうか。そう思うと、僕はその夜なかなか眠ることができなかった。


 次の日、また次の日、更にまた次の日と日にちが過ぎたが、アンドリューからまた仕事に来てよいという知らせは一向にこなかった。僕はアリシアのことがとても心配だったので、少ししてから屋敷をこっそり訪ねてみた。見ると庭にマイク爺さんがいたので、僕はすかさず彼女のことを訊いてみた。するとマイク爺さんはこう言った。

「アリシアお嬢様は今体調を崩しておられる」


よくよく聞いてみるとあの魔法の事件が起こってからというものアリシアの体調が思わしくないらしい。僕はマイク爺さんにお見舞いがしたいことを伝えた。マイク爺さんはかぶりを振っていたが、アンドリューに相談をしてくれた。するとアンドリューはディンガム氏には内緒にしておくから、少しだけなら会ってもいいと僕に言ってくれた。それで僕はディンガム氏に気づかれないように屋敷内に入って、アリシアの部屋へと向かった。


 アリシアの部屋に入る時、僕はちょっと心配した。この間、部屋を追いだされた時に見た死人のようなアリシアの顔を思い出したのだ。具合が悪くなったというけれども、いったいどれだけ悪くなってしまったのだろうか。もしとても悪くなってしまっていたとしたら、あの時僕はどうすれば良かったのだろうか。そんなことを考えるとアリシアの部屋のドアを開けるのが怖くなった。しかしためらっている時間もない。僕は思い切ってドアを開けてみた。部屋の中では窓から入る風でカーテンがはためていた。そのカーテンの側にはアリシアのベッドがあり、アリシアはベッドの上で本を読んでいた。彼女は本から顔を上げると、とても驚いた表情をした。


「まあ、セバスチャン!」

彼女は驚いて手元の本を取り落とした。しかし今度は僕の方が驚く番だった。体調がすぐれないと聞いていたアリシアの頬はばら色の頬をし、目にははつらつとした元気が宿っていた。

「体調は大丈夫なの?!」

慌てて訊く僕に彼女はにっこり笑った。

「ええ、すこぶる健康よ。魔法が効いたのよ」

「本当かい?!」

「ええ、本当よ」

彼女は自身満々そう答えた。

 そうか。そうだったのか。あれはやっぱり魔法だったんだ。一瞬あの時の情景が蘇る。目に見えない力でアリシアの髪や本のページがめくれ、青白い頬が紅色へと変わった時の様子が昨日のことのように思い出される。

「僕は魔法が失敗したとばかり思っていた。あの時ディンガム氏が入って来て、アリシアの顔がものすごく青ざめていたから」

僕はとても怖かったことをアリシアに白状すると、彼女はゆっくりと話してくれた。

「あの時魔法は失敗しかかっていたの。だってあの人はちっとも魔法を信じていなかったんだから。彼は私の体の様子を聴診器を使って調べていたわ。その後彼は怒ってあの魔法の本をよそへと移しに部屋を出て行ったの。その時私は魔法の最後の呪文を唱えたのよ。それでようやく魔法は完成して私の体は健康体へと回復したの。あの人はそりゃあ、驚いたわよ。死にかけていた娘が、戻ってきたら元気になっていたんですから」


僕はその時の様子を思い浮かべた。ディンガム氏は言葉では言い尽くせないくらい驚いたにちがいない。ましてそれが魔法の成果だと知ったらなんと思うだろうか。彼だって魔法を信じるのではないだろうか。僕の中で淡い期待が頭の中でもたげた。

それにしても腑に落ちない。アリシアは具合が良くなったというのに、なぜ体調がすぐれないと使用人達は言っていたのだろう。その疑問をアリシアにぶつけてみた。


「それはたぶん。あの人が用心しているからだと思うわ。アンドリューから最近私の容態が良くないことを聞いていたみたいだし、聴診器で診察した時には間違いなく体の状態が悪かったから、いつまた悪くなるとも限らない。それに人から病気が移ったら大変と思ってるのよ。極力人とは会わないようにする。それには具合が悪いと言ってた方が都合がいいのよ。それにセバスチャンが私の部屋にいたのが気に食わなかったみたい」

僕はそれを聞いて思った。

「心配してるんだね、アリシアのことを」

アリシアは首を振った。

「違うわよ。医者という立場を気にしてるだけ」

素っ気なく言うアリシアに僕は思わず黙ってしまった。元気そうだった彼女の顔には憂鬱そうな影が忍び寄っている。その時外からドアをノックする音が聞こえた。開けてみるとアンドリューだった。

「さあ、そろそろ時間だ」


僕は言われるままにアリシアの部屋を出ると、それからアンドリューに二言三言言われた。今日アリシアと会ったことは絶対口外してはならないということと、しばらく仕事は休んでくれとのことだった。


僕はディンガム氏に頑なな態度をとっているアリシアに一言言わなければならないような気がしたけれども、それはまた別の機会に言うしかないと思い、その場は家に帰ることにした。僕は家に帰る道すがら考えていた。アリシアは父親のことを体面を気にする人なのだと言っていたが、実際は違っているのではないか。でなかったらあの時、ディンガム氏は僕が部屋にいることに対して烈火のごとく怒ったりはしなかっただろう。

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