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朽ちた玉座には人形を、略奪者には富を

 グラン・イデア帝国東海岸中部は特需に湧いていた。

 カルモ皇子が東海侵攻を目的とする大規模な軍拡を始めたことで東海岸では造船所と工場が24時間フル稼働で働いていた。

 さらに資本家達も資本を投下し、支援を受けた者達は次々と生産設備を立ち上げてこの戦争特需に参加していった。

 そして東海に現れた異世界人の国家がその富を毟り取るための艦隊を沖合いに派遣していることに彼らは気付いていなかった。






 「帝都との連絡はまだつかんのか?」

 「はい。先ほどから何度も掛けているのですが……」

 「ふむ、もうしばらく掛け続けろ。それでも駄目なら連絡機を飛ばす」

 中央大陸中部最大の軍港であるガルチャッカの司令官は帝都との連絡が取れないことを不審に思ったが、まさか既に壊滅しているとは知らずに何とか連絡を取ろうとしていた。

 そんな彼らの耳にレプシロ機とは違う爆音が入る。

 「何の音だ?」

 彼らがその音の発生源を知ったときには手遅れであった。海上自衛隊第4空母機動部隊所属雲龍、葛城から発艦した17式艦上戦闘機のミサイルと爆撃でガルチャッカ軍港と司令部は艦隊共々消滅した。

 『鮫は狩り終えた。繰り返す鮫は狩り終えた』

 東海岸中部の中でも特に生産設備が充実した地域に秋津型強襲揚陸艦の後部ハッチから放出された陸上自衛隊の13個師団が乗り込んだ。






 日本が中央大陸で行う作戦は2つ(大陸に対する大量破壊兵器投射作戦『デス・オブ・パウダー』は『大陸に』行う作戦なのでここには含めない)。

 1つはカルモ皇子が進めていた軍拡に使われている生産設備の奪取。

 理由としては日本の生産設備が友好国(属国とも言う)であるロマエト連邦、リシェーヌ王国に売却するには不適切であったからである。

 日本の指導の下で近代化に勤しんできた彼らだが、それでもまだ日本との差は隔絶していた。

 日本製生産機械は彼らが扱うには高度すぎたのだ。辛うじて維持こそできていたが、それでも厳しい状態に変わりは無かった。

 代わりとなる機械を導入しようにもレメリア、ブレジアは政治的に無理、扶桑帝国も技術レベルの差を考えると難しい。

 困り果てた両国に友好国(宗主国)日本はある提案を持ちかける。

 ちょうどいい生産設備が手に入るかもしれないけど、欲しくないか? と。

 その生産設備こそが、13個師団を派遣して奪い取ろうとしているグラン・イデア帝国東海岸中部のものである。

 この史上最大の略奪作戦、『パイレーツ・イーストシー』では艦艇はもちろん、内陸部の陸軍関係の生産設備も奪うことになっていた。 

 文字通り、日本はグラン・イデア帝国の遺産を根こそぎ奪い尽くすつもりだった。

 もう1つの作戦は半島で行われようとしていた。

 





スカルビジナ半島。中央大陸の北北東に存在する地域である。

 良質な鉄鉱石が採掘されるが、冬は海が凍る事と既存の工業都市から離れているためそこまで重要視されることはなかった。

 だが帝都から離れていることに目をつけたカルモ皇子が半島の船に出向禁止令を出し、唯一の陸路を封鎖したことで、事実上の流刑地に作り変えた。

 そんな鉄と氷の牢獄にグラン・イデア帝国良識派とその筆頭であるフィリア・レジェットは居る。






 雪鹿宮。皇族が避暑地として訪れた際に使用される別荘のベランダでフィリア・レジェットは読書をしていた。

 婚約者であるカルモ皇子に追放されてから彼女は静かな日常を過ごしていた。

 物資の流入が制限されているため華やかな舞踏会等は開かれなかったが、元々大人しい性格だった彼女はパーティが好きではなかった。

 この追放も最初は婚約者に追放されたことにショックを受けていたが、今では長い休暇と考えていた。

 「今日も平和ね……」

 ベランダから見える雄大な自然を見て呟く。

 日本との戦争が近づいていることは知っているが、日本の艦隊がここまで来るとは思っていない。

 鉄鉱石こそ採掘できるが、橋頭堡としては使い勝手が悪く、上陸地点としても波が荒く、迎撃されやすい地形のため不適切。資源狙いは一番ありえない。大陸を押さえた日本が資源で困るとは思えない。

 半島よりも有用な資源地帯はいくらでもあるのだから。

 そう考えていた彼女の元にレジェット家の執事が駆け込んできた。

 「どうしたの?」

 慌てた様子の執事に彼女は落ち着いた様子で質問する。執事は驚愕に歪んだ表情で報告する。

 「お嬢様!大変です!に、ニホン軍が近海に出現しました!」

 「何ですって……!?」

 フィリアはこの報告に驚愕する。この時期に来ることは先ほど理由でありえないと考えていたため余計に混乱した。

 「被害は!?いえ、それより避難をしなければ。急いで避難を!」

 目的は不明だが、敵であることに変わりは無い。避難を開始するよう命令する。

 が執事は首を横に振る。

 「いえ、お嬢様。彼らは攻めに来たわけではないようです」

 「……?どういうこと?」

 艦隊を派遣しておきながら攻めない理由が彼女には分からない。執事も困惑した様子で続ける。

 「彼らはお嬢様を含む良識派の方々と交渉したいようです」






 雪鹿宮から5キロ程離れた場所にある高級ホテル・カミナンデス。長い歴史を有するホテルの1室でグラン・イデア帝国良識派は日本の特使を待っていた。

 「(困ったわね……)」

 周りの貴族がヒソヒソ話し合う中でフィリアは1人思考していた。

 大した守備隊もいないスカルビジナ半島に大艦隊を派遣しておきながら、わざわざ特使を送って交渉したいと言った日本の意図を読めずにいた。

 艦隊を派遣したのは砲艦外交だと推測できるが、そこまでして欲しいものがこの半島にあるのだろうか? 自分達の身柄はないだろう。追放された自分達は帝国との交渉材料にはならないだろう。日本を蛮族だと思っているカルモ皇子なら「蛮族なんぞと交渉できるか!」と言って切り捨てるだろう。

 相手が何を望んでいるのか分からない。これほど交渉で不利な条件は無い。

 だがそれでも望まねばならない。他に選択肢など無いのだから。

 ドアがノックされた。執事が扉を開けて訪問者を迎え入れる。

 「どうぞ」

 部屋に入ってきた日本の特使は伝え聞く日本人の特徴を有していた。黄色い肌、小柄な身体、吊り目。黒い服を着ているということは官僚の証だ。

 彼は部屋に居る貴族たちの方を向き、一礼する。

 「日本国から着ましたマサヒロ・スズキです」

 「現地貴族代表フィリア・レジェットです」

 こちらも一礼し、お互いに席に着く。いくつかの社交辞令のあとに本題に入る。

 「さて、貴方方は我々が何を望んでいるか理解されて無い様子。まずは我々が何を望んでいるか、そこから説明いたしましょう」

 ありがたい。こちらから知らないと言うのは無知をさらけ出すことだ。手札を与えずに済むのなら、渡さずに済むほうがいい。

 「我々は貴方方にグラン・イデア帝国の後継者となるスカルビジナ王国を運営していただきたい」

 ギョッとした。それはグラン・イデア帝国を売れといっているに等しい。いくら自分達が帝都から追放されたからといって、祖国に対する忠誠まで失ったわけではない。

 「もちろんすぐに呑んでいただけるとは思っていません。ですのでこちらの資料をご覧になっていただきたい」

 その言葉と共に渡された資料を私達は食いつくように読む。そこには帝都と主要都市のの現状が克明に示されていた。

 灰燼に帰した帝都、死の大地と化した食糧生産地帯。それはグラン・イデア帝国が滅んだことを証明していた。

 「……これを我々に渡してどうしろと?」

 特使はヒョイと両手を上げる。

 「それをご覧になれば理解していただけるはずです。グラン・イデア帝国は既に滅んでいること、貴方方が生き残るには我々の提案に乗るほか無いことを」

 正論だ。他の貴族達も苦虫100匹噛み潰した顔をしている。もはや帝国の大半は壊滅した。独力で立て直すことなど出来ない。

 助かるには日本の力が必要だった。

 「さて、いかがいたしますが?」

 「…………貴国の提案を……受け入れます」

 フィリア・レジェットはグラン・イデア帝国の終焉を宣言した。






 空母隼鷹。その甲板では4機の12式軽攻撃機が露天駐機していた。

 万が一特使の身に何かがあったときのために出撃できるようにしていたのだが、交渉は無事終わったことが伝えられてその必要が無くなった。

 「無事に終わったか」

 「嬉しそうですね。大尉」

 青年の呟きに部下らしき青年が相槌を打つ。

 「そりゃお前、戦争なんて無いほうがいいだろ」

 「軍人としては戦争があったほうが喜ばしいのでは?」

 「そりゃ暇を持て余した奴だけだ。少しでも頭が回る奴なら戦争したがらない……ってそんな膨れっ面すんな」

 「大尉の言葉ですと、自分は暇を持て余した奴ということになります」

 「ははは、まあお前は暇を持て余してるかもな。若いうちはそれでいいが、年をとってからではそれは通じんぞ。もっと賢くなることだ」

 「よく分かりません」

 「悩め悩め。頭ってのは悩むためにあるんだからな」

 そう言って彼――コーデン・エアロットは艦内に戻っていく。そのあとを彼の部下――カール・シェル・フィシーが追っていった。

次回更新は未定。

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