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イワシのテル  作者: ベスタ
15/26

15 イワシ以外のジンカ

 テルはすぐさま辺りを見回した。

 装備品からノエが消えたということは今は口の中にいないということだ。

 たしかに口の中はすっきりしていた。ということは進化の時に口の中から出ていったということだ。

 実際は装備ではなく寄生虫なのだが、まあ、どちらでもいい。今では仲間という意識の方が強い。


「ノエ?」


 思わず心配した声色で訪ねた。そうするとすぐさま答える声が聞こえた。


「なんスか?」


 すぐ近く。本当にすぐ近くから声がした。

 視線を下に下げると1mくらいのサイズのくりくりとした少女がこちらを見上げていた。

 そう、少女と言える年だ。

 くすんだ灰色の昔のRPGなんかに出てくる村娘風の服に赤い靴を履いた少女だが、なんといっても特徴はその長い髪だ。クリーム色の髪は大きく1つの髪束に編み込まれており少女のふくらはぎまで覆い隠していた。

 そんな少女と目が合う。大人びた深い色の青い瞳だった。


「お、お前は?」

「びっくりするッスよねー。まあジンカする魚の中にいたんッスから、自分もジンカするのは当たり前といえば当たり前なんスが」

「ていうことはお前、ノエなのか?」

「そう言うってことは、自分が誰かわかってなかったみたいッスね」


 そう言ってたはは、とわらう少女はノエだった。

 この世界の美の基準がわからないが、少なくともテルとしては美少女と十分言えるレベルだった。


 テルはオタクであった。そこまで深いオタクであるとは自分では決して言わない、奥ゆかしいオタクである。上には上がいると割り切ったオタクである。

 そして、一般的なアニメ、漫画などのサブカルオタクとして例に漏れず、美少女は大好物であった。とても心揺さぶられるものがあったのは言うまでもない。


「そうか、お前女だったんだな」

「あー。そこからッスか」


 テルはオタクであった。少女が保護対象である限りは恋愛対象には見ない生粋の紳士であった。獣には落ちない鉄の自制心を持ち合わせていた。


「まあ、それぐらいじゃ態度は変えないがな。これからもよろしく頼む」

「そッスよね。よろしくッス」


 そういってノエはテルに近づく。

 そして無防備なテルの口に顔が近づいて、


「えっ?」


 ギュルン


 嫌な効果音と一緒にノエの体が、キスをされるのかと身構えたテルの口の中に吸い込まれていった。


「!!!???!!??!?」

「いやー、ここが一番落ち着くッスねぇ」


 口の中からくつろぐ声が聞こえるが、とても気持ち悪い現象が起こっていた。

 言うなれば入らないところに無理やり何かが入っていくというか。痛みとかそういうことは一切ないのだが、絵面が気持ち悪い。

 例えばなんでも道具が出てくる不思議ポケットに入っていくドアとかそんな感じ。

 テルはなんとも言えない気持ちになり、口の中に手を突っ込んでノエをつまむ。


「おおっ!?」

「こうすると小さいままなんだな」


 テルの指の間で驚いてもがくノエは5cmくらいの大きさだった。


「そりゃあの大きさだとテルさんの口の中には入れないッスから」

「大きさはどの程度変われるんだ?」

「試してはないッスけど、なんとなく今の大きさからさっきの大きさまでッスね?」

「そうか」


 びっくり魚である。

 結構とんでもない能力のような気はするが、ジンカには特殊な能力がつくものなのだろうか。


「そんな特殊能力は初めて見たな」

「そうなんスか?」

「ああ、大体ジンカをしても元の魚の力を受け継ぎやすい傾向にはあるがな」


 タコスが横から話に混ざる。支配者であるタコスも初めてみるらしい。どうも魚の能力は引き継げるものらしい。


「なるほどな。ノエの場合、存在が他の魚の口に入って生きるものだから口の中に入れるサイズになることが特殊能力というわけか」

「まあその影響か知らないが、最大サイズも他のやつらに比べてかなり小さいしな」


 テルが考えをいうとタコスが答えた。

 確かにテルが以前ノエに聞いた話では、ジンカをした魚人の身長は150cmから2mほどと聞いている。ノエの1mほどの身長というのは確かに大幅に小さい。

 それもその魚の個性というのであれば、もしかしたらクジラとか世界最大の魚、ジンベエザメとかならば2mを越す巨体の可能性もある。

 

 そんなことを言っているテルたちにうっすらと影がさした。

 不思議に思ってテルが視線をあげると、そこにはテルより一回り大きい筋肉質の大男がいた。


 ギュルン


「ひぃぃ!!」

「もごあ!」


 ノエが緊急避難としてテルの口の中に飛び込む。先ほどとは違い勢いがあったため、少し喉が詰まったようになるテルだった。


 大男は少しテルを見ると頭を下げてきた。


「礼を言おう。イワシの男。瀕死のところを助けてもらっただけではなく、新しい力まで与えてもらった」

「ええっと?」


 テルには心当たりがない。基本的に命からがら逃げることはあっても、誰かを助けるなんてことはできなかったテルである。人助けなどした記憶がなかった。

 いや、大男の体を見ると丸太のような二の腕や筋骨隆々とした背中には抉れたような傷痕があった。また、短い黄色の髪に黒い縞が入っており、金色の丸い瞳には見覚えがあった。


「まさか、ウツボ?」

「そうだな。お前の他にもイワシがいてよくわからんが、多分お前でいいのだろう?」

「そうだな。連れてきたのは俺だ。テルという」


 テルの予想通り瀕死だったウツボであった。

 予想通り助けてもらったことを恩に感じてくれているようだ。予想外なのは体の傷が治っていることだろう。また、襲われた時に体格差がイワシとウツボより人間同士の方がまだ戦えると思っていた。

 テルは自分の腰ほどもあるウツボの腕を見てそれが不可能だと悟った。

 ウツボが戦う気がなくてよかったと言えるだろう。


「俺の名前はない。呼び方はそっちが決めてくれ」

「そうか、それなら」


 テルとしては強気で行こうと思った。弱気でいったら主導権を握られそうだ。この際、戦ってしまったら負けが確定するのでこいつは何か奥の手があるんだろうオーラで押し切ろうと思った。

 しかし、そこで困った。

 名前なんてとっさには思いつかないのだ。


(ウツボ…………ウツ……ボ……)

(ウツ………打つ…パチンコ。いや、そうじゃないな)


 まだ考える。


(打つ、棒……バット……うーん)


 これといっていいのが浮かばない。次々と命名していったイワ市兄さんの偉大さを今更ながらに感じ取った。


(うーん、虎っぽいところからタイガー…そのままか。ライオンを人名にするとレオだからタイガーなら)


「ティガってのはどうだろう」


 うっかり口から出ていた。といってもそれ以上これといった案がないのだが。


「いいんだろう。これからはティガだ。よろしく頼む、テル」

「ああ、よろしく。ティガ」


 がっしりと握る握手。テルは正直手が壊れると思ったが、そこははったりで平然とした顔をしておいた。


 ジンカしたばかりで戸惑いもあるみんなが収まるのを見てからテルが声をかける。


「ではこれからの目標を伝える。これから俺たちは兄弟たちの敵討ちをしようと思っている。そのために我々は魚人ダイアを倒そうと思っている」


 イワシの魚人たちはやる気満々である。ティガもやる気は充分に感じる。


「しかし、我々には色々と足りない。経験も、数も、情報も足りない」


 それに首をかしげる一同。魚人になったばかりのみんなにはピンとこないようだ。だが、テルは知っている。

 カリウム城には兵士がいること。ダイア個人でも相当強そうだということ。おそらく魚人の兵士が100人ということはないだろう。追い込みをする借りをしているということはダイアは将としてそこそこ戦えるだろうということ。

 こちらは相手の数も知らない。そんな状態では勝てない。少なくともゲームでは。

 テルは続ける。


「だからこそ、まずは敵の情報を集めようと思う。色々頼むとは思うがみんなよろしく頼む」

「「「「「わかった」」」」」


 魚人全体が答えた。

 そして一旦解散という空気が出てきた時、タコスが確認といった体で言った。


「お前はダイアを倒したいのか」

「ああ」


 テルはタコスの目を見ていう。テルより小さい子の少年の目を。そして何を言いたいのかと探っていた。


「ダイアを倒すという意味を知っているのか?」

「何も知らない。あいつが敵だということ以外はな」


 タコスの言葉に素直に答えるテル。

 どうもタコスは何か事情を知っていそうだ。それを教えてくれるのだろう。


「まず、ここアーラウト海域には支配者が2人いる。1人は俺様ことタコス。そしてもう1人は威張り散らしてるくせに弱虫で泣き虫でぽんぽこぴーのスイカだ。

  ダイアはスイカが魚人化したものだ。そしてここらの支配を………今の所貸してやっているスイカの1番の実力者でもある」

「そ、そうだったのか?」


 そもそも住んでいる海の地名さえ知らなかったのだが。少なくともタコスはテルよりも物事を知っていることが確定した。あと、個人的にタコスがスイカをあまりよく思ってなさそうなのもわかった。


「そのダイアを倒すっていうことはスイカの支配を覆すってことだ。どうしたってそういう意味が付いて回る。その覚悟はあるのか? この海域を支配する覚悟が」


 タコスの言った真実は衝撃的ではあった。あったのだが、しかし、


「敵討ちには関係ないな」


 テルはそう言い切った。相手がここらの地域のボスであると知ったところでやることは変わらない。家族を殺されてそいつが総理大臣だったからといって好きになれるかと言われればそれは無理なのだ。

 愛や正義をうたっていれば、あるいはそれで困るかもしれない。だが、テルを動かしているのは怒りなのだ。いって聞くようなものでもない。

 テルの言葉を聞いて満足そうに頷いたタコス。


「そうか。なら俺はこれからも手を貸そう。」

「そうなのか?」


 手を貸してもらえるのならありがたい。

 なにせ一番の事情通はこの目の前のタコスなのだ。すこし生意気なところはあるものの。


「ああ、俺様の目標は世界征服だからな! まずはこのアーラウト海域をこの手に返してもらう!」

「あー、そうか。だから同じ支配者のスイカには勝ちたいってことか」


 スイカとはおそらくカリウム城でテルとであった白い少女のことだろう。ダイアの方が偉そうに見えたが、実はスイカの方が偉かったというわけだ。なぜ力関係が逆転しているのかは謎だが。


「絶対に勝つぞ!」


 タコスの言葉にみんなが声を合わせる。なんだかんだでタコスはみんなを乗せるのが上手いのか? テルとしてもこの気楽なテンションは嫌いではなかった。だから、


「「「「「おー!!!」」」」」


 一緒になって騒ぐことにした。

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