16 ダイア陣営
すこし前までダイアは機嫌が悪かった。
悪かった、というのは過去の事で、今は機嫌がすこぶるいい。
前は海の最高の支配者と言われているダゴン様の下で働きたいとぼやいていたからだ。
しかし、ダイアがいるのはダゴン様の治める直轄領地ではなく、アーラウト海域という土地だけはそこそこ広いがど田舎。そこの支配者の一番魚人というのは納得がいかなかった。
しかもそこの支配者のスイカは、威張ってはいるが気弱い貧弱な少女で仕える甲斐はなかった。
ダイアはアーラウト海域で一番の力を持っていた。だからダゴン様の元でも自分は1番に違いないとおもっていた。
このまま自分はスイカという少女の元で腐っていくのかと思うとダイアは我慢できなかった。だから、周りに当たり散らしていた。そして、暴れれば暴れるほどダイアに反抗するものはいなくなりますますダイアは自分に溺れていった。
そんな折、ライトが視察に来たのだ。
ライトは若く、まだ名のしれた剣士ではない。ここしばらくは大きな戦争もないため武勲を上げてもいなかった。しかし、ライトはマグロ魚人の名門、ツナ家の当主である。同じマグロ魚人であるダイアが入り込むには絶好のポジションであった。
しかもこの若い現当主は世間を知らず、腹芸などは出来なかった。ならばうまく丸め込んで自分が当主になることもできるであろう。そう考えたダイアは完全に緩みきっていた。
「ダイア。ここの品は中々良い品のようだな」
「はい。ここカリウム城の街でも随一の食事処でございますれば」
「ダイア様にはいつもよくしてもらっております」
ライトが褒めればダイアは店を褒め、店はダイアを褒める。
第三者からの賞賛はうっかり受け入れてしまうものだ。その結果、
「ダイアは街のみなにもよくしているのだな。ダゴン様の耳にもいれておこう」
「ありがとうございます」
こうなる。
ダイアとしては完全に予想通りであった。こんなに操縦しやすい駒は中々ない。
ライトが退室したのを確認した後、ダイアは店の主人に金を渡した。
「よくやった。これは礼だ」
「はい、今後ともご贔屓に」
今の所ダイアはうまくやっている。
カリウム城とていいところばかりではない。それこそ街を囲むようにスラムはありダイアは賄賂を最も良しとしているから、ダイアの派閥以外の店や人物は不満があるだろう。
「では、次のところに案内してもらおう」
「はい、喜んでご案内いたします」
そういった不正をライトが気づくことはない。なぜならライトはスイカに言われているのだ。
ダイアの案内するところに行け、と。
ダイアは自分の派閥にしか、また、綺麗なところしかライトには見せない。
そして会う人会う人全てがダイアを褒め称えるのだ。
街を発展させたのはダイアだ、というふうになる。
それはそのままダゴン様に伝えられるだろう。そうなればダゴン様のおられる都市への異動も有り得るだろう。ゆくゆくは、
「ぐふふふ……」
笑いがつい、漏れてしまうダイアだった。
「ふむ…」
そんなダイアを訝しげに見て、すこし首をかしげるライトには気付かずに。