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海鳥達の巣、動き出す世界

遅れました、海自の話です。

気分転換にネットサーフィンしていたら、ゆっ〇り〇待サイトというものを見つけたので、覗いてみたら、いつの間にか2時間ほど経っていた……。

 空母祥鳳。日本戦後初の改装空母であるこの船に乗っているのは日本人だけではない。共に乗っているのは、かつて日本と敵対したウルバスト人だった。

 「艦長、『ドラゴン・スレイヤー』作戦に参加していた攻撃隊が戻ってきました」

 「分かった。全員無事に着艦できるよう、しっかり誘導するように。着艦失敗で死亡だなんてしたら、本土のお飾り空母の連中に笑われるぞ」

 「アイ・マム」

 連絡してきた士官は走りながら自身の持ち場に戻っていく。その背中を見ながら祥鳳艦長、エリサ1等海佐はホッとする。

 この作戦はウルバスト人がニホン軍として参加する始めての作戦(各地の山賊、海賊、空賊討伐のために傭兵扱いで雇われることはあった)だったのだ。

 もし失敗していたら『ウルバスト人は近代国家の軍には不適格である』という烙印を押されかねなかった。そうなればニホンの支配領域内におけるウルバスト人の地位が低下する。

 この時代、軍人の地位は高い。植民地出身でも功績を挙げれば名誉○○人(丸には宗主国の名が入る)の称号と国籍が手に入るのだ。

 逆に言えば、軍人を輩出できなければ永遠にその地位は低いままだ。

 ニホンの価値観を考えれば、一部は技術者としてそれなり地位を築けるだろうが、全体としては対等な地位など望めない。

 「スタートは上々、あとはこの勢いを維持できるか、だな」

 「勢いを維持するのも重要ですが、多少は休憩も必要ですよ?」

 相槌が返ってくるとは思わなかったので、目を見開いて振り返る。

 そこには2等海佐の階級章をつけた初老の男が立っていた。

 背丈は日本人と変わらないが、皺が深い顔の中に浮かぶ猛禽の如く鋭い瞳の色は日本人にはありえない青だった。

 バジル・レーダー。かつてニホン討伐艦隊の指揮官だった男であり、その艦隊を撃滅した海自幹部をしてウルバスト海軍最高の指揮官と言わしめた傑物である。

 先ほどまで機関室に行っていたのだが、いつの間にか戻ってきたようだ。

 「レーダー中佐か。聞いていたのか。というか戻っていたのなら話しかけてくれ」

 「申し訳ありません。戻ってきたところで独り言を呟いていたので、つい」

 まったく反省していないことが分かる軽い笑みを浮かべ、うわべだけの謝罪をする。

 エリサは不満そうに眼を細めるが、この掛け合いは2人、というかウルバスト海軍の伝統情事のようなものなのでそこまで気にしてはいない。

 「まあいい。それで宗主国の皆さんはどうしていた?」

 「今日もクルーをしばいていました。ですが、そのおかげで機関に触る程度は許されたようです」

 「ほう」

 エリスは花が咲いたような笑みを浮かべる。最初の頃は近づくことさえ禁じられていたのだから、これは大きな進歩だ。

 「もっとも機関室の連中に限らず、大半のクルーは不満を抱いているようですが」

 「しかたあるまい。つい5年前まで我々は近代国家のきの字もない後進国の国民だったのだからな」

 自虐を大きく含んだ言葉を聞いてレーザーの顔は大きく歪む。だが否定できない。事実、辺境の蛮族と侮っていた相手はこれほど発展していたのに(実際は転移国家だが、多くのウルバスト人は御伽噺か箔付けのハッタリだと思っている)、自分達は産業革命すらなせていなかったのだから。

 「確かに蒸気機関は作れませんでした。ですが、それに匹敵する魔法機関を作りました。あのまま研究していたら魔法文明による産業革命を……」

 「産業革命だけでは意味がない。その先にある様々な魔法機械、国家体制を作らないと、ニホンと張り合うなんぞ無理だ」

 「…………」

 「それに魔法機関は魔法使いしか扱えない。いずれはただの人間も扱えるようになるかもしれないが、特権意識に凝り固まった連中が頷くとは思えんな」

 正論だった。ぐうの音もでないほどに。エリサが語ったことは、少しでも旧ウルバスト王国のことを知っていれば、納得できるものだった。

 「(結局、我々はどう足掻いてもニホンには勝てなかったと言うことか……)」

 大きく息を吐き出し、レーザーは窓までトボトボ歩く。飛行甲板では3式艦上攻撃機天山が着艦したところだった。

 直線甲板と比べて、独特の難しさのあるアングルドデッキに着艦した。それもウルバスト人が、5年前まで非近代国家の蛮族と陰口叩かれていた我々が。

 その事実にレーザーは少しだけ心が安らぐ。甲板では天山から降りたパイロットと後部銃手兼航法士が空母鳳翔のパイロット(予定)と話していた。

 「ハッハッハッ、彼らも元気ですなぁ。精神を削る着艦を終えたあとに、ああもがっつくように質問するとは」

 「海原大佐?」

 いつの間にかレーザーの隣には恰幅のいい中年男が立っていた。笑うたびに腹が盛大に揺れ、愛嬌のある顔を綻ばせている。

 自分達の祖国を奪ったことと(正確には自分達の王子が自ら併合を申し出たのだが、多くのウルバスト人はそれを信じていない)、異民族への無知ゆえに日本人に不信感を抱いている祥鳳のクルー達だが、明るく気前のいいこの上司とその部下達は嫌いではなかった。

 「この勢いでいけば3年後には我々なしで運用できるかもしれませんな」

 「いえ、まだまだですよ。今の調子では3年後も貴方方のお荷物ですよ」

 海原の楽観的な言葉を、レーザーは苦笑して否定する。

 ウルバスト人に空母を与えること決定した防衛省だが、機械のきの字も分からないような連中に空母を扱えるのか? という疑問が出てきた。

 そこで防衛省は、書類上はウルバスト人が空母を運用していることにし、実際は日本人が動かすことにした。

 なお、ウルバスト人は手伝い兼勉強をしており、いずれは彼らだけで運用するようになる予定である。

 「そうですか。まあ、あなた達の訓練と勉強が出来る予算は確保するんで安心してください」

 「ありがとうございます、海原大佐」

 ありがたい言葉だった。「俺達のことを蛮族呼ばわりしていた劣等民族の分際で空母を持つなんぞ生意気だ」、「あんな負け犬共に何か与えることは間違いだ。中国や朝鮮の連中を見れば分かるだろうに」と自分達に聞こえるところで言われてきた身としては、最低限の予算すらないと覚悟していた。

 だから必要な予算を確保してくれる海原には、クルー全員が感謝していた。

 「お気になさらず、レーザー2佐。これが私の仕事ですから」

 そういって2人は笑いあった。






 フィシー公国、金牛宮。

 フィシー公国の政治の中枢に位置するこの宮殿ではある話題で盛り上がっていた。

 それは即ち東海より現れし大国、ニホン。最初は「海の向こうの蛮族」程度の認識だったのだが、隣国ウルバスト王国が短期間で攻め滅ばされると、ニホンのことを「新種の悪魔」、「異世界からの侵略者」などと呼ぶようになった。

 「やれやれ、宮廷連中は慌てすぎだ。まだ連中が何なのかすら分かっていないというのに」

 様々な貴金属で彩られた部屋で、銀髪の男は嘆かわしいという風に首を振る。

 男の名はレベルチューネ・シェル・フィシー。フィシー公国の支配者だ。

 中央大陸東部に存在する4大国の内の一角であるフィシー公国はニホンのセイシュウ地方と国境を接しており、国境の小競り合いでは常に敗北している。

 レベルチューネは国境での小競り合いに関する報告書を読んでいた。

 「ウルバスト戦役(日本領外での日卯戦争の呼称)では鉄の飛竜、鉄の巨大蟲、鋼鉄の魔獣、戦列艦よりも巨大な軍艦が確認される。そして国境で確認されたのは鋼鉄の魔獣の内、地竜型と多頭竜型か……。そのうえ数は最低でも10匹以上ね」

 まいったねこりゃ、と国境を監視していた魔法使いからの報告書を机の上に放り、椅子にもたれ掛かる。

 現在分かっているだけでも、ニホンの戦力はフィシー公国の全戦力を超えていた。下手な亜人よりも高価な魔獣。そのなかでも特に希少かつ高価な竜を多数、しかも複数種揃えて、満足に運用できる国は中央大陸には片手で数えるほどしかいない。

 そして残念なことに、フィシー公国はそのなかに入っていなかった。

 「(今のままじゃあ、ニホンに勝てないのは確定。じゃあ、どうするんだって言われたらどうしようもないんだよぇ。これだけの竜を運用できるんだから補給はフィシー公国よりしっかりしているだろうし、かといって海軍はニホンと比べたらお遊戯レベルだもんなぁ)」

 まったくもって救いようのない、詰みであった。

 そして宮廷の対日強硬派は戦争する気満々である。レベルチューネもその流れを止めることは難しい。

 「(リシェーヌ王国を通じていつでも降伏出来るようにしておくか。最低条件として王室の維持と僕と僕の家族の安全が通るようにしておくか。できれば忠臣たちも見逃してほしいけど……、全員は無理だろうね)」

 忠臣の何人かを死なせねばならないことに対する怒りがこみ上げる。そしてその怒りは宮廷の強硬派へ向かう。

 「彼我の力の差も分からないのか出涸らしどもが」

 執務室にレベルチューネの静かな、だが底冷えするような声が響く。そのまま手を組んで俯いていたが、部屋の鈴がなったのに気付くと、笑顔を浮かべて来客を出迎える。

 「おとーさん!」

 「カール、いい子にしてたか?」

 「うんっ、僕、お母様の言うことちゃんときいてたよっ」

 「そうかそうか偉いぞ~~」

 そう言ってレベルチューネは息子であるカール・シェル・フィシーの頭を撫で回す。

 カールは笑顔で。

 「おとうさま、今日もニホンにかんするお仕事をしてたんでしょ?」

 「? ああ、そうだが。それがどうした?」

 「僕ね、あのね、はやく大っきくなってりゅうきしになってにほんをやっつける!」

 「おお、そうかそうかお父さんは嬉しいぞ~~」

 えへへ~と笑うカールを見てレベルチューネはこっそりため息をつく。恐らく強硬派の貴族の子どもと遊んでいたのだろう。

 「(この子が成人する頃にはフィシー公国はないだろうねぇ。そのとき竜騎士になるとすれば、それは鉄の飛竜を従える騎士だ)」

 きゃっきゃっとはしゃぐカールを尻目にレベルチューネの思考は続く。

 「(カールが竜騎士になってくれれば僕達一家の安泰にも繋がるし、負け犬の王家というレッテルを取り払うことも出来るだろう。できれば僕がやりたいんだけど、しばらくは監禁、良くて軟禁だからなぁ)」

 愛するわが子にそんな重荷は背負わせたくないが、他にいい方法がない以上、仕方がなかった。

 そんな父の憂鬱に気付かず、カールは元気いっぱいに叫ぶ。

 「ばんぞくにほんめ! このぼくがたいじしてやる!」

 カールは笑う。日本からしたら、自分達こそが蛮族であるということを知らないまま。






 ロマエト連邦。首都、ロトル。1年中、極寒の真冬に包まれるこの国の中では比較的、温暖なこの都市では毎日、多くの人が行き交う。

 その中央、サビデグルド宮殿。かつて王侯貴族が華やかな舞踏会を開いていたこの場所は、今は新たなる支配者によって表は新時代への希望が溢れる、裏では地が滴り続ける魔境となっていた。

 魔境にしたのは、鉄の皇帝と呼ばれる男、デュガ・アリバトス。表向きは腐敗した王侯貴族の打倒を掲げ、実際は被差別民族出身故に受けてきた数々の差別への報復のために王政打倒の旗を利用している独裁者である。

 「これがニホンの力か……」

 かつて国王の執務室であった場所は、質実剛健を信条とするデュガによって質素な部屋に変わっていた。

 灰色が目立つ部屋の中で、デュガはニホンに関する報告書を読んでいた。

 「フィシーのボンクラ貴族共はニホンの軍事力ばかりに眼が行っているが、真に恐ろしいのは複数の竜をこれだけの規模で揃えられる経済力だ」

 デュガの指摘は正しい。軍隊とは基本的に金食い虫だ。平時では真っ先に削りたい分野第1位に挙がるほど金を食う。

 この世界において、国を傾けずに大戦力を維持できるのは、それだけで超大国の証である。

 「加えて中の国で開発されている竜母を既にニホンは4隻も保有している。ああ、最近新しい竜母が確認されたから5隻か」

 憂鬱そうにため息をつく。更に頭痛を強めることが、ボスベア火山でのニホン軍の竜退治だ。

 「……制空用の飛竜を60匹、攻撃用の飛竜を16匹用いての大空襲か。こんな攻撃を受けたら中の国、グラン・イデア帝国でもただではすまんな」

 はるか西にある超大国と、中央大陸最大の超大国を思い出す。ロマエト連邦とは比べ物に発展した国家を。そしてすぐにそれを超える超大国を思い出して憂鬱になる。

 「何とかしてニホンに接近しなければならないな。グラン・イデア帝国は信用できん。金にはがめついが、恩には恩を返すニホンの方がマシだ」

 デュガはそう結論付けると、机の上に詰まれた書類の束を捲る。

 「ふむ……、シドリア島の開発か……ニホンへの餌に使えるか?」

 シドリア島とは周囲が岩壁で覆われた人類未踏の地だ。飛竜を用いた開発も考えられたが、コストが釣り合わないとして開発計画は破棄された。

 「フィシーの間抜けは気付いていないようだが、リシェーヌ王国は既にニホンの下についている。我々も遅れを取るわけにはいかん!」

 独裁者デュガは気炎を上げ、仕事に取り組む。自身の為、祖国のために。






 リシェーヌ王国。芸術の国とも呼ばれることもあるこの国の王、リム・リシェーヌは朗らかに笑う。

 「無事にニホンの下に入り込めたのう。これで王国はしばらくは安泰じゃ」

 そう言って笑っているが、目はまったく笑っていない。

 「だが、これだけでは終わらんぞ。急いで近代化を行わなければ」

 リムが目指すのはニホンの勢力圏における第2位だが、同時に国交を結ぶことを望む国の紹介や、講和の際に仲介役を任される存在になるつもりだった。

 そうなればニホンもそうそうリシェーヌ王国を滅ぼそうとしないだろうし、他国から攻撃を受ければ優先して守ってくれるはずだ。

 リムは明るい未来を想像してニンマリ笑う。 

「宗主国殿が頑張っている間、我々はゆっくりやらせていただこう」

 日本の首脳部が羨ましがる地位を地位を手に入れて、リシェーヌ王国国王は安心のようだった。

次回は前置き的な回です。たぶん短い。

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