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魔法の扉  作者: はやぶさ
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僕はその日から魔法の本を読み説くための勉強を開始した。学校から帰るとすぐさま図書館へと向かい、様々な辞書と文法書を片手に魔法の書を訳し始めた。なんと書いてあるのか、僕は閉館時間まで粘り、家に帰ってからも訳す作業に明け暮れた。


両親は僕が急に勉強熱心になったと喜んでいたが、実際何を訳しているのかを知ったら驚いたに違いない。子供だましのような魔法の本を解読しているなんて知ったら笑い飛ばされただろう。


しかしうちの両親はあまり文字が読めなかった。そのため僕が何の本を大事そうに持ち歩いているかを知られることはなかった。そうして何日かが過ぎるうちに僕は思った。魔法だけじゃなくてその他の方法もあるのではないだろうかと。二人の心の誤解を解く方法。


行って二人を説得したいところだけれども、それはできない。ならば手紙を書くというのはどうだろう。二人ともお互いの気持ちを全く知らないのだ。二人がどう思っているのか僕が代わりに伝えてあげればいいのだ。ディンガム氏は屋敷には来るなと言ったけど、手紙は書いてはいけないとは言わなかった。そこで僕はアリシア宛てに手紙を書くことにした。


 手紙には教会でディンガム氏と会った時、彼と話した内容について書くことにした。アリシアの母親は魔法のせいで亡くなってしまった。そのためディンガム氏は魔法が許せなくなってしまった。だからアリシアも同じような目に遭って欲しくないと真剣に考えその結果魔法の本を取り上げたのだということを。けれどもその魔法の本は今現在僕が持っていて大事にしているから心配することのないようにと手紙には書いた。僕は郵便局に手紙を出すと彼女からの返事を待った。


 アリシアからの手紙が来るまでの間、僕は必死に魔法の本を解読していた。ラテン語、ギリシャ語、ドイツ語、スペイン語。いろんな言語で魔法の本の文章は書かれていた。それはまるで秘密の暗号のように謎めいていて、読む者の智を試そうとしているように見えた。それに合格した者だけが、魔法の呪文を手にすることができる。僕はとにかくその知恵比べに勝つために何日もの時間を費やした。そしてようやく一つの呪文を読めるようになった。


それは物探しの簡単な呪文だった。『アッハドベルト』と三回唱え、東向きに顔を向けウィンクする。そうするとたちどころに探していた物のありかが頭に閃くのだと魔法の本には書かれていた。果たしてそれは本当だろうかと僕は思ったが、アリシアが自分の目の前で魔法をやってみせたことを思い出した。あれは確かに魔法だった。現にアリシアは健康体を取り戻したじゃないか。そう思うと僕はまた魔法の本に没頭した。僕が求めているのはこんな魔法ではない。二人の仲を元通りにする魔法だ。僕はそれを探さなくちゃいけない。僕はまた魔法の本を読みふけった。

 それからしばらくしてからアリシアの手紙が届いた。手紙の文面はこんなだった。


親愛なるセバスチャンへ

手紙ありがとう。よく読みました。あの人がなぜこんな仕打ちを私にするのか、少しは分かったような気がします。でもだからといって許せません。あの人は魔法の本を燃やそうとしたのですから。母を抹殺したも同然です。正直魔法の本が無事だと聞いてほっとしました。よくあの人がセバスチャンに魔法の本を渡したものだと思います。セバスチャンが屋敷に来なくなってから私の心はがらんどうのようです。私はいまだに私の部屋から外へと出してもらっていません。体自体は本当に良くなりました。早くセバスチャンにも実際に会って話がしたいです。


 僕はこの手紙を読んで心が沈んだ。ちょうど夕暮れ色に染まる頃、窓の側でこの手紙を読んでいたが、暗くなってきたので手紙の文字を読み間違ったのではないかと思い何度も読み直した。しかし何度読み直してもアリシアはディンガム氏を許せないという文字ばかりが目についた。


彼女の凍りついた心は容易に溶けそうもない。特に母を抹殺したも同然という言葉は手厳しいものだった。アリシアにとって魔法の本は母そのものなのだ。ディンガム氏が魔法と、魔法の本を認めない限りアリシアもまたディンガム氏を許そうとしないだろう。二人の心は凍りついたままだ。どちらかが折れなければどこまでも平行線だろう。


僕はふとアンデルセンの書いた雪の女王を思い出した。少年の心を変えてしまった鏡の欠片を溶かしたのは主人公の少女の涙だった。この場合涙を流すのは僕の役割なのだろうか。どうしたらアリシアの気持ちを変えられるか僕はまた熟考した。そうしてまた手紙を書くことにした。今度はアリシア宛てではなくディンガム氏宛てにすることにした。

 僕はディンガム氏宛てにこう書いた。


ロバート・ディンガム様

魔法の本を送ってくださりありがとうございました。とても大事にしています。しかしこの本を本当に必要としているのはアリシアです。アリシアはこの魔法の本をお母さんそのものだと思っているようです。ロバート様が魔法を憎む気持ちも分かります。しかしアリシアにとっては魔法はお母さんと変わらないのです。魔法の本と、魔法を認めてあげることはできないでしょうか。現に今アリシアの容態は良いと思いますが、それは魔法が効いたからだそうです。魔法にもいい面と悪い面があるんだと思います。

アリシアのお母さんはたまたま悪い面が当たってしまったのではないでしょうか。そして今のアリシアはいい面が効いているのだと思います。以前会った時にも言いましたが、アリシアと話し合ってください。僕もアリシアにこの本を自分の手で返したいと思っています。どうかお願いします。



手紙を書くと僕は投函するのを少しためらった。なぜなら、あのディンガム氏がこの手紙を見て余計憤慨したりしないだろうかと心配になったからだ。けれども今の僕にできることはこれしかなかった。僕は祈る気持ちでこの手紙を出した。


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