8 鍛錬
2018/10/14 文章を修正しました。
テルはステータスウィンドウの存在を知ってから、ステータスを見ながら生活していた。
それはご飯を食べている時。
テル
職業 イワシLV28
装備 ノエ
それはエサを求めて泳いでいる時。
テル
職業 イワシLV29
装備 ノエ
名前、レベル、装備しか表示されないステータス。そこにはよくゲームであるように力や知性といった能力は数字で表示されていない。しかし、1つだけ数値化されているものがあった。
レベル。
よくあるRPGでは大まかな強さの指標となっているものである。ゲーム内ではレベルさえ上がれば格上だった敵も倒せるようになることをテルは知っていた。
そして、四六時中レベルの上がり具合を観察していると、行動を起こした時にレベルが上がっていることがわかった。具体的にいうなら食事をしている時が一番目に見えて跳ね上がった。
そしてそれがわかってから、テルは重点的にレベル上げを開始した。
ご飯を食べるときは一生懸命食べる。吐くギリギリまで食べる。食べたら運動などをしてしっかり消化する。消化したらしっかり移動する。
日常の生活だが、意識して行動すれば行動するだけ、テルの意思が反映されるようにレベルも上がっていった。
「テルさんはよく食べるッスねぇ。いいことッス」
口の中のノエが言うように、生まれた時より明らかに体つきがしっかりとしたように思うしウロコの輝きも増したように思う。
「そうだな。お前も養わなきゃならないしな」
「それを言われると弱いッスよ」
たはは、と笑うノエ。実際に食べている幾らかはノエの食事になっているのだろう。
もしかしたらノエにもレベルがあって、レベルが上がっているのかもしれない。だが、残念ながら見えるのは自分のステータスだけのようだった。
そもそもステータスウィンドウ自体、テル以外のものには見えていないらしく、よく宙空を見つめるテルを変な顔で見る仲間たちもいた。
テルは以前イワ市達が食べられた時に助けられなかった過去がある。次に何かあった時に誰かを助けたいという思いが、テルの中でくすぶっていた。
いつものように1人離れてエサをガツガツと食べていると、近くに仲間が来ているのを感じた。
横を見るとイワ美姉さんが隣に並んだ所だった。
「ようやく吹っ切れたみたいね」
「吹っ切れたというか、目標ができたんだ。次は守れるくらいに強くなるって。その為にはくよくよするより鍛えたほうがいいって気づいたんだ。それだけだよ」
「そう。ならいいわ」
そう言ってかすかに微笑んで離れて行くイワ美姉さん。なんだかんだテルを気にかけてくれていたようだった。
(そういう細かいところに気づくのは昔から姉さんの特技だものな)
姉の心配りに嬉しくなるテル。
よく考えなくともイワ美が、他の誰よりも群れ全体のことを考えてくれていることはわかっていた事だった。群れに落伍者が出ないように気をつけていたのは他ならないイワ美なのだから。
だからこそ、危機に陥ったイワ市の決断が群れ全体を助けるための最善だと理解していたのだろう。
兄達を大事に思う自分の感情など、群れを全滅させる事を考えれば取るに足りない事だと割り切ったのだろう。
そのことに時間が経ってから気づけたテルは、群れの個々に気を配っている姉のために自分が力になりたかった。大魚を前に怖くて何もできなかった自分とも決別したかった。
テルはその思いを胸に体を鍛え続けた。そして鍛え始めてから半年後、その日は思っていたよりも早く訪れたのだった。
テル
職業 イワシLV99
装備 ノエ
カウントストップ。通称カンスト。
ご飯を食べても運動をしてもこれ以上レベルが上がらない。
テルは最高のイワシとなったのだった。