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開戦と裏舞台

ついに第4の軍の登場。長かった……。

それと感想にあった開戦の理由と戦略爆撃、戦後のことについて少し作中で出ます。

日本、西州地方・フィシー公国国境。

 連日、日本への嫌がらせのために多くの人員が死んだこととその補充がまだ来ていなかったこと、そういった事情が重なり、現在国境は非常に手薄だった。

 少し前までなら、それでも大丈夫だっただろうが、日本とフィシー公国が戦争状態に突入した今は最悪の状態だった。

 一応、国境には要塞線があり、この世界の基準でなら、10万の大軍でも1週間は持ちこたえられる規模である。今は人員が不足しているが、それでも時間稼ぎはできる。本国からの援軍が来たら逆襲してやる、と息巻いていたフィシー公国国境騎士団に待っていたのは4式噴進車両100輌と3式自走砲50輌によるロケット弾と迫撃砲弾の雨だった。

 連山による猛爆撃の後に行われたこの攻撃によってフィシー公国国境騎士団の戦死率は90パーセントを超え、フィシー公国の戦線は崩壊。鋼鉄の濁流がフィシー公国になだれ込んだ。






 フィシー公国、ダウマン領。西州地方と近いこの領土では住人の避難が始まっていた。  

 それ自体は何もおかしくないのだが、まだ日本軍がすぐそこまで来ているわけでもないのに、避難する者達の顔は絶望で染まっている。

 理由は彼らが来た方角を見れば分かる。かつて村と畑があったであろうそこは轟々と火の手が上がり、村人達の努力の結晶を灰にしていた。

 焦土作戦だ。田畑を焼き、水源に毒を投げ入れ、住人を追い立てることで敵の略奪を防ぐ遅滞戦術。

 ダウマン領領主フォルテン・ダウマンは強硬派よりは現実が見えていた。そのため日本軍が迫ってきていると知るや、即座に焦土作戦の実行を命じた。

 確かに(この世界における)普通の軍隊ならば補給は現地での略奪であるし、こうすれば敵の補給を妨げつつ援軍が来るまでの時間稼ぎを行えるのだから一石二鳥の合理的な作戦と言えるだろう。

 人心が離れることを除けば、だが。

 考えてみて欲しい。自分達が今まで住んできた家を焼かれ、土地を追い出されて、心穏やかでいられるだろうか?

 そして人は自分が苦しいとき、その原因を知ろうとする。原因が分かれば、それを徹底的に叩く。たとえ、もっと恨むべき相手が鋳たとしても。

 難民と化した元住人達は羅刹と見紛う表情をして、領兵を睨んでいた。






 「順調だな」

 不毛の地となった村から少し離れた丘の上の森から焦土作戦跡地を見て、満足そうに呟く男が1人。

 背後には87式偵察警戒車の廉価版である6式偵察警戒車と数人の兵士が控えている。

 「隊長、今後の予定は?」

 「当初の作戦通り、当作戦地域において焦土作戦の発生は成功した。あとは陸軍の侵攻予定進路で順次焦土作戦を発生させる」

 この会話から分かる通り、フィシー公国で起きている焦土作戦は彼らが意図的に起こしたのだ。

 そのためにしたことは、大した事ではない。屋敷の人間を金と脅しで揺すって領主に色々なことを囁かせたり、残酷な事件を領兵がやったように見せたり、領主の館に火炎瓶などを投げ込んだ程度だ。

 彼らの名は日本国特殊自衛隊、またの名を特軍。表向き大陸間攻撃兵器、NBC兵器等を管理する(使用には総理大臣と防衛大臣、2人からの許可が必要)ほか、盗聴や暗号解読などの諜報、果てには今回のような潜入工作などを行う部隊だ。

 「分かりました。ところで誘拐の命令などは下っていますか?」

 「今のところは無いが、それがどうした?」

 「いえ、731や鎮圧隊の知り合いから、何人か欲しがっていると聞きまして。今回の作戦でそれも行われると思っていましたから」

 隊長は目出し帽から見える黒目を細める。それは不快感の表れであった。

 先ほど挙げた部隊のことを知っていれば、人の心を持つものならば誰でも彼の気持ちに賛同するだろう。特軍の中でも特に薄汚い闇の部分を司る2つの部隊。

 731部隊と移動鎮圧隊、通称解体集団、日本版アインザッツグルッペン。

 歴史、特に戦史に詳しい人ならすぐ分かっただろう。そう日本は歴史の闇に葬られた狂気の部隊を復活せたのだ。

 もっとも普段から史実のような残虐行為を行っているわけではなく、731は異世界特有の病気の研究、鎮圧隊は統治の際に役に立つ心理学や暗号解読、交渉術や尋問の研究などが主な活動である。

 ちなみに731の部隊章は交差する鋸とメス、移動鎮圧隊は髑髏と剣である。

 「……その部隊はこの戦争では動かん。やるとすれば次の戦争でだ」

 「ハッ、了解しました」

 これ以上は危険と判断した隊員は質問を止める。彼だって命は惜しいのだ。

 「さあ、行くぞ。まだやらねばならんことは多いからな」

 彼らは車両に乗り込み、丘から去って行く。そこに人が居た痕跡は残らなかった。






 首相官邸にて小林は安堵していた。目下最大の重要案件であるフィシー公国戦が順調だからだ。

 この戦争の成否は日本の今後を大きく左右する。成功すれば恵大陸などの無人領、西州地方では手に入らないレアメタルなどの戦略物資が手に入る。絶対王政故に好きに開発できなかった山のような資源が、自由に開発できるようになるのだ。

 さらには日本は敵に対しては断固たる態度をとる国だと外国に宣言できる。

 断固たる態度を取れない国は低く見られる。帝国主義全盛のこの世界ではなおさらだ。ヤ○ザやギャ○グではないが、舐められたらやっていけないのである。

 非戦闘員を戦略爆撃で大量虐殺することには、流石に抵抗があった。小林とて、21世紀の価値観の下で育った人間だ。

 だが、それでも小林はこの作戦にGOサインを出した。自身の偽善と祖国の利益を天秤にかけて、利益を取った。

 国家の指導者の役目は祖国に利益を、国民に幸福を与えることだ。この2つを実現するためならば、最悪、自国以外全てを滅ぼすことも視野に入れなければならない。

 そういう意味では、日本の利益のために、個人の感情を切り捨てた小林は日本の指導者として正しかったと言えるだろう。

 「特軍のスター・プリズン作戦も順調、このままいけば、戦後の心配はかなり減るな」

 ニィと口の端を吊り上げる。

 なおスター・プリズン作戦とは、特軍が考案したゲリラ・テロリスト発生防止作戦のことである。

 ふと、思い出したかのように小林は宙を仰ぐ。

 「今頃は陸軍はエレート、海軍はシュぺリア諸島に着いているころか……」

 壁に掛けられた地図(まだ衛星が飛んでいないので少々正確さに欠けるが)に視線を向ける。

 地図に書かれた大陸の4割近くは赤く染まっていた。

 「金を出した以上、それ相応の成果を挙げて欲しいものだ。特に特軍は」

 作戦失敗で戦後テロが頻発されては堪らない、と呟き、小林は『フィシー公国占領計画』と書かれた書類を読み始めた。

次は陸戦と海戦。そして新型機。

いつになるかなぁ……(遠い目)。

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