三話 金髪少女
煙が晴れ、装置の上にいたのは腰まで伸ばされた金髪に、エメラルドグリーンの瞳、若干幼さが残ってはいるが整った顔立ちをしているのがわかる。パッと見、歳は自分と同じくらいか?しかし、気になるところもチラホラ見受けられる。まず、服装。飾り気のないワンピースと例えたらいいだろうか?色は自然に近い色をした緑で、かなり身軽そうだ。だが、土で汚れていたり、焦げて黒ずんでいる部分が所々目立つ。そしてなにより、普通の人よりも少し長い耳。どの部分よりも目立つそれはエルフを連想してしまってもおかしくはないだろう。いや、ただ単に俺が爺ちゃんのラノベを読み過ぎなだけかもしれないんだが…。ただ、これだけは言わせてくれ。俺は断じてオタクでは無い!
「○☆△○!」
「…え?」
突然、金髪少女が何かを叫んだんだけど全く聞き取れなかった。ん?てか今の何語?イントネーションてきに英語ってわけではない気がするし…。てかなんで俺を見てあんなに怯えてんの?俺なんかした?スゲー傷つく…。
と、とにかく。彼女を一旦落ち着かせよう。
「お、落ち着いて。俺別に怪しいもんじゃない…って、言葉通じんのか?」
「○☆!○☆△!○☆△○☆△○!」
…うん、通じてるわけねーよなー…。てか、更に怯えられたし…。あーもー、どうすればいいん…、あ。
「なぁ爺ちゃん。あの女の子の言ってる言葉わかる?」
確か爺ちゃんは全ヶ国語話せたはずだ。本人が確か、「いやー、もし異世界に行った時に色んな言葉を知ってれば偶然当てはまってるかもしれんじゃろ?」とか言ったしな。…改めて思うが爺ちゃんスペック高すぎじゃね?
「うむ。ワシャ知らん。」
はいダメでした。ほんと使えねーなこのジジイ!全ヶ国語話せるんじゃなかったのかよ!
「ふっふっふ。実はこんなこともあろうかと作っておいた物があるのじゃよ!」
いやいやいや!おかしくない!?こんなこともあろうかとってなんだよ!言葉も通じない金髪少女が急に現れるシーンなんてそう予想できるわけ…、あ、いや。案外ありえるな。外国の言葉とか俺マジ無理だし。英語は学校の授業で学ぶがそこまで出来るわけではないんだよなぁ…。
「てれててってて〜!コンニャク型翻訳器〜!」
爺ちゃんが取り出したのは真ん中にボタンの付いたコンニャクであった。なぜそんなコンニャクがリアルなんだよ…。まさか本物じゃねーだろうな。
「なんで今から100年前から連載し始めた漫画に出てくる猫型ロボットがひみつ道具を出す時みたいに言ってんだよ!しかも名前若干パクってるし!」
「涼よ。連載し始めたのは今から107年前じゃ。」
んな細けーこたぁどうだっていいんだよ!
「ちなみにこれの適用範囲は空間内で、口から発せられた空気の振動を読み取り、そこから言葉を解析し、翻訳してくれる優れもんなんじゃ。しかも、解析した言葉を保存しておくこともでき、そのデータをプスタに自動転送してくれるんじゃ。それから…」
「分かった!分かったって!とにかすさっさとそれを起動しろって。」
「ほいほい了解ポチッとな。」
アンタマジで躊躇ねーな!
「◯☆△○!○☆△○☆△○☆!」
『こないで!私に近寄らないで!』
突然、コンニャク型…、あー、面倒だからコンニャクでいいや。コンニャクからいきなり日本語が響く。どうやら金髪少女の言葉を翻訳したようだ。
「よし。涼よ、彼女の言葉を解析出来たぞ。設定で日本語を彼女の使っている言葉に翻訳するようにしといたから、会話できるようになったぞ。」
「早っ!彼女二言しか喋ってねーよな!?そんなんで解析できたとかありえねーだろ!」
「まぁまぁ、物は試しじゃ。とりあえず会話を試みてみれ。」
いや、んなこと言われても信じられねーんだが…。まぁ、とりあえずやってみるか。
「な、なぁ。ちょっと落ち着けって。」
『○、☆△。○☆△○☆△○☆△○。』
一応コンニャクからは言葉が出たみたいだが…。ほんとに通じるのか?
『うるさい!なんで私だけ生かすのよ!どうせなら私も殺しなさいよ!』
おー。どうやら会話は出来ているようだ。にしても、一体どういうことだ?
「いや、俺はなんもしないって。」
『嘘!人間の言うことなんて信用出来ない!』
ん?人間?
「え?君も人間なんじゃ…。」
『人間なんかと一緒にしないで!私はエルフよ!』
ま、マジか!まさかの本物のエルフだと!え?てことはなに?あれって異世界転移装置じゃなく、異世界人召喚装置だったのか!?エルフ…。まさかこの目で本物を拝むことが出来るなんて…。しかし、エルフってイメージ通りなんだな。耳も長いし、胸も小さ…、んっんっ!そ、そんなことより、彼女の警戒を解かないとな。
「なぁ。さっき生かすの殺すのって言ってたのはなんだ?」
『あ!だ、だめっ!そ、そんな奥まで!あ、あぁぁぁぁ!も、もうだめ!イッちゃ…』
「おいぃぃぃぃ!どうなってんだクソジジイ!コンニャクから卑猥な言葉が出てんぞ!」
「ふむ。やっぱりあれだけじゃ解析は不十分であったか。ちょっと待っとれ。再分析すればなんとかなるじゃろ。」
いやいやいや!あんな言葉が解析が不十分なくらいで出るわけねーだろ!何かしらの悪意を感じんぞ!ちょっと責任者出てこいや!
「よし。これならもう心配いらんじゃろう。涼よ、もういいぞ。」
ほんとか?イマイチ信用できねぇ。まぁ、会話を進めなきゃいけないのは確かだしな…。
「ご、ごめん。ちょっと聞き取れなくて…。もう一回答えてもらっていいかな?」
『だから!あなた達人間は私の仲間を!エルフを皆殺しにしたじゃない!』
「…え?」
待てよ…。なんだって?エルフを皆殺し?
『しらばっくれないで!あなた達人間のせいで、どれだけのエルフが死んだと思っているの!耳が長いだけでただでさえ差別してきた癖に、更には殺しに来るなんて!』
「…な…。」
『…なによ。事実を言っただけじゃない。言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!』
「ふざけんなぁぁぁぁ!」
俺は思いっきり叫んだ。いや。叫ばずにはいられなかった。エルフの少女が少し驚いていたが、そんなことなど気にせずに話す。
「エルフを皆殺し!?ふざけんな!異世界の奴らは何やってんだよ!確かに爺ちゃんのラノベでもエルフの差別とかあったけどよ、それとこれとは別だろうが!エルフと言えば金髪美少女だぞ!現に目の前のエルフは美少女じゃねーか!確かにエルフは胸が小さいが、そんなんどうだっていいじゃねーか!どんなに小さかろうが胸は胸であって美少女には変わりねーんだよ!目の前にいる美少女エルフを目ぇかっぽじってよーく見やがれ!こんなの国宝級の…、いや!この世の宝じゃねーか!んなもんを皆殺し!?舐めてんのかコラァァァァ!」
「いいぞ涼!もっと言ってやれ!エルフを殺すなどと戯けたことをしよる輩はワシが、いや!ワシらが許さんのじゃ!」
おう!まだまだ俺の心の叫びは収まらねぇ!どんどん言ってやろうじゃねーか!
『ちょ、ちょとまって!あなた達人間でしょ!?それなのにどうしてそこまで人間を咎めるの?』
「…そんなん、決まってる。」
俺は横にいる爺ちゃんと目を合わせる。爺ちゃんも俺と同じ考えであるのだろう。すっと息を吸って口を開く。
「「もちろん、エルフが最高にかわいいからに決まってんじゃん!」」