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政治と国境

ああ~、体がバキバキするんじゃあ~。

さすがに2日連続パソコンの前に座っての作業はきついですね。毎日投稿できる人ってどんだけすごいんだ……。

初戦闘です。いろいろおかしいかもしれません。

それと感想の返信は少し待ってください。さすがに身体ほぐしたいので……。感想くださった方々、すみません。

 東京、首相官邸。日卯戦争(日本・ウルバスト王国戦争の正式名称)から5年経ち、新しい時代に入った日本の中枢では転移以前と変わらず、会議が行われていた。

 「では始めようか」

 そう言って会議の始まりを取り仕切るのは総理大臣の小林道夫。転移の際、見事な手腕で混乱した国内をまとめ、低迷した経済を立て直し、戦後初の戦争を勝利に導いた先代首相と交代する形で就任した男であり、今の自生党の代表だ。

 自生党と並ぶ2大政党であった民生党が転移以前の悪行の数々(特定のアジア国家からの賄賂、国内における工作への協力などなど)が明らかになったことで徹底的に叩かれ解散に追い込まれたことで、事実上の1党独裁状態に入った自生党の代表になったことから国民からの期待も高い人物でもある。

 「まずは経済だな。山下経済産業大臣、現状報告を」

 報告を求められた黒縁の眼鏡をかけた中年、山下学経済産業大臣が答える。

 「恵大陸と宝島諸島と旧ウルバスト王国領の開拓で転移直後よりは回復しています。特に建築、造船、航空機関係の株価は転移以前でも見られなかったほどの上昇傾向にあります。ああ、農業と鉱業も盛んですな」

 明るい表情で好景気であることを語り、小林も表情を明るくする。

 「そうか。まあ今挙げた産業は経営改善が決まっていたからな。本音を言えば電化製品の輸出で儲けたいんだが……」

 そう言って視線を狛犬正義防衛大臣に向ける。視線を受けて異世界調査の大部分を担う自衛隊の長は静かに答える。

 「以前にもお話しましたが、ウルバスト王国を降した我が国と貿易を望む国は多いです。ですが文明レベルが非常に低く、技術流出防止法もあるので、こちらから輸出できるものはほとんど無いでしょう。現場からの報告を見る限りでは、最も需要があるのは兵器ですし」

 「だろうな」

 小林は落胆するわけでもなく、納得したように相槌を打つ。言った本人もさほど期待していなかったのだろう。

 ちなみに技術流出防止法とは日卯戦争後に可決された法律で、この世界における日本の技術的優位性を保つために考案された。

 ふと思い出したように小林は狛犬に質問する。

 「軍備の方はどうなっている? 先の戦争から5年、大分進んだと聞いているが?」

 この質問に狛犬は堂々と胸を張って答える。

 「陸空の戦力の整備は進んでいます。陸上自衛隊は1式主力戦車、2式多砲塔戦車、1式攻撃回転翼機隼が、航空自衛隊は3式戦闘機飛燕が新領土の国教付近において活躍しています。それに加え、近々新型の4式噴進車両と5式戦闘機若鷲が前線に投入されます」

 「5式戦か。前世界の大戦末期に活躍した機体の名称と同じだな」

 「はい。ですが彼の機体とは比べ物にならない高性能機になっております」

 鼻高々と説明する。転移以前の冷遇の反動ゆえか、日卯戦争以後自衛隊全体にこのような態度が目立つようになった。

 なお兵器の名称に使われている数字は年号から取ったものだが、西暦でも皇紀でもなく、新暦という新しい暦である。

 異世界転移の混乱から立ち直り、転移後最大の危機であった日卯戦争終結の年から始まる。

 「なるほど、陸と空については分かった。海はどうだ?」

 狛犬は残念そうに首を横に振る。

 「攻撃力向上のためのターボロップ機搭載の機動部隊、シーレーン防衛のための護衛艦隊は揃えましたが、それだけです。廉価版そうりゅう型潜水艦、商船構造の軽空母、液体火薬砲もしくはレールガン搭載の薩摩型戦艦などの新型主力艦は起工すらしていません」

 「仕方ない。新領土防衛のためには陸と空に予算を割かねばならない。液体火薬とレールガンは陸でも使うから割けるが、潜水艦と戦艦は無理だ」

 小林は苦笑する。狛犬が固定翼機搭載の空母復活を願っていることは有名だ。

 だが現状、その願いを叶えるのは難しい。前世界と違い、自衛隊が守る領土は大幅に拡がった。そして本土以上に危険度が高く、本土の次に守るべき土地に敵が来るとすれば海からではなく陸からだ。

 海の脅威が減り、陸と空の脅威が増えた以上、予算をそちらに回すのは当然だ。

 「まあ海上自衛隊の整備はもう少し待ってくれ。来年からは予算も多少は増えるからな。なあ音無財務大臣?」

 訊かれた音無庄治財務大臣は淡々と答える。

 「新領土開拓への投資と新領土の国民に対する義務教育によって購買意欲向上と平均所得額上昇が見られます。インフラなど、金を使うべき部署が多いので大幅の増額は認められませんが、多少は増やせます」

 「予算が増えるのはありがたいのですが、無人の恵大陸と宝島諸島だけでなく、西州地方も大きいというのは問題ですな」

 「どういう意味ですかな? 狛犬大臣」

 音無は僅かにムッとした様子で狛犬に問う。自分の仕事にケチつけられたように感じたのだろう。

 狛犬は不満げに答える。

 「海洋国家が大陸に手を出しても、最終的には叩き出されます。満州に進出した大日本帝国、インド亜大陸を支配していたUKを見れば分かるでしょう?」

 海洋国家である両国は大陸利権に惹かれて大陸に進出した。だが大日本帝国はアメリカに負けると共に横から利権を奪われ、UKは多少の影響力こそ残せたものの、インドの独立を認めざるをえなくなった。

 「それに将来、西州地方が日本から独立したら隣国となり、日本の技術を吸収した容易ならざる敵になります。隣国を支援する国は滅びる、これは地政学の観点から見ても明らかです。我が国も経験しているでしょう? 中国への経済支援の見返りは我が国にとって脅威となる覇権主義の軍事大国の誕生でした」

 狛犬の言うことは正しい。日本の将来を考えれば、沿岸地帯の割譲、外交権の剥奪、軍事力の制限を科して保護国化したほうがよほど賢い。

 日本は新たな市場と緩衝地帯を得て、資源、食糧不足も多少はましになる。何より保護国化したウルバスト王国の面倒を見る必要がない。崩壊しない程度に支援する必要はあるだろうが、丸ごと抱え込むよりは経済的だ。

 「だがあのときウルバスト王国を併合しないほうのデメリットが大きかった。併合の申し出があったのに、断ったら諸外国から舐められるし、国民と経済界からの突き上げはかわせなかった」

 あのときは誰もが餓えていた。食糧に、金に。政治的な理由もあったが、最大の理由は餓えだ。

 狛犬が渋々といった様子で頷く。この防衛大臣が満足する日はまだまだ先のようだった。

 





 旧ウルバスト王国領。今では西州地方と呼ばれるこの地は東から来た新たなる支配者によって古く淀んだものは打ち壊され、代わりに新しい風が吹き込んだ。

 西方国境警備基地。隣国フィシー公国とフィシー公国の支援を受けてゲリラ活動する元ウルバスト貴族から守るべく、今日も戦闘が発生していた。

 「今週で3回目か。連中には学習能力が無いのか?」

 陸上自衛隊の迷彩服を着た不精ひげを生やした男、片桐真司1等陸尉は呆れた様子で愚痴を言う。

 西州地方第4国境警備基地、第5機甲師団第1小隊に所属している彼は、この基地に来てから何度目か分からない襲撃にウンザリしていた。

 向こうも多少は学習しているのか、剣や弓を持った騎士では無く魔法使いや亜人と呼ばれる丸太を持った大型の人型生物を投入してくるようになったが、1式主力戦車、そしてこの隊に配備されている2式多砲塔戦車の敵ではない。

 2式多砲塔戦車とは戦後初にして実用的な多砲塔戦車だ。74式戦車の車体を流用し、主砲は海上自衛隊の艦砲を流用した62口径76ミリ砲で旋回砲塔に搭載されている。副砲は車体に固定され、90口径35ミリ機関砲KDEを使っている。旋回砲塔の上部に1基、車体後部に2基搭載された全自動無人12・7ミリM2重機関銃搭載型RWSを使うことで人員の削減と共に防御力の向上に成功した。

 「片桐1尉。4偵からの情報では、敵は5人と1匹です。魔法使い3人と騎士らしきのが2、亜人はオーガではないようです」

 部下からの報告を聞きながら片桐はジッポーで煙草に火を点ける。

 なお4偵とは4式無線式無人偵察機のことでターボロップエンジン搭載の高性能機であり、人工衛星が全滅したこの世界では貴重な偵察手段としてありがたられていた。

 「オーガではない? じゃあなんだ?」

 「恐らくサイクロプスかと。赤外線画像からしてオーガにはない湾曲した牙が生えているのが分かります」

 「調教が難しいサイクロプス1匹に育成が大変な魔法使いが3人とは豪華だな。まあ今日死ぬんだが」

 片桐の言葉に隊員達は嘲笑を浮かべる。

 「さあ、行くぞお前ら。産業革命すらなしていない連中に、近代文明の偉大さを教えてやれ」

 プッと煙草を吐き捨て、命令を下す。

 「戦車、前進!」

 2式多砲塔戦車のエンジンの咆哮が荒野に轟く。履帯が回り、土煙をあげながら前進する。

 89式装甲戦闘車の廉価版である3式装甲戦闘車2両が続く。

 15分後、機関砲手兼無線手から新しい情報が来る。

 「1尉。連中、こっちに気付いたようで岩の陰に隠れて奇襲する気のようです。4偵のカメラが捉えました」

 「こちらとの距離は?」

 「8キロです」

 「よし主砲、副砲ともに射程に収まっているな。3FVに連絡しろ、停車した後射撃体勢に着け。合図と共に攻撃せよ」

 「了解」

 外から履帯の音がしばらく響き、やがて無音に包まれる。装填手兼射手と機関砲手兼無線手に視線を向ける。

 2人とも頷き、車内に緊張感がはしる。片桐は腹の底から声を出す。

 「撃ぇ!!」

 戦車砲1門と機関砲3門が敵を打ち砕くべく火を噴いた。

 35ミリの機関砲弾は岩を砕き、隠れていた敵を肥料に変えていき、76ミリ砲弾は大岩共々サイクロプスの4メートルの胴体を爆散させ、頭部と四肢のみにする。

 この1撃で勝敗は決した。






 光の線が宙を翔る。その度に光の線の先にある物体は爆せ、粉々になる。そして轟音が響くたびに光の線とは比べ物にならないほどの爆発が起きる。

 「くそ! ジャック、大丈夫か!?」

 「大丈夫なわけないだろうが!」

 騎士学校時代からの友人であるリオンに怒鳴り返す。

 この状況で大丈夫などと言える奴などいない。敵の魔法攻撃でこちらは全滅一歩手前だ。

 東海からきたという蛮族。それが彼らの日本に対する印象であった。

 奇怪な術と魔法兵器を使うらしいが、フィシー公国は蛮族如きに後れをとったウルバスト王国とは違う。誇り高きフィシー公国騎士団の力を持って蛮族どもを滅してくれる、と息巻いていた。

 現在ではそのときの自分を全力で殴り殺したい気持ちになっていた。

 こんなことなら何かしらの理由をつけて逃げればよかった。ここに来るべきではなかった。

 後悔している間にも敵の足音と魔法兵器の駆動音が近づいてくる。

 「(来るな!! 来るな!!! 来るな!!!)」

 だが鋼鉄の魔獣はその必死な願いも踏み潰す。

 RWSが放った12・7ミリ弾が蹲っていたジャックの身体をつま先からつむじまで耕した。






 何もなかった荒野はクレーターと死肉、硝煙で溢れた地にデコレーションされていた。

 「生存者はいるか?」

 夜の風が吹き荒ぶなか、温かくなった主砲に腰掛けた片桐は普通科隊員に生存者の有無を問う。

 「フィシー公国の騎士らしき男1人、右足が吹き飛んでおりますが生きています」

 「他は?」

 「全員身体の大部分を吹き飛ばされていて即死です」

 そうか、と答えると担架に乗せられた男を見る。金髪の白人男性でひげを生やしているが片桐と違って整えてある。

 「貴族のボンボンかねぇ?」

 「騎士ですし、充分ありえるかと」

 片桐の独り言に隊員は律儀に反応する。

 「3年前から変わらんが、今回も証拠はあるんだろ?」

 「騎士と魔法使いの装備品に貴族の紋章が入っている時点で隠す気がありませんね。これで白を切れると思ってるんでしょうか?」

 「特に言って来ないし、攻めて来る気配がないから大丈夫だと思ってるんじゃないか? あとそれは盗賊に奪われたもので我が国とは関係ない、と言うつもりか」

 「どっちにしろ馬鹿ですね。我が国に喧嘩を売ることがどういうことか分かっていないのしょう」

 普通科隊員は心底馬鹿にした様子でフィシー公国上層部を貶す。いきなり現れた謎の勢力に、そこそこ軍事力を有する隣国が短期間で制圧されたら警戒するものだ。にもかかわらず、舐めきった行動をしているのが愚かに見えるのだろう。

 「(ま~た戦争かねぇ。すぐおっぱじめることはないだろうけど、3年もすりゃあ海さん以外は準備も整うだろうし)」

 いずれ来るであろう次の戦争に片桐はそっとため息をついた。

次は空自の予定。

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