一話 死が迫ってるんですが!?
「か、完成じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
地下から家中に渡って感極まった雄叫びが響き渡る。
「うっせーぞクソジジイ!」
いや、冗談抜きで!近所迷惑だろうが!それでグチグチ言われんの俺なんだぞ!つかなんでそんな響くんだよ!ちゃんと地下は防音設備整ったはずだろうが!
俺はとにかく爺ちゃんに対しての文句を心の中で叫んだ。え、なんでって…。そりゃあ近所迷惑になるからな。俺の部屋は防音設備とかないし。
バッコーン!
「涼!早く地下に来るんじゃ!」
「何サラッと部屋のドアぶっ壊してんだよ!鍵とかないんだからいつでも普通に入って来れるだろうが!そもそもそんなハンマーどこに売ってんだよ!」
俺、段野 涼は高校一年です。現在はゴールデンウィークということもあり、ついさっきまでラノベを読んでました。と言ってもこのラノベ、最近のものじゃないんですよ。これはですね…えーと…、今が2076年だから…、72年前に発売されたもので、うちの爺ちゃんの持ち物なんですよ。内容としては主人公が異世界に呼び出されてヒロインのツンデレ少女と契約を結ぶんで…と言う感じなんですよ。ほかにも爺ちゃんはラノベを持ってて、殆どのものが異世界転移、異世界転生ものなんですよね。そして、今目の前にいる俺の部屋のドアをぶち壊した老いぼれジジイが俺の爺ちゃん、段野 和武です。
この爺ちゃん、実はかなりすごい人…、らしいんですけど、未だに信じられないんだよなぁ…。今から42年前の2030年くらいから、この世界の科学技術はものすごくスピードで上がってて、それを可能としたのがミスターKって言われてるんです。実はそのミスターKって爺ちゃんみたいなんですよ。どうやら正体がバレると拉致られて、この世の全てを手に入れれるような代物を造らされる可能性があるそうなんですよ。…どんだけスゲーんだよ爺ちゃん…。
「あ、このハンマーは自作じゃぞ?見た感じ重そうに見えるが、小学生でも持てるほど軽く作っててのぉ。降った時にここにあるボタンを押すことで、周りの空気を圧縮し、それを叩きつけることが出来るんじゃ。調整すれば大体100兆キロパスカルまで可能じゃ。」
「何その無駄に高い性能!もはや軍事兵器じゃねーか!つーかそこまでの空気圧縮できるような代物を小型化しすぎだろうが!」
「あ、ちなみにキロパスカルて示したのは涼がわかりやすいかなと思ったからであってな。ほかの単位で示すとかると…」
「もういい!もういいから!それより地下に向かうんだろ?早く連れてけよ。」
「おぉ、そうじゃったな。では行こうかな。」
あ、あぶねぇ…。危うくいつもの無駄に長くて原理の意味不明な説明をされるのかと思った…。あの話、一旦話し始めると最低でも5時間ってマジでやめて欲しい…。
そんなこんなで、俺は爺ちゃんに連れられ地下にやってきた。そこで目にしたのは象並みにデカい装置であった。
「見よ!これが我が求めていた発明!異世界転移装置562号じゃ!」
ちなみに、562号ということはそれまでの561個の装置は完成はしたものの、起動しなかったり、爆発したり、あるいは全く別の装置でもあった。そういえば一度、確か371号だったかな?まさかのブラックホール出現装置って…。あん時はホント死にかけたわ!それなのに爺ちゃん、あ、すまん、じゃねーよ!
「…で?今回は大丈夫なのか?」
「もちろんじゃよ!このワシに不可能なことなど…」
「それいつも言ってっけどどれも失敗してたじゃねーか!」
「いやいや。今回に関しては心配いらんよ。まず、この装置を起動した瞬間空気中にある原子を高加速で振動させ…」
「それより、早く始めた方がいいんじゃないか?」
「おぉ、そうじゃったな。ついにワシも異世界へ。そして、定番のワシTUEEEEが叶うときが…」
いや待てよ。ワシTUEEEEってなんだよ。俺TUEEEEしか聞いたことないんだが…。あと、必ずしも俺TUEEEE出来るとは限らないからな。数は少なかったが、確実に主人公お荷物と化していたのがチラホラあったかんな。
「そんじゃいくかの。まず、これをここに置いて…」
そう言って爺ちゃんが装置の中央に置いたのは、拳くらいのサイズのキューブであった。爺ちゃんが言うには、このキューブが異世界との次元を通過すると、それに反応して爺ちゃんの持っているプスタと言う昔で言うパソコンに記録されるらしい。…いや、詳しい原理とか知んないけどさ…。
「そんじゃわしらはこっちに移ろうかの。」
そう言って爺ちゃんと俺は隣の部屋に移る。この部屋はさっきの装置のあった部屋を見ることができる。部屋と部屋の間にあるのはガラスではなく、爺ちゃんが開発した超全耐ガラスである。爺ちゃん曰く、あらゆる衝撃や熱など、様々なものに対しての耐性が物凄く高いらしい。…マジで爺ちゃん凄すぎんだろ…。なんでんなもんつくれんだよ…。
「そんじゃいくぞポチ!」
「おい!もうちょい躊躇ってものをしろよ!なに言葉を発する感覚で押してんだよ!なにかあったら…」
ふと、俺は思い出した。この装置のちょっとだけしか聞いていないが原理を。確かこの装置、空気中にある原子を高加速で振動させるって…、電子レンジの原理だったよな…。
そんなこと思っていると、いきなり装置の一部が熱せられたかのように真っ赤になり、ドロドロと溶け始めた。
「あ、これ失敗するかもしれん。」
「おいぃ!今何つったこらぁ!あれ絶対にヤバイやつだろうが!止めろ!さっさと装置を止めろって!」
「あ、うん。無理じゃ。」
「なにサラッと言ってんだよ!下手したら俺らここで死ぬんだぞ!」
「大丈夫じゃて。ワシの開発した超全耐ガラスさえあればこのくらいの熱…」
ふと、ガラスを見てみると、ゆっくりだがドロドロと溶け始めていた。
「おいぃぃぃぃ!あからさまに溶けてんじゃん!なにがワシの開発しただよ!これのどこが安全なんだよ!」
「大丈夫じゃて。死なないと思えはきっと死なない…」
「それただの根性論だかんな!精神論の一種だから物理法則無視できねーだろーが!」
と、そんなことでグダグダで言い合った結果…
ドッカーン!
隣の部屋は大爆発を起こし、その衝撃でガラスも盛大に割れてここの部屋がメチャクチャになりました。