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魔法の扉  作者: はやぶさ
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『引き裂かれた二人の仲を元に戻す魔法』


 これだと思った。二人の仲を元に戻すにはこの魔法しかない。僕にできること。それはこの魔法をかけることしかない。魔法を信じる信じない。そんなこと言っている場合じゃない。もう時間がない。僕はこの魔法にかけることにした。

 魔法の方法は思ったよりも簡単だった。満月の夜十二時に森の中に行き、火を焚き呪文を唱えるというものだった。気をつける点はただ一つ。満月の夜であることだ。僕は月の満ち欠けを調べ、明日がその満月であることをつきとめた。森は僕の家の近くにもある。そこで行おうと思った。もちろん、親には気づかれないようにしなくちゃいけない。皆が寝静まった時に出かけなくてはいけない。今日は明日に備えて早めに寝よう。僕はそう思い、その日はすぐに寝た。


 そして次の日、学校から帰って来ると魔法をかける準備に取り掛かった。僕は魔法をかける場所となる森に足を向け歩いて行った。森に着くと人っ子一人いなかった。辺りは大きな木々が立ち並び、まだ残っている夏の日差しを遮っていた。森の奥へ行けば行くほど、空気はひんやりとしていて気持ちよかった。木々の葉は折り重なるように連なり、僕を秘密の場所へと誘うようだった。


 しばらく歩くと、僕は森の中心まで来ていた。ちょうどその辺りには開けた場所があり、僕はそこで火を焚く準備をした。穴を掘り、周りの木々を拾い集め、木を組み合わせて焚き火ができるようにした。こうしておけば夜に来てすぐに火がつけられる。僕だって好き好んで真夜中の森にはいたくない。日のあるうちに準備をしておけば、その分森にいる時間が短くなる。僕は誰にもこの焚き木を崩されないように持ってきた布をかぶせた。これで日中にできる準備は整った。僕は素早く森を抜け、家へと戻り何事もなかったかのように家の手伝いをした。


 日がかけてくるとどことなく落ち着かなくなった。夕飯時、いつもだったら学校であったことなどを両親に話して聞かせたりするのだが、その日は食べている間ずっと黙りこんでしまった。母が心配して具合でも悪いのではないかと訊いてきたが、僕は何でもないと答えた。夕飯が済むと僕は自室にこもった。魔法の本を開き、僕は念入りにその呪文を覚えた。


もちろん、この魔法の本も持っていくが、呪文を自分の言葉として唱えなければ魔法としての効果はないと、魔法のかけ方のところでそう注意書きがされてあったのだ。それならやはり覚えるのが一番なのではないかと僕は考えた。それにしても奇妙なものだ。アリシアの魔法を見るまでは魔法なんて子供だましなのではないかと疑っていた僕が今日の夜魔法をかけるのだから。世の中何が起こるか分からない。だったら魔法が本当にかかってくれればいいのにと思った。それから真夜中になるまで僕は仮眠を少しとった。親にはもう寝たものと思わせ、静かにベッドで横になった。


 そうして時計が十二時近くになった時、僕は誰にも気づかれないようにベッドを抜け出し、手には魔法の本を持ち、家を出た。外には大きなまん丸な月が僕を見下ろしていた。遠くの方から狼の遠吠えが聞こえた。僕は思わず身震いしたが、勇気を奮い起して森へと向かった。


 森は不気味なほど黒くうずくまっていた。ぽっかりと空いた穴の中へ、僕は入っていくような気がした。辺りからは何かが走るような音が聞こえてきて、僕の心はわなわなと震えた。ずっと何かに見張られているような不思議な感覚がするかと思えば、突如ふくろうの鳴く声に驚かされた。びっくりしつつも僕は上から照らされている月光を頼りに森の中を歩いた。


そうしてようやく焚き火の準備をしたあの場所へとたどり着いた。僕は焚き木の布をはがすと、深呼吸を一つした。そうして目を閉じ、気持ちを集中した。


 僕はゆっくりと目を開けた。この場所は開けているせいか、月の光を遮るものはなく満遍なく光が満ちていた。魔法をかけるにはまさに神秘的な雰囲気だ。僕は本を開くと焚き木の側により火をつけた。火はたちまちのうちに燃え広がり大きな火の塊へと変わった。ごうごう、めらめらっと焚き火は炎を出していく。

夜の闇の中でこの辺りだけが異様な熱気に包まれている。僕は空に昇っている月を見上げた。そこには皿のように丸い欠けることのない月があった。間違いなく満月であることを確認すると僕は神妙な気持ちで呪文を唱え始めた。そして心では一つのことを常に考えた。ディンガム氏とアリシアの誤解が解けて二人の仲が元通りになるようにと。


一句一句呪文を唱えていくうちに周りの様子に変化が現れてきた。焚き火の火が突如天に向かって炎を吹いたのだ。ごうっという風とともに炎は生き物のように上へと躍り上がった。それと同時に辺りの木々も一斉に風を受けてざわざわっ、ごうごうっと鳴り響いた。そして遠くの方から怪物のような呻き声が轟いた。僕は一瞬ぞっとした。


目の前には赤々とした炎があったが、背後には闇があった。この後ろに何かいるのではないかと思ったが僕は勇気を奮い起して、そのまま一気に呪文を読み上げた。最後の一句を唱え上げた瞬間、空に羽の生えた美しい白馬が姿を現し、どこかに向かって駆けて行った。突然の出来事に僕は驚いたが、あの白馬が二人の仲を取り持ってくれるに違いないとなんとなくそう思った。僕は火の始末をすると森を後にして、自分の家へと戻った。



それから二、三日。僕は魔法の成果を期待した。アリシアの魔法の時は、すぐに効果が現れたのだから、そのうち彼女から何か連絡があるに違いない。しかし数日経ってもアリシアから連絡はなかった。もう駄目なのかもしれないと思った矢先、ディンガム氏から手紙がきた。


セバスチャン・セルバラートへ

君からの再三に渡る手紙にはほとほと困ったよ。そんなに言うならアリシアに私が魔法を憎む理由を説明しよう。それでアリシアが納得してくれるとはとても思わぬが、君からの手紙が新しい屋敷でも届けられたら迷惑だからな。

魔法の本は君が持っていてくれたまえ。それだけはゆずれぬ。

 それでは今後は二度と手紙をくれぬようよろしく頼む。


 僕はディンガム氏からの手紙で喜びもする一方、落胆もした。

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