第十三話 予定外
全て予定通りだ。
内心ドヤ顔でそう呟いた10分前の俺を殴りたい。
そう、10分。
あれから10分経って尚、俺はスラッシュスパーダの猛攻を凌ぎ続けている。
ちょっと、ヘーテルさん!?
遅くない!?
「何やってんだあいつはァ!!!」
あの野郎!
野郎じゃないけど、あの野郎何をモタモタとやっている!?
既にこいつは俺のみを狙ってヘーテルのことなんぞ忘却の彼方だぞ!?
あちらはあちらで別の敵と遭遇してしまったとか?
いや、それはない。
そういった事態になったらひとまずフレンドコールを入れる手はずになっている。
それぐらいの余裕はあるはずだ。
「っ!」
鎌足の猛襲が一瞬止んだかと思えば今度は糸が射出され襲い掛かってくる。
それを俺は避けるが、スラッシュスパーダは糸を操って追撃してくる。
ばかりか、鎌足による攻撃も同時に混ぜてきた。
もはや気合で避ける。
こいつも近距離で糸と鎌足の併用に慣れてきたのか、だんだんと避けづらくなっている。
「チッ!」
動きを読まれたのか、糸による攻撃を避けると、避けた方向から既に鎌足による攻撃が襲いかかってきていた。
とにかく必死で踏ん張るが、回避は間に合わない。
ならば!
「なめんなよ、クソが!」
なんとか体勢をある程度整えて向かってくる鎌足の側面に対し、下から上へと突き上げるように掌底を繰り出した。
そしてその掌底が触れる瞬間に、かなりの魔力を込めたショックを放つ。
それにより跳ね上がった鎌足がスラッシュスパーダの糸に接触して、糸が断ち切れた。
接触していなければ糸は操作できないようで斬られた先の糸は何処かへと消えていく。
ここまでは何度か見た光景だ。
「穿て、ロックランス!」
だが、今回は相手も疲れが溜まっていたのかそれなりに体勢を崩していた。
僅かに出来たその隙に短縮呪文で魔法を発動。
ロックランスは最初に覚えたアースニードルの上位互換の魔法だ。
本当はもっと長い呪文が必要だが、緊急時にはこうして呪文を短縮しても発動できるぐらいには<魔力制御>スキルのLvは育っている。
威力はどうしても下がるけどな。
そして本来の威力より低い状態での発動だから、ロックランスはスラッシュスパーダの腹へと命中するがその身を貫くには至らなかった。
だが、それでもそれなりのダメージにはなったようで苦しげな鳴き声を零す。
「っ!」
それでもスラッシュスパーダの戦意は衰えず、鎌足で攻撃してきた。
こちらも攻撃直後であったためギリギリであったが、なんとか内へと避けることができた。
そう、内側にだ。
目の前にはいい感じの位置にスラッシュスパーダの頭部があった。
俺は両手に魔力を込めて更に一歩近づく。
と、その奥に微かな魔力を感知。
「っぶねぇ!?」
慌てて横へ身体をずらす。
身体をずらすのとほぼ同時に、スラッシュスパーダの頭部から、というよりは口から糸が射出され、俺の脇腹を掠めていった。
ヘーテル製の装備があるとはいえ俺の存在値、つまりHPはかなり低い。
掠っただけで3割も持っていかれた。
だが、それでもギリギリで避けることができたし、その間に両手を顎下へと当てることができた。
「っらぁ! ショックオーバー!!」
即座に両手に集めた魔力を衝撃として放つ。
その攻撃によってスラッシュスパーダの頭部が激しく跳ね上げられ、釣られて前半身も浮き上がる。
「大地から伸びるは破壊の大鎚! 打ち抜け! ロックピラー!」
浮いたスラッシュスパーダに放ったのはロックピラー。
これで、倒れないのは最初の攻撃時に分かってる。
けど、最初の時とは違っていくらかダメージを与え、疲れさせた状態でのこの一発は最初の時にはなかった猶予を俺に与えてくれる。
「支えるだけが大地に非ず、今ここに全てを飲み込むその力を示せ! サンドホール!」
だからこそ更に魔法を発動し、スラッシュスパーダの足元を大きな蟻地獄へと変貌させる。
沈み込む砂はスラッシュスパーダが踏ん張るのを防ぎつつその行動を阻害した。
「大地の力、今ここにその力を示し楔を打ち込め! アースバインド!」
そして、スラッシュスパーダの足を幾分か飲み込んでいたその砂が形を変えて巻き付くと、次々に硬質化し、岩と化していく。
だが、スラッシュスパーダの力は凄まじく、その岩の封印にヒビが入る。
その様子に慌てること無く俺は更に呪文を詠唱する。
「彼の者は罪を犯した、彼の者に罰を、彼の者に裁きを、彼の者に苦痛を、自由の剥奪こそが罰、支配の象徴たる戒めの鎖よ彼の者に罰を与え給え! チェーンパニッシュメント!」
その魔法が発動したのとほぼ同時に岩の封印が完全に破られた。
だが、時既に遅し。
岩がスラッシュスパーダの身体から剥がれ落ち、完全に自由を取り戻す前に地面から伸びた無数の鎖がその身体を拘束していく。
鎖の拘束は岩によるものとは比べ物にならないほどに頑丈で、スラッシュスパーダの動きを完全に封じ込めた。
これでひとまず落ち着ける。
もっとも糸による攻撃は警戒すべきだが、糸だけなら大した問題ではない。
結局、拘束から抜けることを優先して暴れるスラッシュスパーダは糸による攻撃をしてこなかったが。
「で、これはどういうことかね?」
「お疲れ! あんたのがんばりのおかげでほら! こんなに良質な糸が集まったわよ!」
後ろの方へと向きながら言った俺の言葉に、悪びれもなく笑顔でヘーテルが言葉を返す。
俺の後方にずっと居たらしく、その手には直径50cm程の糸玉があった。
こいつ……っ!
そう、戦闘の最中断ち切った糸が何処かへと消えていたがそれらは全てヘーテルが回収していたのだ。
そしてあろうことかこの女は素材集めにちょうど良いやとばかりに当初の隙を見て攻撃を入れる作戦を無視して、ずっと俺にスラッシュスパーダと戦わせていたのである。
「ま、文句は後々! 先にこいつを片付けないとね……ヘビーブレイクインパクト!」
恨みがましい視線を向けていたのだが、彼女はそれを適当に流しつつも軽い調子で、それこそ薪でも割るのかといった様子でスラッシュスパーダへ近寄って槌を振り上げた。
そして気の抜けるような声で武技を発動して、その一撃をスラッシュスパーダの背中へと叩きつけた。
気の抜ける動作や声とは裏腹にその一撃は凄まじい威力を秘めていて、スラッシュスパーダは激しく地面へ叩きつけられ、その身体を突き抜けた衝撃によって大地に大きなヒビが入った。
そりゃまあ、10分以上チャージしてればこうなる。
当然、スラッシュスパーダはその一撃で即死だ。
ハッキリ言ってボスでもない、同じLv帯ってだけの雑魚モンスターに対してオーバーキルもいいところである。
確かにチャージによって威力の上がったいまの攻撃はすさまじいが、それよりも普通に戦闘に参加してくれていればそれこそ数分で終わってた戦いだった。
故に向ける視線にはいくらかの棘が混ざるのも致し方無いと思う。
「え、どしたの? 惚れなおした?」
「はぁ……そういえばそんなんだったな、お前」
が、その程度ヘーテルは軽く受け流す。
初めて出会った時、武器の作成を引き受けてくれたかと思えばその瞬間笑顔で俺の手首を斬って血を採取。
宇宙ゲーでは敵戦力に単騎特攻して囮役を問答無用でやらされる。
大丈夫だから。
問題ないから。
信じてるから。
そんな理由があれば笑顔で人を死地に送る。
それがヘーテルだった。
「……で、その糸はどんな感じだ?」
「素材としてはすこぶる良好! ただ、こうして素材として入手した糸は耐久力こそ素晴らしいけどあの木々をまとめて斬り裂くような力は無くなってるわね」
「その辺りはこいつの能力かなんかで糸に付加してたってことか」
「まあ、あんないろいろと斬れる特性が糸にあったら逆に扱いづらすぎるから好都合よ」
で、俺を餌に得られた糸だが、素材としては耐久力に優れた素晴らしい糸であるらしい。
あの木々を楽々斬り裂いていたのはどうやらスラッシュスパーダの能力だったらしく、今はその力は失われているがそれもヘーテル曰くむしろ好都合だとか。
まあ、この糸で作成した衣服を着たら斬られましたなんてあったら堪ったものではないから妥当なところだ。
「ひとまず、あんたの防具とスキルで使う分はあるわね。ってことで」
「嫌です」
「先へ進んでスラッシュスパーダを探しましょ」
「嫌だ」
「さっきので慣れただろうし、次はもっと糸を集められるわね!」
話聞けよぉ!
とりあえず得られた素材についての情報交換が終わり、ヘーテルから提案されるのはスラッシュスパーダを見つけ出して再び糸を得ようと言うもの。
その提案が出る前から俺は拒否していたのにその全てをこいつはスルーして話を進めていった。
しかも、今度は先程以上に長々と攻防をさせられる気がする。
やっぱり断りたいが、ヘーテルは気にした様子もなくさあいくぞと、笑顔で先へと進んでいく。
「はぁ……これもいつものことか」
このまま放っておくこともできないのでついていくしか無い。
まあ、なんだかんだで本気で拒否しない俺もあれなんだけどな。
その後、スラッシュスパーダを再び発見し、戦闘に入ったがほんともう本気で拒否すればよかった。
そろそろ切り上げようと拘束魔法をかけようとするとあの悪魔、石を投げてきて詠唱妨害してきやがったのだ!
その行動の示すところはもっと糸吐き出させろという私利私欲に満ちたものである。
ほんともう遠慮なしであった。
そうして30分もの間ひたすら至近距離でスラッシュスパーダと相対し、糸による攻撃を誘発させては鎌足を弾いて糸を断ち切る戦闘を続けその結果ヘーテルが満足するだけの糸が集まったのであった。
「やめっ! もう無理! 悪かったから! 悪かったから! ああああああ!?」
「大丈夫大丈夫。別にこれアレだから。糸の性能試験だから大丈夫だって」
当然のことだが俺だって怒るときは怒るわけで、セーフティエリアに戻った瞬間に<糸使い>スキルをセットして例の糸を操り、ヘーテルの両手両足を拘束。
靴などを脱がしてから今度は簀巻にして吊り上げて固定。
スラッシュスパーダの糸は耐久力に優れつつ肌触りも至高の逸品で、それを束ねた状態で足の裏をくすぐるとそれはもう効果てきめんであった。
糸でお仕置きというのならもっと別のやつがあっただろうと思うかもしれないが、そういうのはプライペードでのみやるべきことだ。
それに彼女の胸は慎ましやかなのでちょっとアレだからな。
その後満足したところでヘーテルを解放し、本日のプレイを終了した。
とりあえず初の迷宮探索は中々楽しいものであった。
ここ最近のゲームに対する不満も一気に吹き飛んだ感じである。
やはりこのゲーム戦闘はすこぶる楽しい。
ただ、一方で街のほうがお通夜状態だったのもうなずける話だ。
結局あの広間を進んでいくと行き止まりで特に何かあるわけでもなかった。
やはり先へ進むなら大通路を通る必要があるわけだ。
だが、なんというかこれでは迷宮というよりは修練場である。
攻略しているという気分を全く味わえず、かといってここ以外だと適正モンスターを狩るのに苦労が大きすぎる。
せめて何かしら迷宮からアイテムでも得られればいいのにモンスターの素材があれば十分だと言わんばかりに宝箱のような存在は一切ない。
これは確かに続けていくと惰性で迷宮に潜る形になるのも仕方のない事だと納得であった。
やはり、いろいろな部分で早急な改善が必要だと改めて認識できる一日であった。




