21 サンゴの丘の決戦
ダイアの護衛たちは訓練されていた。それは個々の力もそうであるが、集団としての戦い方も訓練されていたということだ。
すぐさま数に押されないように密集形態をとる。
数での戦いでは部隊を分断され各個撃破されるのが1番怖い。
数で負けているので密集してひとつの塊としてぶつかっていく作戦だった。そうなると武器隊の40名も包囲ができなくなる。
数の有利に任せて包囲すれば、薄くなったところを分断されて破られる。向こうは守りきれば勝ちであり、無理に勝つ必要はない。長い間ダイアが帰って来なければカリウム城の兵士が心配して見にくるだろう。それまで持てばいいのだから。
それを防ぎたいのがダゴンたちだった。だから攻めなければいけない。しかし、守りを固めているところに無理に攻め込むことはできない。ヤリを何回か軽くぶつけ先頭部隊はある程度のにらみ合いとなった。
ババシュバシュ!!
「ぐあっ!」
「うわっ!」
このままにらみ合いが続くかと思われた時、史郎率いる武器隊の少し頭上から9つの泡の筋が襲いかかった。
魔法隊の魔法である。
その威力は衝撃の強いパンチをもらったようなもので手に持った武器を落とすもの、わき腹を押さえるもの、ひどい者は軽く意識を飛ばされたものもいた。
「相手は魔法が使えるぞ! 負傷者は後ろへ、前の者はある程度の塊で前進。魔法部隊に攻撃を仕掛けろ!!」
このまま守っていては魔法でやられていく。魔法で一撃で死ぬことはほとんどないが、その隙に槍で突かれればやられてしまうだろう。
この時点で守っていれば勝てるという護衛側の勝利条件は消滅した。
魔法によるジリ貧を防ぐためには、なんとしても目の前の相手を突破して魔法部隊を倒す必要がある。
それを多少の被害を承知ですぐに命令できたのだ。
護衛の隊長は優秀なのだろう。
しかし、史郎率いる武器隊は護衛の2倍の数。さらに積極的に戦わず護衛に隙ができた時だけ突き掛かってくるのだ。
護衛が史郎の武器隊を突破できないうちに魔法の第2射が放たれる。
「第2射、うてっ!」
バシュババシュ!!
「うっ! なんて威力、ぐあっ!!」
余市の掛け声に合わせ放たれる水流魔法。
魔法に気を取られれば目の前の槍部隊に、槍部隊に気を取られれば魔法が飛んでくるのである。
さらに、
「素手隊、突撃っ!!」
「「「おおおおお!!!!」」」
「まだいるのか!?」
部隊の後ろから素手隊が奈美に率いられて襲いかかる。
完全に油断しており、傷を受けた者を後ろにしていたこともあって護衛は何人かやられてしまう。後ろ側にいる護衛を後ろに向けて対応させるがこれで状況は挟み討ち。逃げる隙すらなくなってしまった。
逃げる隙がない、ということは。
「「おおおおお!!!」」
「いったい何人いるんだ!?」
武器組の残り20名が戦闘に参加する。
それと同時に魔法の第3射が飛んできて護衛は6名が死んでしまっていた。
それに比べて消極的に戦っているイワシ魚人側は手傷を負ったものさえ数えるほどしかいない。死者は0だ。
焦る護衛隊長は突撃を敢行した。
このまま戦えば座して死を待つより他はなかったからだ。
しかし、前進したくても辺りからヤリを常につきこまれるのだ。突撃をしていたせいで被害は一気に加速した。
「あああああ!!!」
バキィン
それでも装備が貧弱なイワシ魚人側のヤリは、護衛の持つ正規の槍とは出来が違う。激しくぶつかり合ううちについに折れてしまった。
隊長は前にいた魚人の槍を気合いとともにたたき折った後、すぐに後ろから迫る2本の槍をなんとか防いだ。防ぎきれずその片側のヤリの切っ先が軽く腹をえぐるが、それでも避けて防いで、正面を見ると折ったはずの槍が折れずに構えられていた。
「な、ぐあぁぁぁぁ!!!」
ドスッバキン!
護衛隊長の驚きのわずかな時間が生死を分けた。
史郎の槍が護衛隊長の頭に突き刺さる。その一撃で護衛隊長は倒したものの、その時の衝撃で再び槍が折れた。
「史郎さん! どうぞ!」
「すまないな、千」
史郎は後ろに控えていた千から予備の槍を受け取ると、さらに別の敵に向かっていった。
護衛隊長を倒された護衛たちは統率が取れなくなり、逃げるもの、戦うもの、そのまま突撃しようとするものとバラバラになる。バラバラに動く護衛は各個撃破され、しばらくすると完全に制圧されていたのだった。
そもそも数が5倍の敵と戦っている時点で護衛側は詰んでいたのである。
撤退するか攻めるか守るか。
その判断を曖昧にしたテルの作戦の少し予想外な勝利であった。
テルとしては徐々に敵の戦闘力を疲れによって削ぎ落とす、長期戦の構えであったのだが。




