僕らのダンジョン探索録 14
このゲームにも随分と慣れた俺は遂にマルチモードに手を出した。
ということで今はマルチモードでゲームを起動している。
事前に仕入れた情報によればどうやらマルチモードだとプレイヤーは同じ街で活動するらしく、ダンジョンも全プレイヤーで共通のものが設置されているようだ。
但しそのダンジョンの中身も共通するわけではなく、なんというか平行世界みたいな感じで普段はそれぞれ別のダンジョンを探索しているのが、たまに交わるようになっているようだ。
そうして他プレイヤーと合流したら、共に行動する限り魔法陣から次の階層へいくまでずっと合流したままになるらしい。
共に行動する限りと説明したように、同階層でも一旦別れるとそれぞれが再び合流しようと道を戻ってもすでに世界は分かたれて合流できないようになっているんだとか。
これはパーティーを組めば階層を跨ごうと、別行動しようと完全に同じダンジョンを潜ることになるのでかっつりと固定パーティーで探索することもちゃんとできるようになっている。
さて、そんなマルチモードの世界にやってきたわけですが、現在は酒場の一角にいて隣にはヘーテルの姿があった。
もちろんヘーテルもゲームチックに修正されたアバターなのだが、やはりかなりの美少女に仕上がっている。
修正、というよりもヘーテルの可愛さをうまくゲームチックに変換している。
素晴らしい。
開発よくやった!
「案外あっさりと誘いに乗ってくれたな?」
「私だって生産ばかりじゃないもの。最近はそれぞれ別のゲームをして一緒に遊べなくてちょっと寂しかったしね」
俺の問いかけになんでもないようにヘーテルが答える。
「ほんと照れることなくよくそんなこといえるよな。まあ、嬉しいけどさ」
「前にもいった気がするけど好きだって気持ちを表すのになんで恥ずかしがる必要があるわけ? 私からすればそっちのほうが不思議よ」
心底分からないといった様子でそう言うヘーテル。
確かにそうかもしれないが、少しは照れた様子でもじもじとしながらも好きだって伝えてくれる姿にグッとくるものもあると思うんだが。
あ、でもヘーテルが頬を染めて「す……好き……」とか行ってきたらどうだろう?
うーん。
んー?
「ないな。今のままのヘーテルのが万倍かわいいわ」
「なに、一人で勝手に妄想して納得してるのよ? でも、ありがとう。私も大好きよ?」
「自分が?」
「あんたが、よ。決まってるでしょ。まあ、自分のことも好きではあるけど」
そんなやり取りも慣れたものだ。
やはり彼女のオープンなところはなんだかんだで良い。
「手、繋がないか?」
「もちろん、いいわよ。むしろお姫さまだっこしてほしいくらいね」
「それはちょっと……無駄にヘイトを集める必要はないって」
SPOでやったのが気に入ったのか?
俺も大概オープンにのろけるがそこまでではないので、我慢してもらう。
ヘイト集めたくないし。
ただ、ヘイトという観点から言えばすでに手遅れだったらしい。
周囲にいた男プレイヤーから殺意を感じる。
マルチモードでも酒場が復活ポイントだったりするようだし、実際に酔える酒も出しているからな。
人がいるのは仕方なく、そんなところでこれみよがしにいちゃついていれば視線が集まるのもやむなしといったところである。
「手遅れだったな」
「じゃ、お姫様抱っこもしてくれてもいいわよ?」
「それとこれとは話が別なんだよなあ」
すでにヘイトを集めているからといって開き直る必要はどこにも無い。
「んじゃ、ギルドいくか」
「そうね。まずは探索者登録しないと」
そう言って酒場を後にする。
もちろん妨害してくる人などいない。
いちゃつくカップルに腹が立って絡んでくるみたいなそんなアホはそうそう居ないのだ。
仮にそんなアホが居たとしても無視するししつこいようならハラスメント通報で退去してもらえるから何の問題もない。
まあ、今回は通報する必要性に迫られること無く普通にギルドまで向かうことができたので無駄な説明だった。
そして今後もそんなアホは現れないであろう。
「はい! 登録完了しました! 同時にお二人のパーティ登録も完了しました! いやあ、出世株のヒュージさんの奥様ともなればまず間違いなく実力者! であれば、今まで以上の活躍間違いない! そして晴れてヘーテルさんの専属にもなった私の評価は更にうなぎ登りってわけですね! ありがとうございます!」
で、早速ヘーテルの探索者登録をしたのだが、担当してくれたのはミュラさんだった。
「マルチモードにも居たよ、この人」
「なんというか元気な人ね……なによ、その目は」
「いや別に。うん、ヘーテルの場合はもっと可愛らしいもんな」
一応ソロとマルチモードでは街が微妙に違うのになんでいるんだろ。
そんなミュラさんを見て零したヘーテルの感想にジッと彼女を見ていると怪訝な目で見返される。
ミュラさんは概ねずっとこのテンションだけど、ヘーテルもスイッチが入った時は大概だ、とはとても言えないので適当に誤魔化した。
「まあいいわ。さて、これからどうするのかはエスコートしてくれるんでしょう?」
「おう。とりあえずCランクダンジョン行こう。俺がランクBだから場所は表示されてるしパーティ組んでるから一緒にいけるしな。ところでヘーテルのタイプは?」
「タイプはハイドだけど、Cランクダンジョンって本気? 私はあんたと違って規格外なプレイヤースキル持ち合わせていないんだけど」
俺の提案にそんなことを言ってくるヘーテルだが、その顔は何か案があるんだろ、はよ言えよと急かすような表情だった。
信頼されている、そういうことにしておこう。
「まあまあ。ほれ、とりあえず50万ゼフと罠解除キットあげるからギルド地下にある練習場で罠の解除法を覚えてきてくれないか?」
「あー! それ、紹介するの私の役目なのに! 私が紹介して初めて評価に繋がるのに!」
「なるほどね。体よく面倒な罠解除を押し付けるつもりなのね、酷いわ……」
何やら横から現金な受付員の文句が飛んできたが、それを無視したヘーテルがわざとらしくそんなことを言って泣き真似をする。
「ちげーよ。いや、違わないかもしれんけど押し付けるとかじゃなくてだな」
「分かってるわよ。適材適所でしょ? ふふ、自分で言うのもなんだけど洞察力には自信があるからね、任せておきなさい! その代わりあんたは敵モンスターから私を全力で守りなさい!」
演技とは分かっていても否定すれば、すぐにケロっとした様子で理解していることを示し、同時になんか少しスイッチが入ったのかテンションを高くして笑みを向けてきた。
「おう、任せろ。だから罠解除頼むな」
「ええ! ふふ、私はもっぱら生産が大好きだけど、分解するのも大好きなのよね! だから、あんたの提案は願ったりかなったりよ!」
ああ、それでテンション上がってたんだ。
まあ、破壊は創造の前段階って言うから仕方ないね。
「ってことでミュラ!」
「は、はい?」
「何してるの? 話、聞いてたでしょう? ほら、早く手続き済ませなさい!」
話も纏まったところでヘーテルがミュラさんを急かすように話しかけ、さっさと罠解除練習場に向かおうとする。
さすがのミュラさんもヘーテルを前にテンションを保てなかったらしい。
さすがヘーテル、強い。
そうしてヘーテルが練習場へと向かうのを見届けたところで後ろから声を掛けられた。
「なあ、聞いていいッスか?」
「何を聞きたいのか知らんが、聞くだけなら構わんよ。答えられるかは別だけど」
「さっきの人、もしかしてコレッスか?」
小指を立てて、馴れ馴れしい態度で話しかけてきたのは20代ぐらいの男性プレイヤーだ。
初対面でいきなりなんなんだと思ってプレイヤーネームを確認する。
……ラッピー?
「なんだ、ラッピーか。お前もこのゲームやってたんだな」
「あ、やっぱりジ……じゃなくてヒュージだったッスね」
その名前と、いちいち「ッス」をつける話し方から、もしやと思ったがやはり間違いなかったようだ。
彼は大学時代からの友達で、以前紹介した『R&R』というゲームのプレイログ残していた時にも一緒にプレイしていた人物だ。
アバターがゲームチックに修正されていたから、見た時はわからなかった。
向こうも同じようにプレイヤーネームからもしかしてと思っていたようだ。
「で、さっきの彼女はヒュージのコレッスか?」
「というよりも嫁だな」
改めて聞かれた質問に、隠す必要もないので俺は正直に答える。
「ええ!? 奥さんッスか!? ってか結婚してたッスか!?」
「ああ、言ってなかったっけ。俺結婚したんだよ」
「報告遅いッス! それにしても美人で見た感じラブラブで、一緒にゲームしてくれる奥さんとか羨ましい……まあ、おめでとうッス。でも、なんていうかちょっと性格怖そうっていうかテンションやばいッスね」
「ああ、そこがまた超かわいいよな」
なんだかんだで祝してくれたラッピーの言葉に頷きつつ、そう言ったらなんかベロを出して顔を顰められた。
それから「ごちそうさまッス。お二人の邪魔をするつもりはないから俺は退散するッス」と言って去っていった。
何だ、折角だし一緒にプレイでもと思ったんだが……。
それにしても最後の反応、あれは一体なんだったんだろうか。
俺何かおかしいこと言ったかな?




