プロローグ
鼻につくのは何かが燃えているような焦げ臭い香り。肌に感じるのはジリジリと熱い熱風。耳に響くのは知り合い達の絶望が込められた悲鳴。目に映るのは炎に包まれている自分の住んでいた村と、知り合い達が次々と殺されていく無惨な光景。
「…やぁ…。いやぁ…。」
少女はまともに喋ることができず、その光景を見つめていることしか出来なかった。動こうとしても、両脇を二人の屈強な男によって抑えられているため、身動き一つ取れない。
なぜ、自分達はこんな目にあっているのか?自分達はひっそりと、穏やかに暮らしていただけなのに。たかが種族が違うだけではないか。
そう。種族が違うのだ。この村を攻めてきたのは人間達だ。しかし、この村に住んでいるのは人間ではないのだ。輝く金髪、少し長く尖った耳にエメラルドグリーンの瞳。自然の中で暮らし、弓を使った狩りを得意とする種族、エルフ。
今ここで起こっている出来事は、二人の勇者が率いる人間達がエルフの村、エンウェザー村襲っているのだ。そして、この捕まっているエルフの少女、シシル・エンウェザーはこの村の長である、フェン・エンウェザーの一人娘だ。今回の出来事の発端は、二人の勇者が所属し、人間達をまとめているウォレス王国の王、アース・ウォレスの命令によるものだ。アース曰く、「国民達にエルフ共の駆逐成功の証明として、長の一人娘を吾の奴隷にする。」だそうだ。しかし、その時の国王の顔には淫らな欲が丸出しであったため、奴隷と言っても肉奴隷だろう。
「勇者様方!エルフ共の駆逐が終わりました!」
一人の兵士が勇者達に任務達成の報告をする。
二人の勇者の外見は、二十代であろうか。一人は男性で、一人は女性だ。この世界では見ない顔立ちと、黒眼黒髪となんとも珍しいものだった。噂ではこの勇者達は、異世界からやって来たそうだ。今はかなりの力を身につけ、魔人や獣人、精霊までも手に掛けようとしているらしい。エルフは人間と同じ、普人だった。しかし、耳が長いという理由だけで普人ではないと判断され、今に至る。
(…なんで?)
なんでみんなころされちゃったの?なんで私は殺されないの?なんで人間達は私達を受け入れないの?ねぇ、なんで?誰でもいいから…。誰か答えてよ!
カッ!
突然、シシルの足元の地面が虹色に光り出す。少女はもちろん、周りの人間達もあ、驚きを隠せない。
(…え?)
よく見ると、光り輝く地面には魔法陣が浮かび上がっていた。光はその魔法陣から発せられ、段々と光が強くなっていき、ついには光が少女を包み込む。
すぐに光はおさまった。しかし、それと同時にあることに気がつく。
「お、おい!エルフの小娘はどこに行った!」
そう。エルフの少女、シシルがいなくなったのだ。
「さ、探せ!まだそんなに遠くへは逃げてはいないはずだ!」
それから数時間、兵士達は血眼になりながらエルフの少女を探すも、見つけ出すことはできなかった。それはそうだろう。なんせ、エルフの少女はもうこの世界にはいないのだから…。