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魔法の扉  作者: はやぶさ
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数日は瞬く間に過ぎた。夏の太陽は陽気にきらめき、少年達の心を躍らせた。川での泳ぎや草原での野球。皆が遊びに興じている最中、僕は黙々と図書館に通いつめた。


徐々にだけど、僕は呪文がそこそこ読めるようになっていた。意地悪な人からの妨害を食いとめる魔法、美人になるための魔法、怪しいまじないから身を守る魔法、ぐっすり眠るための魔法と、魔法の本には多種多様な呪文が魔法の本には書かれていた。方法もさまざまで朝一番の清水を飲み、軽やかに踊りながら呪文を唱えるのもあれば、ヒキガエルと蛇の目玉を煮詰めてドクダミの葉で包みそれを家の側の木に吊るすのもあれば、木の根っこを掘り出し、その根に呪文を彫り込むというのもあった。


僕は読み解きながら、自分でも実行可能な魔法であることを祈らざるを得なかった。もしとんでもない方法だったとしたら、僕はどうしたらいいだろうか。思わず手に冷や汗をかきながら魔法の本のページをめくっていった。


魔法の本と格闘している時は特に不安を感じなかったが、その作業を終えてベッドに入る時、ディンガム氏宛ての手紙のことを僕は考えた。彼はもう読んでくれただろうか。それにしては手紙の返事が来るのが遅いのではないか。いや、それどころか、読まずに捨てられたかもしない。それだったら本当に万事休すだ。ほかにしようがない。でもまだそれほど日は経っていないし、そのうち来るかもしれない。そんな不安が常にあったが、僕はなるべく気にしないようにした。


夏はゆっくりと過ぎていったが、ディンガム氏からの手紙はなかなか来なかった。僕はもう無理かもしれないと思い始めていた。やっぱり彼から手紙を受けとろうというのがそもそも無理な話なのかもしれない。そうして諦めようと思っていた頃、その手紙は届いた。送り主はロバート・ディンガムと間違いなく書かれていた。僕の胸はどきどきした。果たして手紙には何と書かれているのだろうか。緊張しながらも僕は自分の部屋でその手紙の封を切った。


セバスチャン・セルバラートへ

 君はよくよくおせっかいな性質のようだ。アリシアにとってその本が大事な本であることは私にもよく分かっている。だからこそその本からアリシアを遠ざけたいのだ。魔法をしようと馬鹿なまねをしないために。君にその本を預けて正解だ。アリシアの容態は良くなった。そのうち外に出ることもできるだろう。


 たった数行の文面は僕の表情を曇らせた。ディンガム氏はちっとも分かってくれなかったらしい。魔法を憎む気持ちをなんとかしなくてはいけない。どう説得しても無理なような気がする。それでも僕は諦める気持ちはなかった。少なくともディンガム氏は僕の手紙を読んでくれたのだ。この後手紙を出したとして彼は僕からの手紙をまた読んでくれるのではないだろうか。それならそれにかけるしかない。


それとディンガム氏はアリシアを部屋の外へ出すつもりがあることだけは分かった。もし外に出てきたならアリシアとまた会うことができるかもしれない。それだけでも十分な進歩なのではないかと僕は思った。

 こうして僕はめげずにディンガム氏に手紙を送り続けた。魔法を認めてくれなくてもいいから、とにかくアリシアに気持ちを伝えてくれるよう説得し続けた。


僕もいろいろ考えた。魔法を憎む気持ちはそう簡単には消えないだろう。けどアリシアを想う気持ちは伝えるべきではないだろうか。アリシアにはそれが伝わっていない。僕はアリシアにも再び手紙を書いた。


以前アリシアからもらった手紙にはディンガム氏の気持ちは理解しているつもりだと書かれていたが、実際は違うのではないだろうかと僕は思った。文章からは頑なな態度がやはり消えていない。アリシアの気持ちを溶かすにはディンガム氏の言葉しかない。雪の女王でいう主人公の涙は僕ではなくディンガム氏でなくてはいけなかったのだ。だから僕はディンガム氏に何枚もの手紙を送った。彼は返事をくれることもあったが、くれないこともあった。それでも僕は手紙を送り続けた。


季節は夏から秋へと変わろうとしていた。僕の図書館通いは毎日のように続けられていた。親も親で僕のそんな様子に驚いていた。いったい何をそんなに勉強しているのだいと僕は訊かれた。それで僕はいろんな言語を勉強しているのだということを話した。それに関しては嘘ではなかった。


おかげで僕はたくさんの言語を知ったのだから、魔法の本に感謝しないといけないかもしれなかった。今ならアリシアがとても博学だった理由が分かる。魔法の本を読み解くうちに多くの言語を覚え、様々な本を読むことができるようになったに違いない。僕はアリシアの秘密が知れて嬉しかった。ああ、会って話すことができたらどんなにいいだろう。早くそうなればいいのにと僕は思った。


そうして秋になった頃思わぬ噂がたった。モーリーの屋敷に住んでいるディンガム氏が今度屋敷を出ることになったというのだ。どうやら外国に引っ越すらしい。あの堅物がいなくなれば町も少しは風通しがよくなるものだといったような噂だった。僕は愕然とした。今度こそ本当にアリシアと会えなくなる。ディンガム氏とアリシアの仲を元通りにする予定がまったく無駄になってしまう。そしてもちろん、魔法の本を読み解く必要性もなくなってしまうのだ。僕は魔法の本をどうしようかと思った。アリシアに返したくても返せないのだ。無理やり返したところで、ディンガム氏はこの本を燃してしまうだろう。そしたら今までの苦労はなんだったのだろうかと呆然とした。僕は手元にある魔法の本をぱらぱらとめくった。まだ読み解くページは何ページもあった。僕は急に泣きたくなった。



僕には結局何もできなかったのか、そう思って魔法の本を閉じようとした時、本のページに何かがはさまっていることに気がついた。それはかさかさになった四つ葉のクローバーだった。しおりの代わりに挟まれていたのかもしれない。いったいどんな呪文が書かれてあったところなのだろうか。不思議に思ってその箇所を読むとそこにはこんな文章が書かれてあった。


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