僕らのダンジョン探索録 18
罠のない通路を警戒しながら歩いていたが、特に何かと出くわすこともなく進むことができた。
罠もモンスターもなく、分かれ道もない、ある意味平和な道のりをしばらく進んでいると大きな扉が見えてきた。
「いよいよ本番か?」
「見たところ……扉には罠はないわね」
扉を慎重に触りながら観察したヘーテルがそう告げる。
この罠のない通路に入る前は無数の罠を事も無げに見つけてきた彼女が言うのであれば確かなのだろうとは思う。
「扉には、か」
「ええ……扉には間違いなく罠はないわ。けど……」
「扉の向こう側に罠がある可能性はあるわけだよな」
ヘーテルの言葉を継いで口に出せば彼女は扉を観察しながら頷いて肯定する。
「扉が直接的なトリガーであれば分かるけど間接的、例えば扉の動きをセンサーで関知して、とかだとお手上げね」
「うーん……まあ大丈夫だろ」
ヘーテルの言葉を聞きつつ少し考えて、大丈夫だと判断する。
そんな俺の言葉にヘーテルは扉をから目を離して振り向いて、
「根拠は?」
と、聞いてきた。
「フェアじゃないからな。ヘーテルが見つけられないのならこちら側から察知できないってことになる。それなのに開けたら罠が作動しましたとかひどすぎるだろ。ギルドでわざわざ罠の見つけ方について教えてくれている以上は全て罠は事前に察知できるようになっていて然るべきだ」
なので、どういう考えのもとに大丈夫と判断したのかを説明してやれば、彼女は呆れたような笑みを見せながら口を開く。
「それ、私が罠を見逃していない前提よね?」
「当たり前だろ?」
こういった場合で彼女ほど頼りになる存在はないと言ってもいい。
そんな俺の信頼にヘーテルは嬉しそうに笑うも、その笑みは苦笑に変わった
「んー残念だけど私もまだまだみたいね」
「へ?」
「ほら」
ヘーテルはそういって俺の後方の上の方を指差す。
なんぞ?
彼女の指差す方を見てみれば、天井付近に何やら綺麗な水晶がハマった物体が見えた。
「扉ばっかり気にしちゃって周囲の観察が疎かになってたようね」
「あれは……スイッチか?」
「センサーみたいなやつだと思うわ。丁度扉に向いてるから……私達が扉の向こうに行ったところで起動するといったところかしらね」
そう、ヘーテルが罠の仕組みを予測する。
扉に触ったりしても反応が無かったし、その予想は多分あたっているのだろう。
これでトリガーは見つけられたわけだけど……あの位置じゃ罠解除なんて出来ないだろう。
なんて思っているとヘーテルがテキパキと弓に矢をつがえ始めた。
「さて、と」
「おいおい大丈夫なのかそれ」
彼女の狙いは明らかで、あの水晶を射抜こうとしているのだろう。
どんな罠なのか分かっていないこの状況でそれはいささか危ないのではないだろうか。
そう思って掛けた言葉に、ヘーテルは任せろとばかりに俺の眼を真っ直ぐに見てきた。
そんな眼で見られたら俺も納得するしか無い。
ヘーテルが判断したのだから俺は信じればいい。
もしもヤバかったらその時は全力で俺が守ればいいだけである。
そう考えて、彼女の傍に寄って腰に手を軽く添えておく。
「心配症ね」
「普通だよ」
軽い言葉を交わして互いに見合い、頷く。
ヘーテルは弓をゆっくりと引いて狙いを定め始めた。
俺はそんな彼女の動きを邪魔しないようにしつつ、何が起きてもいいように集中し、少し脱力しておく。
ヘーテルが狙いを定めている時間は短く、すぐに矢は放たれた。
そして、放たれた矢は真っ直ぐと水晶へと進み、その中心を綺麗に射抜いたかと思えば粉々に砕いたのであった。
「ナイスショット」
「ありがと。さて、どうなるかしらね」
トリガーらしき物を砕いたのだから何かしら反応があるかもしれない。
そう思って、しばらくはその場を動かずにじっと周囲の音に耳を済ましていた。
そして、水晶が砕かれてから10秒ほど経ったところでなにやらガラガラといった小さな音を聞き取った。
「ん……」
「扉の……向こう側から?」
もしかして何か出てくるのか?
そう警戒して扉から少し距離を離す。
そして次の瞬間――――
「ッ!?」
「何!?」
――何か大きくて重い物体が落ちたような凄まじい音がしたかと思えば、地面が上下に軽く揺さぶられたのであった。
その音による衝撃はかなりのもので、俺たちは素で少し縮こまり互いにギュッと力を込めて抱きあって、扉を睨んでいた。
しばらくそのまま警戒して様子を伺っていたが特にそれ以上の変化はなかったので、少しだけ警戒を解いて肩の力を抜く。
「……なんだったんだろうな、今の」
「心臓に悪いわね……なにか、大きなものが落ちてきた感じだったわね」
先ほどの音について呟き、俺とヘーテルは互いに目線を合わせる。
しばし、見つめ合い頷く。
「いくか」
「ええ、実際に見て確かめましょう」
こうして扉の外からあれこれ考えていても仕方がない。
というわけで、意を決して扉を開け、その先の様子を確認することにした。
もちろんヘーテルは少し後ろに下げて、俺が扉を開ける。
扉は重く、ちょっと力を入れる必要があったが鍵が掛かっているということはなく少しずつ開けることが出来た。
そしてギィィと音を立てながら開いた扉の先の光景に開いた口がふさがらなかった。
「うわ……」
「何があったの? わあ……」
俺の反応に何があったのか気になったへーテムも脇からその光景を見て同じように驚いて固まった。
扉の先。
そこにあったのは大量の瓦礫であった。
それだけならそこまで驚くことでもないのだが、その瓦礫の中にちょくちょく鎖がくっついているのが見えるのと、延々と天井の見えない上からも鎖が垂れ下がっているのが確認できるというのが問題だった。
また、幾つかの瓦礫は下部がなんか赤く染まってたりもしている。
それらの情報と、先ほどの凄まじい音を合わせて考えれば答えにたどり着くのは簡単なことだ。
「天井が落ちてくる罠か……」
「見た感じ、足止め要因のモンスターも数体いたようね……」
なんともまあ派手な罠が用意してあったものだ。
不思議なのは道中の通路に罠が無かった理由だが……油断させようとしてのことか?
俺の場合はボスモンスター的なのがいるんだろうなと予想してたわけだし、トラップ以外の何かがあると思わせたかったのかもしれないな。
または入り口のあのセンサーを見つけさせないためかもしれない。
道中あまりにも罠がなかったところにあの怪しい扉。
ヘーテルが最初気づかなかったように、注意は扉とその周辺に向けられて後方天井付近などは警戒の外になっていたからな。
そんな考えを彼女にも伝えて見れば、
「そうね。多分、大体その考えであってると私も思うわ。実際どうなのかは分からないけどね」
と、彼女も同意見のようだった。
それからいつまでも固まっているわけにもいかないとうことで、瓦礫を避けつつも先へ進むことにした。
まだ何かがある可能性は十分にあるので警戒しながら歩いて行くと、更に先へと通路が伸びているようだった。
その通路もまた罠が無く、引き続き警戒して進めば再び扉が現れた。
なんというかやけに豪華な扉だ。
今はその扉からそれなりに離れた位置で立ち止まっている。
というのも、ヘーテルがその扉の直前の床全体が罠のトリガーとなっていることを見抜いたからだ。
「アレを踏むと、ここの穴から鉄格子が出てきて閉じ込められるようね」
「となると、ここから先へ進んだらあの扉を開けるしか無いと。どうせロクでも無い仕掛けがあるんだろうな……」
「こっから見た限りでも罠のオンパレードね。毒ガスに無数の矢、鉄格子のトリガーである床もそれ自体が感電床にもなるわ」
うへえ。
俺全く役に立てないじゃないの。
それに厄介そうだ。
「どうする?」
「もちろん、行くわよ。無事開けてあげるから安心なさい」
「そこは信頼してるって」
分かりきったことを尋ねれば、やはり罠の中へ飛び込むようだ。
そうと決まればここで立ち止まっていることもない。
ヘーテルの後ろをついていき、扉の前まで歩いていく。
すると、ヘーテルが事前に見抜いていたように直前の床に到達したところで後方で鉄格子が通路を塞いだ。
「さて……扉はやっぱり鍵が掛かってて……トリガーは全部この扉ね……正しい順番、方法で解除していかないと即アウトっと……楽しくなってきたじゃない!」
「俺はとりあえずここで待機でいいか?」
「ええ! ちょっと座って待っておきなさい! すぐ開けてあげるわ!」
ヘーテルが嬉しそうに扉の解錠にかかったところで、俺はやることがないので確認を取ってから待機する。
もちろん下手に動くことはせず、黙ってじっと彼女の作業を見守るようにしてだ。
今は、彼女の邪魔をしないように、そして余計なことをしないようにするのが俺ができる最善の助けなのだから。




