24 フーカ
ようやくヒロインその2です。長かった…
前半は主人公ではない視点で描かれています。
子ザメをは大きな影が嫌だった。
大きな影は突然母親を殺した。そのついでと言わんばかりに兄弟を殺した。
子ザメの前に光があふれ、子ザメの体は母親の体から外に飛び出した。
子ザメはこのままここにいれば死ぬことを悟った。
死んでいく理由もわからない。ただ、死ぬことは決まっていたようだった。
死にたくなくて必死に泳いだ時、大きい影が大きい針を飛ばしてきた。
小さい影が横から来てその針を弾き飛ばした。
ふと、死の恐怖が消えたのがわかった。
助かった理由もわからない。
「なーにやってるんだか」
助けに来た小さい影もわかっていないようだ。私がわかるわけがない。
そのあと、大きい影と中ぐらいの影と小さい影が暴れていた。しかし、とても安心感があった。それはやっぱり理由のないものだったけれど。
大きい影が倒れた。
小さい影が針を刺したのだ。
小さい影は疲れ切っているようでふらついていた。
小さい影の手助けがしたくて近くに行くと何かを言われた。よく聞こえなかったが「すまないな」というのは聞こえた。
子ザメにはなぜ小さい影が謝るのかわからなかった。
ただ、何といったものかわからなくて、まごまごとし、お礼をいえばいいと気づいた時には小さい影は中位の影の元へ行った後だった。
付いて行こうとした子ザメの視界に揺らめく大きい影がいた。
「危ないっ!!」
叫んだ子ザメは小さな影を思いっきり押した。その瞬間、体がバラバラになったように感じた。
目も耳も鼻も何も利かず、しばらくして徐々に回復して来た頃には、小さな影に揺さぶられていた。揺さぶられた痛みのおかげで耳も目も前よりハッキリ利くようになった。
今まで影に見えていたものが輪郭を帯びる。
そこには子ザメののために顔をくちゃくちゃにしたおじさんの顔があった。ひどくうろたえている顔にどこか痛いのかと思った。
声がなぜかなかなか出なかったが。
「おじさんは、大丈夫?」
子ザメが伝えるとはっきりと驚いた顔をした。こっちを安心させるように何度も頷くおじさんに、実際に安心した子ザメは急速に意識が遠のくのを感じた。
なぜか恐怖はなかった。体を包む暖かさが心地よくて、死ぬかもしれないと思っているのに、それを受け入れようとしてる自分がいた。
ただ最後におじさんが気になってはいた。
「お前はまだ生きていたいか?」
不思議な声が聞こえた。
子ザメはもう死ぬのは怖くなかったが、おじさんの顔を思い出すとやっぱり心配になった。だから、おじさんの手助けがしたいと思った。
「そうか」
その途端、光があふれた。
子ザメを光が包み込み、むず痒いものが体を覆い尽くす。
光が収まると顔を覗き込むおじさんと目があった。
何が起こったのかはわからない。理由は全然わからないけれど。
目の前のおじさんが笑顔だったから。それでいいやと思った。
子ザメを包んだ光が収まると、テルの手の中に美女が横たわっていた。
美少女ではなく、美女だ。
その目がパチリと開きテルの目と会う。その顔にニッコリと笑顔が宿った。
「よかった。ほんとうに、よかった」
テルはきっと泣いているだろうと思った。でも涙は出ていないようだった。
体は知っているのだろう。
こういう時は笑顔の方がいいということを。
落ち着いてからテルは美女と話すことにした。その時、名前がないのは不便だろうということになった。かといって元から名前があったとは考えにくい。
彼女は生まれる前に家族と分かれているのだ。名付け前だと見て間違いはない。
「だれかいい名前の案があるか?」
テルが周りを見渡すが、逆にみんなから不審な目で見返された。その不審な目の理由がわからないのでテルも不思議がっていると、代表して、という感じでティガが答えてくれた。
「多分だが、名前をつけるのはテルの仕事だとみんな思っているぞ」
「俺の?」
周りを見渡すと兄弟たちがウンウンと頷いている。
言われてテルも、それもそうかと考え直した。
そもそも彼女を仲間にしたのはテルの一存である。しかもジンカの業を使ってまで助けたのだ。ここはティガの時と同じようにテルがつけるのが順当であった。
あったのだが。
「ふーむ」
中々すぐには思いつかなかった。
結果としてサメから転じてフカ、少し文字ってフーカとした。
「よしこれからお前はフーカだ。俺はテルという」
「わかった。フーカ。私はフーカ。よろしく、テル」
「ああ、よろしくな」
なでなで
思わずテルの前で座っているフーカの頭を撫でてしまった。灰色の髪を撫でられ少しくすぐったそうにするフーカ。というか本当に思わず撫でてから気づいたが、実年齢は0歳児である。見た目が美女なので頭を撫でるのは変な感じがしたが、これで正しいのだとも思った。
フーカも嫌そうにしていないのでよしとしよう。
それよりもタコスの仕事がまだ残っている。
立ち上がるテルにつられて立ち上がるフーカ。
「……………」
テルは言葉が出なかった。
フーカはテルよりも一回り背が大きかった。胸も大概大きかったが、背はテルが見上げるようなサイズ差があったのだ。ノエの時とは逆の意味で驚きである。驚異の0歳児であった。撫でていた頭から流れる髪はフーカの背中まで伸びる銀色の髪をしている。タコス謹製のおまけ服は灰色の水玉模様をしたワンピースをしており海水の流れにフワフワと漂っていた。
「フーカは思ったよりでっかいな」
「そう?」
テルの言葉にフーカはその白い肌に映える真っ黒な瞳を、きょとんとさせて答えた。




