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VRゲームで遊ぼう  作者: イントレット
VRシミュレーションシリーズ
48/72

VRシミュレーションシリーズ 異世界転生・転移エディション

一話完結

 小説というのは数多の人々を魅了し、新しい世界を見せてくれる素晴らしいもので、VR技術溢れる今日に至っても尚小説というのは存在している。

 そしてかつてから人気を保持し続けている一つのジャンルがある。

 それは異世界転生・転移モノのファンタジー小説だ。


 ある日突然トラックに跳ねられたり召喚されたりして一般人だった主人公が絶大な力を得て異世界を大冒険したり、ひたすら苦難に揉まれたりする奴だ。


 ああいった小説を読んだ人は、あるいは読まなくても異世界に言って冒険してみたいという願望を抱く者は少なく無いだろう。

 とはいえ、かつてはそれはやはり叶わぬ願望、妄想でしかなかった。

 しかしだ。


 VR技術と仮想世界。

 高度な演算能力とAI技術。

 これらが実現され、より高度に発達した今、かつてはただの妄想でしかなかったそれを実際に体験することが可能になった。


 そしてファンタジーに限らず様々な世界を体験することを目的としたシミュレーションゲームが多数開発されたのである。

 そんなわけで、今回プレイするのは「VRシミュレーションシリーズ 異世界転生・転移エディション」通称、VRSS転生である。


 始めに言っておくとこのゲームは異世界転生・転移モノの物語を体験できるゲームではない。

 どのような形で異世界転生・転移するかをシミュレーションするゲームである。

 というかシミュレーターだ。


 転生・転移してからある程度行動方針が決まり、それなりに自由に活動できるようになったらそこでクリアとなり、その後どんな物語を迎えたのかエピローグで語られるという一風変わったモノになっている。

 言ってみれば起承転結の起、承でクリアで、転結はエピローグで語られるだけだ。


 あと、大事なのはどうプレイするかではなくどう設定するかだ。

 一応どうプレイするかでも変わってくるが大筋は初期設定にかかっているので最初の設定をいろいろ変えてどんな結末になるのかを楽しみにするといいだろう。


 さて、実はこのゲーム、結構前にプレイ済みだ。

 だから今回のログはただ紹介するだけのプレイログだったりする。 


 では、前置きもこれくらいにしてとりあえずあっという間にクリアできるシミュレート設定を紹介しよう。


 まず、異世界へ行く方法は転移を選択。

 これは肉体を保持あるいは若返りした状態で送られるパターンだ。


 次に転移方法は異世界へ繋がる空間の穴に偶然落下に設定。

 その際に超人的な肉体能力を得るようにして、最初に出現する場所はとりあえず遥か上空に設定。


 さらに大まかな基本ストーリーを魔王討伐に設定した。

 この設定により異世界での出現場所の詳細設定で、設定できる項目が増えるので出現位置を魔王の直上へと変更する。

 ついでに落下速度を最大に設定して準備は完了だ。


 他にも色々と設定項目はあるが今回はとりあえずこれで大丈夫だ。


 では早速プレイしてみよう。





 

 日も西にすっかり傾いた教室。

 教卓では教師が明日の連絡事項などを話している。

 丁度、連絡が終わったところで学校のチャイムが鳴り響いて今日の学校は終了だ。


「終わったあー!」

「これからどうするか」

「カラオケとかどーよ?」

「さんせーい!」

「俺の歌唱力をみせてやるぜ!」

「じゃあ急ごう! ほら、ヒュージも行こうぜ?」

「行こう行こう! ……あれ、そういえばヒュージ、お前今日なんか用事があるとか言ってなかったか?」

「え、まじで? そうなのかヒュージ?」


 学校が終わり一斉にクラスメイトたちが喜びの声を上げ、数人の男子がこちらへ集まると皆でカラオケに行こうという話になって、自然に俺も誘われるのだが、その内の一人が俺が用事があることを以前言っていたことを思い出し首を傾げる。

 その言葉に隣に居たやつが確認してくる。


 この状況は要するにそういう設定でストーリーが現在進行中だということだ。

 まあ、こっからは俺もなにも知らない極普通の高校生のヒュージ役をロールプレイすることにした。


「ああ、ちょっとな……。くそー俺も行きたかったな」

「用事があるんじゃ仕方ねえよ」

「今度は一緒に行こうぜ」

「むしろ明日休みだし明日も行けばよくね?」

「おま……それナイスアイディアだな!」

「だろ? やっぱり俺ってば天才よな」

「言ってろバーカ!」


 この状況におけるヒュージの役に合わせて答えれば、理解を示してくれたりちょっとしたことで騒いだりとなかなか楽しい状況になった。

 なんというかすげえ普通にリア充的な位置にいるな、このヒュージ。


 その後友達と別れた俺は一人家へ向かい歩いて行く。

 家の方向はなんとなくだかわかるのでそれに沿って歩いている状況だ。


 だが、そうして普通に歩いていると突然目の前の空間が歪んだ。

 一応立ち止まろうとしたのだが、その歪みに吸い込まれるような強い力によって俺の身体は否応なくその歪みへと飲み込まれてしまいそれと同時に俺の意識は暗転した。






 気がつけばそこは真っ暗な空間だった。

 辺りになにもなく、俺の身体は何処かへと流されているようだ。

 流される感覚とは別に妙な圧迫感があった。

 そして何かが徐々に徐々に身体の中へ浸透していくような感覚もあった。


 そうしてずっと流されていると、何か薄いながらもそこそこ頑丈な膜を打ち砕いたような感覚とともに目の前の真っ暗な空間がガラスが割れるように砕け散り、周囲の景色は一変した。


 そこは空だった。

 しかもほとんど宇宙と環境は変わらないぐらいの超高高度の空だ。

 ただ、その環境にいたのは本当に数秒の事。

 俺の身体はその環境に感傷にひたる余裕もなく高速で落下していた。


「前はここまで高くなかったのにいいいいいいい!?」


 素で叫ぶ。

 役としてはあまりよろしくない叫びだが仕方ない。

 完璧に再現された落ちる感覚に普通にビビっている。

 内臓が浮く感覚がすごく気持ち悪い。


 同じ設定でも行動の細かな違いとかで別の結果になるのがこのシミュレーションゲームの特徴なのでこの辺りは予想できない。

 そこが面白い部分でもあるけども。


 そうこう考えている内に俺の身体は落下を続けていて遠くに見えた大地はもうすぐそこまで迫っている。

 そして、落下先に禍々しいオーラを放っている悪魔のような存在を確認する。

 それを確認してすぐ俺の身体はその存在と衝突し、その悪魔を木っ端微塵にした後地面に叩きつけられる。

 設定通り超人的な肉体能力を得ていた俺の身体はその衝撃でも無傷であり、かわりに地面に巨大なクレーターを作りだした。





 ――エピローグ

 人類は残された僅かな希望を胸に魔王を討つための最後決戦へと突入していた。

 しかし人類の希望も虚しく、魔王の力を前に兵士が、騎士が、英雄が、戦士たちが次々と倒れていった。

 もうダメかと人類が諦めかけたその時。

 空から何かが落ちてきて、それは瞬く間に魔王を吹き飛ばしつつ地に衝突した。


 大きく窪んだ大地に戦士たちは呆然とする。

 だが、その中心から現れた人影に戦士たちは我に返って戦闘態勢を取り――また呆然とした。


 大きく窪んだ大地の中心から現れたその存在は魔なる者ではなく紛れも無い人間であった。

 しかもその身に神聖な気をこれでもかという程に宿していた。


 戦士たちはその神聖な気に当てられ呆然とし、そして涙を流した。

 神が。

 我らが神が、人類の息吹が絶えようとしていたその時に遂に手を差し伸べてくれたのだと。

 彼の者こそが慈悲深き神が遣わした使徒なのだとその神聖な気を見て悟ったのである。


 やがて戦士たちは彼の者を讃え始め彼の者に深く感謝した。

 その思いは瞬く間に人類全体へ広がり、全人類が彼の者に感謝し、祈りを捧げ、崇め始めた。


 やがて神の使徒たる少年、ヒュージは現人神と認識されるようになり、全人類がヒュージを信仰した結果世界は一つにまとまって絶対の平和と発達を手にしたのであった。






 というわけで、今回設定したシミュレートの場合はこのような結果になった。

 異世界に転移するも特に何か行動するまでもなく魔王を倒してエンド……という小説だったら短編コメディ枠な物語である。

 もしくは偶然魔王倒した後周囲の人々に勝手に崇められてあたふたする姿を描く中編コメディか。

 どうあがいてもコメディになるのは間違いない。

 まあ、この結果はそうなるように設定したのだから当然なのだが、現人神として崇められるようになったという点については俺も驚きの展開であった。

 前回、似た設定でプレイしたときは誰に気づかれることもなく魔王を倒し、その後は気ままな冒険者になったっていう終わりだったのだ。


 似た設定でもこうしていろいろな物語が生まれるというのは結構面白いと思う。

 あまり頻繁にプレイしたいとは思わないが、こうしてたまにプレイして適当な設定でシミュレートしてみる分にはかなり面白いと思えるシミュレーションゲームである。

しばらくはVRシミュシリーズを投稿するかもしれません(しない可能性もある)

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