八話 よーし。家の中を案内すっか
「まぁ、大体こんなもんかな?」
他にも質問してみたいことは色々あるけど、また聞ける機会はあるだろう。…にしても、これからどうすればいいんだ?外を案内しようと思ったけどこの長い耳をどうにかしないとなぁ…。
「よし。それじゃあワシは地下の研究室に篭ろうかの。いくつか作って置きたいものができたしの。その間、涼はシシルちゃんの面倒を見てやってくれ。」
「面倒って具体的には?」
「そうじゃな。この家の中の案内と説明かの?異世界は魔法が発展しておるぶん、科学技術などはおろそかになっとったりするしの。」
あぁ、なるほど。確かにそうだったな。
「あ、佳子ちゃんは研究所に戻るといい。仕事中に呼び出してすまんかったの。」
「いえいえ。先生の頼みならたとえ火の中だろうと水の中だろうとVXガスが充満した研究室であろうと駆けつけますんで。」
…本当にこの人ぶれねーな…。てかVXガスが充満した研究室って、爺ちゃん化学薬品とかあんまり使わねーから滅多にないからな。そもそも今の時代そんな猛毒作るヤツとかいねーからな。
そんなわけで、爺ちゃんは地下の研究室に。住谷さんは研究所へと帰っていった。地下の研究室といえばつい三十分ほど前に異世界転移装置ならぬ異世界人召喚装置のせいでボロボロになったが、正確に言うと、あそこは実験室とデータ分析用室と名付けられている。ほかにもあと二つ部屋があり、一つは製作室。もう一つは保管室と名付けられているのだ。これら四部屋をまとめて研究室と呼んでいるのだ。爺ちゃんが向かったのは製作室の方だろう。
「それじゃあ、家の中を案内するよ。ついてきて。」
『え!?ちょ、ちょっと待ってよ!』
リビングを出ようとした瞬間、シシルにいきなり腕を掴まれる。どうしたのかと彼女の方を見てみると、なんだか少し申しわけなさそうな雰囲気を感じる。
『あ、あの…。ご、ごめんなさい!私、勘違いしてて!こんなに優しくしてくれる人なんて知らず、一目見ただけで怯えちゃって…。』
…あ、そういうことか。これって俺を見て怯えたことを謝ってるんだ。一瞬なんで謝られてるのかわかんなかったわ。
「いや、別にいいって。家族が日本人に殺されたんだし、同じ日本人の俺を見て怯えたってしかたなじゃん。」
『…ん?ニホンジン?ニホンジンってみんな涼みたいな顔なの?』
「え?いやいや。なにそのホラー。日本人がみんな俺と似た顔とか恐ろしすぎんだろ。」
んー?なんか話が噛み合ってないような…。
「まぁ、とりあえずそれは置いとこう。今日からシシルもこの家で暮らすんだし、どこに何があるか確認くらいしといた方がいいだろ?」
『え!?い、いえいえ!助けてもらったうえに住まわせてもらうなんて出来ないよ!わ、私なんかはそのへんの森にでも連れて行ってくれればそこで暮らしていけるし…。』
「いやいやいや!いくらなんでもそれは酷すぎんだろ!俺と爺ちゃんはそんな鬼畜野郎なんじゃねーよ!」
『で、でも…』
「…それにさ。シシルは助けてもらったつもりでも、こっちとしては巻き込んでしまったっていう気持ちの方が強いわけだしさ。なんつーかさ、責任って言うの?そういうのは投げ出したくないっていうか、投げ出せないっていうか…」
…なんだろう。今俺、すっげー恥ずかしいこと言ってねーか?うわー…。穴があったら入りたい…。
「と、とにかくさ!新しい家族が出来たって思ってみてもいいんじゃねーかな!?」
ぎゃぁぁぁ!恥っず!テンパりすぎて恥っず!
『…。』
そんなこんなで心の中でのたうち回っている俺の話を聞いて、なぜかシシルは顔を赤く染めていた。
…あのー。シシルさんや。顔が赤いがどうした?
「◦✧⊿…。◦✧⊿◦✧⊿◦✧…。」
ん?なんて呟いてるんだ?声が小さいせいかコンニャクが全然反応しねーな。まぁ、別に問いただすこともねーだろう。
「そんじゃ、改めて家の案内を開始するな。」
そう言って俺はシシルの手を引いて家の中を案内するのであった。