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イワシのテル  作者: ベスタ
19/26

19 作戦会議

 広間に集まった100名の魚人の前に立つテル。

 みんなの顔を眺める。

 その顔には、血走った目をした者。興奮が収まらない者。緊張で青くなっている者。不安に苛まれている者。雰囲気に酔っている者。色々いた。

 しかし、その全てにわかるのは、みんながみんな、テルを信頼しているということだった。

 テルはそれを見てとると作戦を説明する。


「これから敵討ちを行う。目標はダイアとその周りにいる護衛だ。本来はダイアさえ倒せればそれでいいのだが、護衛を倒さなければ目標達成は困難だと思われる。

  現場に行かなければわからないが護衛を含めて、戦えるものは10名ほどだろう。これに棒の槍を持った武器隊60名の内40名が正面から当たる。4対1ぐらいには持っていけるだろう。決して深追いしないこと。じわじわと疲労させれば我々でも勝てるだろう。」


 いかに訓練したとはいえ魚人になったばかりのイワシたちでは魚人の護衛として鍛えられたものたちを相手に不利となるだろう。テルとしては数でじわじわと疲労させて追い詰めることで倒せるチャンスを狙うつもりであった。


「武器隊の残りは周辺の警戒に当たれ。特に護衛がカリウム城に逃げて応援を呼ばれたら、そこで我々は終わる。ここに我々の作戦の成功するかどうかが握られている。

  しばらくして相手の護衛の数が減ったならば容赦せず戦闘に加わること。

  これらのタイミングは、武器隊を指揮する史郎に任せる」

「はい。まかされました」


 46史郎しろうは武器隊の中で最も年長というわけではない。しかし、武器の習熟は現在のところ最も長けている魚人だった。しなやかな筋肉で自在に槍を使いこなす、どちらかというと細マッチョな魚人だった。指揮をするので個人の能力はあまり関係ないのだが、誰が指揮を上手に行えるのかまではわからなかったのでしかたない。

 ちなみに魚人同士の武器の戦闘は、槍を構えてお互いに相手に体当たりのように突撃する、というものだった。ドシンドシンとぶつかり合うのだ。相手が鎧を着込んでいれば、そこらに転がっていた棒を削った槍では勝てないだろうが。

 その点も狩りで良かった点となる。狩りには流石に重鎧をつけては行かないだろう。…多分。


「次に、素手隊の30名。隊長は奈美だ。

  素手隊は、武器隊が攻め入った直後は攻めず、魔法隊が魔法を2回撃った後に敵の背後から賑やかに攻めてくれ」

「すぐに戦わないの?」

「ああ、相手にこちらの数がどれくらいかわからないようにするのと、こちらの数がすごく多いんだぞ、ということで相手から逃げ出すという選択肢を取り除きたい」

「よくわかんないけど了解!」


 73奈美なみは史郎とは違い素手隊の中で1番強いというわけではない。そもそもこちら側で素手で1番強いのはウツボのティガだ。

 しかし、ティガには重要な役割を用意していた。

 だから奈美は、まとめ役、という役割で選んだのだった。

 奈美自身はこれといって目立つということはないが、面倒見がよく調整役として働きかけるタイプであった。


「余市が率いる魔法隊9名は敵との間に常に武器隊を挟むようにしながら積極的に敵を狙って撃ってくれ。お前たちが派手に攻撃するほど敵は攻撃できなくなり、その分こちらの被害が少なくなる」

「了解しました」


 余市が答える。余市と一三は魔法というかもはやスナイパー並みの魔法精度を持っている。任せて大丈夫だろう。

 そして、


「ティガは俺と一緒に別行動だ。ダイア本人には俺とティガが当たる。できるだけ引き付けるので護衛が片付き次第、我々と合流するように」

「わかった」


 ティガは無愛想に答える。

 ティガは武骨、無愛想を絵に描いたような魚人だが、戦闘が特に好きで大きい者にも怯まず立ち向かっていく。また、戦闘センスがテルたちイワシ魚人とは桁違いに高い。ダイアと戦うのであれば必須と言えるだろう。

 このダイアとの戦闘にテルが入っているのは、実は完全にテルのワガママだった。

 戦闘面ではおそらくティガに勝てないだろう。それどころか人型の体に慣れきっていない史郎と同じぐらいの腕前だ。そのうち史郎にも追い抜かれることだろう。


 しかし、今回の戦い自体、テルのわがままみたいなものだ。テルのワガママで一度は見放した味方を利用している。ティガもテルが自分の身を守るために傷付いたウツボで、そのウツボを癒したのはただの自己満足だ。


 反対が出たとしても、テルが行くことは決定と言っていい。


「敵の数が多い場合は撤退も考えている。しかし、今は我々の存在は気づかれていないが時間が経てば経つほどこちらに気づかれるかもしれない確率が高くなる。

 そうなれば対策を立てられたり、逆に罠を仕掛けられたりもするだろう。これは最期のチャンスかもしれない。


 では、全隊出発!」


 全員がサンゴの丘と呼ばれる、魚人の間では花見をしたりするかなり広い公園のような場所に向けてあらかじめ潜んでおく。

 タコスも一応同行はするが戦闘には参加しない。

 タコスには後程、仕事があるからだ。



「テルさん、やけに慣れてる感じがするッスけど今まで魚人を指揮したことなんてないッスよね?なんでそんなに自信満々に指示ができるんッスか?」

「ノエに出会う昔の……いや、なんとなくだよ、なんとなく」

「そんなもんッスか」


 ノエと出会う前のテルは魚でいうところの赤ん坊である。そんな赤ん坊がもちろん戦いの指揮をとったことなどない。

 ではなぜ指揮が一応取れるのかというと、もちろん前世の記憶である。魚では活かすことができないと思われていた前世の記憶である。活かせてよかった。


 もちろん前世のテルはオタクなサラリーマンであった。平和な日本では戦闘の指揮なんかとは無縁である。ではなぜ指揮ができるのか。

 オタクだったからである。

 昨今の小さいお子様がプレイしてはいけないチョメチョメなゲームは、チョメチョメなゲームにもかかわらず戦略要素を取り入れたりとシビアな要素が取り入れられているのである。しかも難易度がぬるめに設定してある誰がしてもいいゲームとは違い、なぜか鬼も裸足で泣いて逃げ出すレベルの難易度のものが多い。

 お子様が見てはいけないシーンを見るためにはまずこの戦略パートをクリアしなければならないため、ダメな大人達は泣きながら攻略していくのである。


 人間、エロと命がかかった時には思いもかけない力が発揮されるもので、自然と指示をしていける能力が身についたのだった。

 あくまでもゲーム内のことではあるのだが。

 だから何気に口調も少し変だったりもしている。ゲームの悪影響である。


 ちなみにテル自身は人間だった時と違い体は筋肉のついたシュッとした体になっている。人間であった時は若い時から成人病がきになるメタボな体型だったにもかかわらず。

 これは海の環境のせいだった。海は『泳ぐ』という全身運動を常にしておらねばならず、そのせいか中々脂肪がつきにくいのだった。

 元々メタボな体系を目指していたわけではないので、テルとしてはこれで良いのだが。

 そんなテルよりも貧弱な体をしたヒョロヒョロとした気弱な魚人が前を通った。

 イワシ魚人のせんである。名前の通り1000番目の末弟である。

 先程の作戦会議でも1人だけ青くなっていたのでよく目立っていた。


「千。具合が悪いのか?」

「あ、兄さん。」


 千は替えの槍をいくつも持ち込んでいた。


「具合は悪く有りません。それよりこれからの戦いで死んじゃうかもしれないと思うと怖くって」


 千のいうことは最もだった。いくら人数が多いとはいえ負傷者が0であるとは言えない。正直何人か死ぬかもしれないとはテルは思っていた。

 それでも参加してくれた兄弟達には感謝している。


「強引に誘ってしまったかもしれん。ごめんな」

「いえいえ! 死ぬのはそんなに怖くないんです。それより怖いのは僕が死ぬことで周りに迷惑をかけるんじゃないかって。」


 たしかに4対1で戦っていて1人死ねばそこの戦闘は3対1と不利になる。そうなると他で戦っている場所に比べて不利になることもあるだろう。


 しかし、それでも3対1である。

 昔の3大仇討ちの演目。忠臣蔵では相手の方が腕前は上であるのに勝ちを収めたのはその戦法にあるとされている。常に1人が敵の正面に残り2人が相手の裏から攻めるという戦法を取っていたから有利に戦えたというのだ。どんな達人も前と後ろ両方から攻撃されてはやられてしまうということだ。

 また、あの天下無双と言われた宮本武蔵の剣術。二天一流も2本の刀を交互に使うのではなく、同時に振ることで防ぎきれない剣戟を与えることができる。そのために強い、とされている。これを魚人は数で補うのだ。1人ではなく2人以上が同時に攻撃を仕掛ける。

 ほぼ勝てるはずだった。


 また、1番危険なダイアはテルとティガが受け持っている。

 これは味方である兄弟への被害を減らすための方法でもあった。ダイアと戦わない限り千が死ぬことはまずないであろう。

 むしろ、ダイアと2人で戦うテルの方が危ないであろう。


「大丈夫だ」


 だからテルは優しく千の頭を撫でた。


「もしお前が死んで味方が崩れたとしても、それはお前に戦いをさせた俺の責任だ。お前がどうこう悩む問題じゃない。それにお前はきっとここじゃ死なないよ。俺の方がヤバイくらいだ」

「兄さん」


 千の顔に笑顔が浮かぶ。不安は和らいだようだ。テルにはイワシ特有の共感能力がないのでどんなことを考えているのかはわからないが。

 まあ、多分大丈夫だとテルは思った。


 そしてついにテル達はサンゴの丘についたのであった。

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