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15話 ツルリの流通屋としての一面

「よお、スレイ、調子はどうだい」

「絶好調だ。ツルリも相変わらず性欲が成れ果てているな」

「もうそっち系でイジんのやめろっての! っていうか成れ果てているって何? 何語?」

「無論、俺語だ」

「やかましいわ」


 ツルリとの談笑を楽しんでいると、


「ツルリ、ちょっといいか」


 猫獣人ワーキャットが、ツルリへと話しかけた。

 ツルリは俺を向いて、


「ワリ、ちょっと席外すわ」


 と言って、猫獣人ワーキャットとともにどこかへと去っていった。


「……」


 フ、フンだ! 別に寂しくなんかないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ、プイッだ!


「おぅ……ん?」


 恋する乙女を演じて自己嫌悪を感じていると、部屋の隅、柱の物陰でツルリと例の猫獣人ワーキャットが話し込んでいるのが見えた。

 なんの話してんだろ?


 それとなく近づき、二人の死角となるよう移動し、柱に背を預ける。


「いやいや、それじゃ商売あがったりだぜ」

「そんなこと言うなって、こっちだってこれ以上は出せねえ」

「……っ」

「……っ」


 なるほど、商談か。

 すっかり忘れていたけど、ツルリはここ地下収容所で流通屋をやっているって話だったな。


「っち、わかった。それでいい。ったく、毎回世話になってんだから少しは負けろっての」

「それはそれ、これはこれ。毎度ありぃ~♪」


 商談は成立したようだ。

 ……ツルリの思惑通りに。


 意外と上手くいってるんだな。


 俺に性犯罪を懺悔した姿とはかけ離れていて、少し驚いた。


「……おっ?」

「よ」


 柱の陰から出てきたツルリは俺に気づき、俺は軽く手を上げ返事した。


「おいおい、盗み聞きたあ、趣味が悪いな」

「そんなんじゃないさ」

「まっ、そういうことにしといてやるか」

「流通屋って、いったいどんな商品を取り扱ってんだ?」

「おっ、商談の話か? そういやスレイには詳しく話す機会がまだなかったな」

「ああ」


 ツルリは人差し指をくるくる回した。


「まあ、簡単に言うと、囚人が必要とするものだな。生活必需品の類もあるし、その囚人ならではの物を仕入れたりもする」

「えらいざっくりしてんな」

「商品の品揃えには自信があるぜ?」

「どっから商品なんて仕入れるんだ?」

「それは秘密だぜ兄弟、企業秘密ってやつだ」

「とあるヒトにはなんてことないモノも、他のヒトには物凄く価値のあるモノ。まず手軽に手に入るモノを用意して、それを欲する奴と上手いこと一般的に価値の高いモノと物々交換する。そういうのを繰り返して、徐々に自分の資産を増やしつつ、品揃えも充実させているって感じか」

「お、おう……」


 ツルリは目を丸くした。

 俺は苦笑した。


「長いこと商人の護衛をやっていたもんでね。多少は詳しくなったってだけさ」

「ああ~、なるほどな。いやびっくりしたぜ。見事にやり口を当てるんだから! ……だが、それは少し考えればわかることだ。大事なのはそれから先。結局はここが重要なんだぜ?」


 そう言ってツルリは腕を叩いた。


「つまりツルリの腕を希少な肉食動物に与えて、その対価をもらうわけだな」

「そんなわけねえだろっ! 割に合わなすぎるわ!」

「ちなみに俺は、ドワーフの腕一本を、10億で取引する商人を知っている」

「えっ」

「知りたいか?」

「……す、少しだけな」

「割に合わないんじゃなかったのか?」

「だから少しだけだって」

「まあ嘘だが」

「だと思ったよ!!」


 ツルリの弄られ属性やはり侮れん。

 俺はツルリの評価を再評価した。

 無論、下の方へだ。


 ツルリはやれやれと両手を肩の高さに持ってきて、手先を振った。


「まっ、何かほしいものがあれば言いな。前にも言ったように、安くしとくからよ」

「なあ」

「うん?」

「最初はどこで手に入れるんだ?」

「……」


 俺の言葉に、ツルリは一瞬真顔になり……すぐに笑顔を作った。


「それも企業秘密だ」

「ツルリ」

「ん?」

「……」


 俺はじっとツルリを見つめた。

 ツルリは後ずさった。


「い、いやいや、この前みたいにはいかねえぜ? 俺がこの収容所で生きていくための最大の秘密みたいなもんだからな」

「……」


 俺は無言でツルリを見つめる。


「………いや、こればっかりは本当に駄目だ」

「……しゅん」


 俺は口に出して落ち込んだ。

 ツルリはびくっと体を強張こわばらせたが、すぐに首を横に振った。


「いや、男がやっても気持ち悪いだけだぞ!」

「……」

 

 俺はふっ……と真顔になって、再度ツルリを見つめた。


「いや真顔になっても駄目なもんは駄目なんだよ! じゃあなスレイ! 商談はいつでも乗るぜ!」


 俺との会話を振り切るように叫ぶと、ツルリはダダーッと短い手足を高速回転させながら去っていった。


「……さすがに無理か」


 現状を打破するための取っ掛かりでも見つけられれば、と思ったんだが。


「気ばかり急いてもしょうがない……か」


 特殊囚人闘技者の試合間隔は、平均で三か月に1回と聞いた。90日に一回。

 特殊囚人闘技者のプレミア感を高めるためでもあるし、試合の壮絶さによる特殊囚人闘技者の怪我なども関係しているのだろう。怪我の度合いによっては、一年以上、試合が組まれないこともあるとか。

 無傷で完勝しても、一か月ほどは期間を開けられるのが普通だと、看守は言っていた。


「無理に戦わせて死なせるより、全快の状態で戦わせるほうが、利益にも繋がるってことだろうな」


 俺はほとんど無傷で勝ったが、それでも一か月はないと見積もって大丈夫だ。

 要するに次の試合までの猶予はそこそこある。


「現状を打破する方法を見つけるには、地下収容所での身の振り方、囚人間での地位なども気に掛ける必要があるだろうな」


 ツルリが流通屋を営んでいるように、ここ、地下収容所も一つの社会が形成されているのだ。

 収監されてすぐに試合だったので、これまでの数日は気にする暇もなかったが、これからはそこらへんも考慮して行動する必要がある。


「焦っては駄目だ」


 傭兵をやってて、俺は処世術の方はあまり得意な分野ではないと自覚しているが、それでもやるしかない。


「……少なくとも、舐められる心配はないのはいいことだ」


 特殊囚人闘技者の名は、地下収容所でも確かな威となってくるはず。


「脅したりしたら闇討ちを食う可能性もあるから、そこらへんは状況次第って感じか……とにかく30日。次の試合が行われる前に、一つでも何か現状打破の切っ掛けを見つけないとな」


 俺が決意と方針を決めたその翌日のことだった。


 ツルリが半殺しの目にあっているのが見つかるのは。

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