四話 エルフ少女との対話
とりあえず話を聞いてもらえるようで、俺達三人はリビングに移っていた。俺と爺ちゃんと対面するようにエルフの少女に座ってもらい、目の前にお茶を、テーブルの中央にコンニャクを置いておくのは忘れない。
『…ここは一体どこなの?それに、あなた達は一体何者?』
エルフの少女が周りをキョロキョロ見渡しながら話し始める。きっと、異世界では見ないものばかりがあるからだろう。目線が主にキッチンやテレビ、冷蔵庫などの類にいっていることから間違いはないだろう。
「ここはワシらが住んでおる家のリビングじゃ。ワシらは見ての通り人間じゃよ。ついでに言うならここはお主がおった世界とは別の世界じゃ。」
『別の…世界…?』
「信じられんか?この部屋の中だけでもいくつか初めて見るようなものが少なからずあるじゃろう?」
『え、えぇ。…けど、それならなんで私がこの世界に転移したの?』
「…あぁ…、それに関してはこの老いぼれジジイのせいとしか…。」
…おいジジイ。なに目線逸らしてんだよ。んなことしてもお前がこの世界にこの子を召喚したことには変わりねーんだよ。
「悪かったな。俺の爺ちゃんのせいでこんな目にあって。今頃君の家族らは心配してるだろうし、帰してやりたいのはやまやまなんだけど…。」
まだ異世界転移装置が出来てないし、出来ていたとしても更に別の世界に送られ兼ねないからなぁ。
『あ、いやその…。私としてはむしろ助けてもらって感謝しているくらいなの。それに…、心配してくれる家族なんてもう…。』
「「...え?」」
え、なに?なんかすっごく重い雰囲気になってる気がするんだが…。すいません、嘘です。実際に重い雰囲気になってます…。いや、だってさ!まさかこうなると思わないじゃん!現代に親がいないなんてのあんま聞かないしさ!いや俺が知んないだけかもしんねーけどさ!
「...詳しく聞かせてもらえんかの。」
『…えぇ。』
「じ、爺ちゃん!?いいのかよ!」
「仕方ないじゃろ。ワシもこういう話は苦手じゃが、ワシにも責任というもんがある。それに今聞かずともいずれ知るかもしれんしの。先に知っておくことに不便はないじゃろう。」
ま、まぁ爺ちゃんがそう言うんだったらいいが…。
「というわけじゃ。辛いかもしれんが頼む。」
『…まず、私の住んでいた世界の話をするわね。あっちの世界では四つの種が存在したわ。魔力に長けた魔人。身体能力に長けた獣人。死ぬことは無いとされる精霊。そして、人間と私達エルフが含まれる普人。』
…普人?爺ちゃんの持ってたラノベには一つも出てこなかったよな。まぁ、現実と小説に違いは付きものだし、そこまで気にすることはないか。
『人間達は、私達エルフを耳が長いという理由で魔人と判断し、エルフの村を襲ってきました。私だけは捕らえられましたが、他のみんなは容赦なく殺されていきました。』
話をしている彼女は震えていた。きっと、その時の光景を思い返しているのだろう。
『もしあのままあっちの世界にいれば、良くて肉体奴隷、悪くて公衆の面前で殺されていたでしょう。たとえ逃げ切れたとしても、私にはもう居場所がないですし…。そう考えると、あなた達みたいなエルフに偏見を持たない人達にこの世界に連れてきてもらえたのは助けてもらったのと同じです。』
エルフの少女は席を立ち、丁寧に頭を下げる。
『私を助けてくれて、ありがとうございます。』
その言葉はとても痛々しいものだった。自分の苦しみを、悲しみを無理矢理押し殺して言った言葉であった。
「「...」」
部屋の中を沈黙が支配する。今の話を聞いた俺と爺ちゃんは何も気の利いた言葉を言えなかった。
ピンポーン!
その沈黙を切り裂くかのようにチャイムの音が響き渡る。どうやら誰かが来たようだ。
「おぉ。やっときおったか。」
「え?爺ちゃん誰か呼んでたの?」
「うむ。涼も知っとる相手じゃぞ。」
そう言うと爺ちゃんは玄関に向かい、客人を呼びにいった。その間、俺とエルフの少女が取り残され、ものすごく気まずい雰囲気になる。
「『…』」
再び、部屋の中を沈黙が支配する。
「いやいやすまんな。わざわざ呼び出してしまって。」
その言葉とともに爺ちゃんが部屋に入ってくる。結局、エルフの少女とはまともな会話以前に会話すらできなかった。
「いえいえ。先生の頼みとあらば仕事を放り投げてでも駆けつけますよ。」
そう言って部屋に入って来たのはとても見知った女性であった。
「す、住谷さん!?」
「やぁ涼くん。久しぶりだね。」