僕らのダンジョン探査録 1
しばらくはこのゲームのお話。
結局サブタイはそのままゲームタイトルとナンバリングでやっていくことにしました。
実際にその場の空気を感じることができるVR技術は本当にゲームと相性がいい。
中でもダンジョン探索ゲームは特にその恩恵を受けていると思う。
ダンジョンを探索し、いいアイテムを見つけたときの喜びとそれを無事持ち帰れるかという緊張感。
あと少しというところでやられてしまいロストしたときは悔しいがそれだって成功したときの喜びを大きなものにするスパイスだ。
そしてこのダンジョン探索ゲームにVR技術が加わることで臨場感は格段に大きくなり喜びも悔しさも膨れ上がるのだ。
というわけで今回はそんなVRダンジョン探索ゲームをプレイしていく。
タイトルは「僕らのダンジョン探索録」というものだ。
少し子供っぽいタイトルだが中身はかなり難しいダンジョン探索ゲームとなっているらしい。
あとこのゲームにはマルチモードもあり、そちらだと協力したりアイテムを奪い取ったりできるようだ。
が、今回はソロでプレイする。
とはいってもプレイ中にマルチモードに自由に切り替えできるから気が向いたらマルチモードにも出向きたいところだ。
まず最初はキャラクリエイトだ。
設定できるのはタイプだけらしい。
このタイプというのはいわゆるジョブだとかそういうやつのことのようだ。
選べるのはアタック、ディフェンス、バランス、ハイドの四つ。
随分と少ないし名称もなんだか直球だ。
とりあえずタイプに関する詳しい説明が見れるようなのでそれを見てみる。
説明には以下のように記されていた。
タイプについて。
どのタイプを選んでも初期装備などは変わらず、キャラクターの能力にも影響しません。
タイプが影響を与えるのはダンジョンで手に入るアイテムの傾向についてのみです。
アタックであれば全体的に得られるアイテムは武器に偏り、反対にディフェンスであれば防具に偏ります。
バランスは双方ともに同程度得ることができますが、そのかわり希少アイテムの入手率が低くなります。
ハイドは少し特殊なタイプです。
武器や防具などの装備アイテムは滅多に手に入らず、入手するほとんどのアイテムは消耗品か換金アイテムになるでしょう。
そのかわり希少アイテム入手率が高く、幸運にも装備アイテムを入手できたときはかなり良い装備を入手できるでしょう。
ふむ。
タイプで能力は変わらず、入手アイテムの傾向に関わっているのか。
難易度をつけるならレア装備を入手する確率はさがるが武器も防具もバランスよく得られるバランスが一番簡単になるかな?
次いでディフェンス、アタックの順で難しくなるだろうか。
ハイドは多分一番難しいと思うが場合によっては一気に簡単になる可能性もあるな。
まあ、ここはハイドを選択しておこう。
難易度が高いイコール面白いとか言うつもりはないけど、難しいゲームは結構好きなのだ。
難しすぎてなにこれ理不尽! クソゲー! ってなる可能性もあるがそんなのはそうなってから考えればいいことだ。
ではプレイ開始といこう。
プレイを開始した俺が現れたのは落ち着いた雰囲気の酒場の一角だった。
すぐ傍に鏡があったのでそちらを見ると現実の俺の姿をうまくゲームチックに仕上げた姿が写る。
なるほど。
アバターはこういう感じなのか。
メニューを開いてみれば選択できるのはステータスとマップとクエストログ、そしてオプションだけだった。
余白があるわけでもないのでこれ以上機能が追加されることはない感じだからインベントリだとかアイテムボックスだとかは無いようだ。
多分アイテムを保管する施設やなんかが街のどっかにあるだろうから後で探しておこう。
機能とは別にメニューに表示されている情報には現在時刻とか所持金とかが表示されていた。
通貨は「ゼフ」と呼ばれているらしい。
その前には0が一つだけ表示されている。
初期資金は無しということですね。
まあ、それはまあふつうのことだろう。
とりあえず初期のステータスはどんなもんかなっと開いてみる。
「あれ……ステータスで表示されるのは装備だけか」
STRとかいう能力値は無く、HPすらそこには表示されていなかった。
本当に装備だけが表示されている。
ちなみに今の装備は麻の服とボロい靴。
これだけである。
所持金なし。
装備は服と靴だけ。
なんとハードなスタートだろうか。
とは言えこのタイプのゲームでは珍しくもない気もする。
まずは素手でダンジョンに潜り、落ちてる武器などを拾って少しずつ強化していくのはお馴染みの光景ではなかろうか。
しかし問題はあれだ。
このキャラの感覚がリアルとほとんど違いが無いという点。
感覚の差異が無いのはいいことではと思うかもしれないがそういうことではない。
VRゲームでは現実のそれよりも概ね高い身体能力を与えられることが多いのだが、どうもキャラの身体能力が現実のそれと限りなく近い気がするのだ。
こうして確認している間も立っているだけでなんとなく片足が痛いので細かく体重移動して負荷を分散させている始末。
不穏だ。
続いてマップの方を見てみれば表示されるのは世界地図だけで街の詳細な地図だとかは表示されないようだ。
今は選択できないが下の方にこの場所に移動するっていう選択肢があるのでこのマップはファストトラベル用なのかもしれない。
さて、確認も終わったことだしいよいよ本格的にプレイしていきたい。
そう思うのだが……。
「まずどこ行けばいいんだろ?」
「そこの兄さん、さっきからボーッとしてどうしたの?」
思わず呟くと後ろから声をかけられたので振り向けば両手に空のジョッキを持った綺麗なお姉さんがいた。
格好からして酒場の店員だろうか。
「いや、多分ダンジョンに潜るためにいるんだけどどこ行けばいいのかなって」
「多分? よくわからないけどダンジョンに潜るのなら街の中心にあるギルドにいくといいわよ?」
「おっとこれはどうも親切に」
思わず変なことを口走ったが、店員さんは少し首を傾げるだけで情報を教えてくれた。
頭を下げつつも俺はその場をあとにして言われた場所へと向かう。
それにしてもさっきのお姉さんたゆんたゆんだったな。
いつも身近にいるのはツルッとペタッときてストーンだからちょっと新鮮だった。
っ!
なんか今リアルのほうでつねられたような痛みがした。
やっぱりあいつ心読めるだろ!?
心の中でひたすらに俺は小さいのでも大好きだ、むしろ小さいのが大好きだと念じながら歩き、ギルドへと到着。
道中ずっとつねられてた気がするから彼女が心を読めるというのは早とちりだったようだ。
じゃあなぜつねられてたのだろう?
きっと彼女なりの愛情表現に違いない。
もしかしたら緊急な用事でもあるのかもしれないし、取り敢えずメールで愛してるよと送っておこう。
って返信早いな。
えっとなになに……。
『私も愛してるわ。だから今日のご飯はあんたのだけ死ぬほど辛くしておくから(ハートマーク)』
俺、甘党。
死亡確定。
……これが愛のムチ、か。
つらい。
リアルのつらい予定のことなどさておいて、ひとまずギルドの受付へと向かう。
「あの、ダンジョン潜るならこちらに来るといいって聞いたんですが」
「ということは新しく探索者になろうという方ですね。では登録しますのでこちらに必要事項を記入してください」
受付の人に話しかければ手慣れた様子で懐から紙を取り出して渡してきた。
同時に入力ウィンドウが現れたのでこれに入力すればいいらしい。
入力するのは名前に年齢、それと軽い自己紹介だけのようだ。
ここで入力した情報はマルチモードで他のプレイヤーに見せる為のものと一番上に書いてある。
マルチでパーティーを組む時とかに参考にするのだろう。
とりあえず名前はいつもどおりヒュージにして、年齢は23。
自己紹介はどうしようかな……後で自由に変えられるみたいだし適当でいいか。
I LOVE ヘーテルっと。
「はい、記入終わりましたよっと」
「ではこちらに手を翳してもらえますか?」
言われたとおりに水晶みたいなやつに手を翳す。
するとそれは淡く光った。
数回光ると今度は水晶の中に文字が浮かび上がりそこには「ハイド」と書かれている。
受付さんはそれを見て頷きつつ手元の書類にさらさらと何やら記入していく。
それをなんとも粗末な投票箱みたいなものに入れるとその側面の穴からカードが出てきた。
「はい、登録完了しました。こちらが探索者の証になります」
笑顔でそう、告げられ箱から出てきたカードを手渡された。
結構あっさりだけどここで無駄に凝ってもしょうが無いかと思い直し、受け取ったカードへと目を向ける。
そこには以下のように書かれていた。
探索者 ヒュージ
タイプ ハイド
ランク F
シンプルだ。
すごくシンプルだ。
「ランクっていうのは?」
「探索者としてギルドにどれだけ貢献したのかを表していてS~Fの7段階で評価されていますね。
これらはダンジョンを攻略した回数や回収したアイテムの金額など様々な要素によって評価されます。
ランクが上がればより難しいダンジョンの場所の情報を得られたり、アイテムの換金率にボーナスがつきますよ」
ふんふん。
ランクが上がることで新しいダンジョンの場所とかを教えてもらえる感じか。
つまりランクが低いうちは低難易度ダンジョンにしか潜れないわけだな。
その分安全だけど旨味も少ないと。
「けどそれだと実力はあってもランクのせいで高難度ダンジョンに挑めないってことですよね? それってちょっと面倒だと思うけど」
「確かにそうですが規則ですので……別にダンジョンを探索するのに許可などは必要ないので、自力で見つけさえすればあとは探索者の皆様の自由ですけどね。その場合も、もちろん正当に評価はしますよ」
俺の言葉に受付さんは困った表情をしながらも自力で見つけた場合は特に口出しはしないとのこと。
とりあえず試しにネットを開いて検索してみるが、どうやらどこにどのダンジョンがあるのかは個人でランダムであるらしい。
あくまでゲーム内で情報を集めたりする必要がありそうだ。
「なるほど。じゃあ、とりあえず現状で行けるダンジョンの場所を教えてくれませんか」
「いいですよ。ではカードのほうをお預かりいたします……はい、完了です。今こちらで伝えられるダンジョンの場所をカードの方に登録しておきました」
受付さんがそう言うと共にウィンドウが目の前に表示され、マップに新しくダンジョンが記載されたと通知された。
受付さんに礼を言ってからちょっと移動して、マップを開いてみると確かにダンジョンの場所が追加されている。
試しに追加されたダンジョンをタッチしてみると先ほどまで灰色で選択できなかった「この場所に移動する」ボタンが白く光り選択できるようになった。
どうやらワールドマップ的なものはなくステージ選択式に近い形式らしい。
ふと、もしかしてと思って何も表示されていない部分をタッチしてみるとその場所に目的地が設定され同じように移動ボタンが選択できるようになった。
ただ、少し選択の内容が変わって「この付近を探索する」になっている。
ってことはこれで情報にないダンジョンを見つけたりできるのかな?
まあ、早々簡単には見つからないだろうけど。
とりあえずまだダンジョンに向かうことはしない。
ひとまず街中を探索してできること、できないこと一通りチェックしておこう。




