11 ジンカの業(わざ)
2018/10/14 文章を修正しました。
ジンカ。
それはさらなる力をもたらすもの。
『支配者』と呼ばれる一部の種族だけが使える力であり、支配者に認められた者はその力を授けてもらうことができる。
まず、力を授けられた者は見た目に変化が起こり、陸上に棲息する『人間』のような見た目になると言われている。
尾びれは短くなり、個体によっては消える。胸ビレや腹ビレは大きく伸びて手足となり、首が生まれて胴体と頭部に大きく別れる。
体の大きさは個体差もあるが150cmくらいから2mくらいのものになる。
元の種族には戻れず、元の種族のものともコミュニケーションが取れなくなる。そして、元の種族すら『エサ』にしか見えなくなってしまう。
ジンカを経た魚は『魚人』と呼ばれ、魚として数えられなくなる。
それらの説明をノエから受けたテルは意味がわからなかった。
というよりかは、現実味がない。
先ほどまで死にそうな状態であったからこそ、嘘かおとぎ話を聞いているみたいだった。
ジンカ。
それは、『人間化』ではないのだろうか。
そして魚で一生を終えようとしていたテルにとってひどく唐突で、とても酷い裏切りではないのだろうか。
普通の命であればきっと得体の知れない形への変身なんて冗談だとか笑い話である。
だが、テルは人間であった記憶がある。エンマ様に会って転生した記憶すらもあるのだ。人間になれないと絶望した時もあった。人間で産まれていたら、きっと色々チートだとか、そういうことができる知識も持っているつもりであったのだ。
それが、魚に生まれ変わってがっかりして、それでも魚として生まれたからには死にたくなくて。今まで生きて、あがいて、それでも絶望して。
力が欲しいと思った時に人間になれるだって?
テルは改めて自分の手を見た。
それは、首回りにあってひどく小さく、ヒラヒラとしていた。
(俺は、どうしたいんだ?)
自分に問いかける。
人間になるのは、産まれてからこれまでの祝福を裏切るような気がした。
初めてあった時のイワ市兄さんの祝福を。
兄2人を無くした時の悲しみを。
兄弟達みんなとの楽しい日々を。
イワ美姉さんの献身を。
今までのものがただ、踏み台であったような気がしてすごく嫌な気がした。
それ以上にジンカをしたい自分もいた。
親しいものが食べられる悲しみ。
イワ美姉さんに託された思い。
そして、自分が死ぬかもしれない恐怖。
「それでどうするんスか? 一応、支配者の都の位置は知っているッスけど」
そのノエの言葉でテルは苦い顔で覚悟を決めた。
「行こう。案内してくれ」
「了解ッス」
魚であった今までの全てを天秤にかけても、自分が死ぬ恐怖には勝てなかった。そんな思いを知ってか知らずか、ノエは今までと同じように気楽に案内を引き受けたのだった。