22 決着
拳と拳が交差し肉と肉が弾ける音があたりに響き渡っていた。
バシィ!ビシィ!!
一見するとダイアの方が有利だが、ティガも的確に防ぎながら反撃をしていた。
手のひらで相手の拳を防ぎ、反撃が相手の腕でブロックされる。
お互いにパンチのクリーンヒットがなかなか出ない。
ティガはダイアに対して少し力が劣る部分もあり、ダイアはここぞというチャンスを見つけるのだが、
ヒュン
「くっ、またか!」
ダイアが振り上げた手を引っ込めて避けに専念する。そのすぐ脇を槍を構えたテルが高速で通り抜ける。
そう、テルは2人の周りをぐるぐると回って泳いでおり、隙あらば全力で突きに来るのだ。瞬間スピードはかなりあるイワシ魚人のテルだからできるヒットアンドアウェイであった。
バシン!
「ぬう!」
「こっちをよそ見ってのは感心しない」
もちろんティガの攻撃も完全に無視はできない威力が秘められている。その対応をしながらなので徐々にダイアも追い詰められて来る。
(このまま削れれば)
テルはダイアの気を散らしながらダイアの隙を伺っていた。
真正面から戦えばきっとテルではダイアには勝てない。ならば、と編み出したのがこの戦法であった。ティガが予想よりもダイアと戦えているためできる戦法である。
しかし、予想よりも早く終わりがやってきた。
ズッドンッ
「う、うぐぐぅぅ!」
大砲のような音がしてダイアのボディブローが深く、ティガの腹に突き刺さったのだ。あのサメを吹き飛ばすほどのパンチが。
ティガの意識が刈り取られていることが一眼でわかる。それぐらい強烈なノックダウンだった。
ダイアはニヤリと笑うとティガにとどめを刺さず、テルに向けて泳ぎだした。
テルは身構えると飛んできた砲弾みたいなダイアの拳を避ける。
ブンブンブンッ
「そらそらそら!!! どうした!? 俺を殺すのではなかったのか!?」
「くっそ!」
飛んでくる拳を避けて避けて、何回か避けたところでテルは理解する。ギリギリの瞬発力ではダイアよりテルの方が優っていることに。
隙を見てヤリを突き出すとダイアは少し距離をとった。
その隙に少し息を整えて、としようとするテルにダイアが急接近する。
「な!?」
フェイントについていけなかった。
驚きの叫びの後に言葉が続かない。
テルは体ごと衝撃で吹っ飛ばされ、後ろにあったサンゴの木に叩きつけられる。痛みと衝撃で言葉が全く出てこない。かろうじて受け止めた槍のお陰で、意識はギリギリ飛ばないで助かっている。
ダイアがしてきたのはタックルだった。
少し距離を置くとまたタックルの構えをする。
「貴様はちょこまかと小回りが利くようだが、ここで寝ている大型の魚人ほど丈夫でも強いわけでもない。全力を出したスピードは俺ほどではないようだしな」
そう、体が小さいので闘牛士のようにギリギリではかわせるが、全力スピードでは勝てないのだ。体力も力も大きさも、それから戦闘経験も、テルがダイアに勝てる要素がなかった。
テルは身体中痛みであまり動けなかったが、顔だけは上げてダイアを睨みつけていた。
ダイアはそんなテルを見て鼻で笑う。
「闘志は一丁前だが、それで勝てるほど甘くないんだよ! 殺し合いは!」
助走をつけてテルに向けてタックルを放つダイア。
それを見ているテルはそれを脅威と捉えていた。次にそのタックルを食らえばサンゴの木とダイアに挟まれ死んでしまうことだろう。もしかしたら後ろのサンゴの木ごとへし折るかもしれない。
それがわかっていて、テルの体は震えてなどいなかった。
ぎりぎりまで引きつける。
そう、ダイアも言っていた。力でも体格でも全力スピードでも勝てないだろう。だが、
「く!」
(くらえ!!)
うまく言葉には出なかったが、それまでだらんと手に下げていたヤリをぐいっとダイアに向けた。槍のお尻、石突きの部分をサンゴの木に固定して。
そう、瞬発力であればテルはダイアに勝っているのだ。
ズンッ
「………!!!!!」
力強い音とたしかな手応えがあり、ダイアは声も出せず槍に串刺しになっていた。
ショルダータックルの肩から胸を貫通し、体の後ろから血がモヤモヤと流れ出していた。
手応えが明らかに致命傷だった。というか見た目がもうすでに。
ズズゥン
大きな地響きとともにダイアが倒れる。
それと同時にテルは大きな声で叫んだ。
「1番魚人のダイアを倒したぞーーーー!!!!」
その声にようやく護衛を制圧し終わった仲間達が歓声をあげる。
「「「「おおおおおおーーー!!!!」」」」
その感性は地震のように響き渡り、それぞれが喜びをうるさいくらいに叫んでいた。
その声を確認したテルは近くに落ちていたテルが持ってきたヤリを拾い上げた。もし、このヤリを使っていたのならば最後の最後にダイアの攻撃を受けきれずに折れて死んでいたのはテルだったに違いない。
途中でダイアの槍に変えて戦っていたから勝てたのだった。
そんな偶然に想いを馳せていると目の前に小ザメが泳いで来ていた。
「ああ、すまないな。お前の母親を守ることができなかった。だが、お前は生き残ったんだ。母親や兄弟のためにも立派に生きるんだぞ」
「ぅあ?」
まだ、母親のお腹の中にいたのだ。言葉が不自由でもしょうがない。そう判断して、テルは小ザメから離れる。流石にここから先のサメの世話までは見きれないのだ。ここからは1人で生きてもらうことになるだろう。
テルは吹き飛ばされたティガを助け起こした。
「ほらティガ、起きろ。勝ったぞ」
「ん…あ、ああ。すまんな。役に立てなかった」
「いや、十分に働いてもらった。お前がいなければ俺は最初の一撃で死んでいたかもしれないんだから」
「ふっ、そうだ、なっ!」
反動を入れてなんとか起き上がるティガ。かなりボロボロだが休めば治るだろう。テルはティガに肩を貸してやる。
勝ったのだ。
これからはタコスが動くだろう。そう思ってタコスに振り向こうとした時、
「危ないっ!!」
鈴のなるような綺麗な声と一緒に軽い衝撃がテルの背中を押した。
もう力を使い切っていたのでフラフラだったテルは、たったそれだけの力で無様に前のめりに倒れてしまった。ティガも支えを失い一緒に倒れこんだ。




