第八話 のんびりほのぼの旅
さて、サモンパートナーオンラインがサービス開始されてから一週間経った。
つまり前回のプレイログから一週間ぶりにSPOについてログを更新するわけだが、この一週間の俺たちのプレイの成果をまずご覧いただこう。
名前:ヒュージ
性別:男
魂力:32
存在値:1233/1233
魔力値:4860/4860
存在強度:44
魔力適合率:170
器用さ:69
素早さ:83
幸運:32
スキル
<魔法マスタリー>Lv34 <適合率強化>Lv35 <素早さ強化>Lv33 <瞑想>Lv34 <魔力操作>Lv35 <魔法適正・無>34 <魔法適正・風>Lv33 <魔法適正・土>Lv35 <魔法適正・水>Lv25 <拘束術>Lv29
非有効化スキル
<糸使い>Lv11
まず、俺のステータスはこんな感じだ。
それなり育ってスキルも新しく<魔法属性・水>を取得して代わりに<糸使い>を外している。
糸が未だないから仕方ない。
で、それぞれの成長具合だが、初日で10Lvまで行けた割には随分のんびりとしているように感じるかもしれない。
実際このゲームでより先まで進んでいる人たちよりかは幾分遅い成長速度なのだが、だからといって遅すぎるということもなく、サービス開始からプレイしている人の中では平均より少し上である。
このゲームではどこの街の周囲であってもそこまで強いモンスターは出てこないため11Lv以降は途端にLvを上げづらくなるのだ。
なぜ出てこないかといえば、そもそもそんな強いモンスターが出現するような場所に街を作るはずがないという理由から。
その分数を狩る必要があるのだが初日以降も続々とプレイヤーが増える一方で、そればかりかNPCの冒険者も狩りに出たりするので、モンスターの数が絶対的に足りない状況だったのだ。
街の近くではなくより離れたところへ狩りに行けばより強力なモンスターと戦えて、その分Lvも上げやすいのだが、これはこれで中々覚悟がいる。
あなたは手頃なモンスターを狩りに行くために3時間を移動に費やしたいと思いますか?
普通は思わないだろう。
それを改善するために馬車なんかも街では売られていたのだが、それを買うためには当然資金が必要で資金を集めるなら結局モンスターを倒す必要があり、もともとそこまで強くないモンスターの素材はそこまで高く買い取ってもらえないばかりか、既に供給過多でさらに相場が安くなっていた。
結局これも数が必要になるのだがモンスターと出会えないという堂々巡りになっていたのだ。
まあ、別にそれはそれでリアルな異世界で生活している感は味わえるのだが、多くの人にとってそれはややハードルが高いものだった。
そうして徐々にプレイヤーは鬱憤をためていたのだが、協会経由で迷宮都市の存在が明らかになり、そういったプレイヤーがこぞって移動したことにより鬱憤が爆発して大事件になるという事態は避けられた。
とりあえず街から離れたところへ移動するのは嫌でも、遠くの都市へ移動するためなら移動に時間を費やすのも問題ないらしい。
街を繋ぐ乗合馬車が満席で利用できない事態になろうとも徒歩で迷宮都市を向かうものたちでしばらく街道は人で溢れたとかなんとか。
もちろん一定数はそういった迷宮に興味を示さなかったり、まだまだこの周辺で活動しようという人も居たのでプレイヤーの誰もが移動したわけではない。
だが、結果的には迷宮都市以外の街から人が減ったことで、相対的にモンスターの数が増え獲物に困らなくなったので別に移動しなくても問題がなかったというのは皮肉なことかもしれない。
尚、俺とヘーテルは迷宮には興味なかったが何にしてももう少し大きな街へ行ったほうがいいだろうと移動はしていた。
しかも徒歩じゃなくて小さいながらもしっかりした作りの馬車に乗ってである。
馬は買ったが馬車は驚くべきことに、あるいは当然のごとく、ヘーテルが作った一点物だ。
本人曰く木工の訓練のためだとか。
揺れもかなり抑えられているので非常に快適だ。
そんなヘーテルのステータスをご覧いただこう。
例によって公開することの許可は得ているので安心してほしい。
名前:ヘーテル
性別:女
魂力:31
存在値:3479/3479
魔力値:1801/1801
存在強度:124
魔力適合率:63
器用さ:153
素早さ:42
幸運:39
スキル
<武器マスタリー>Lv25 <魔法マスタリー>Lv25 <生産マスタリー>Lv40 <存在強度強化>Lv33 <武器適正・槌>Lv20 <魔法適正・回復>Lv23 <魔法適正・付与>Lv25 <採掘>Lv24 <採取>Lv27
非有効化スキル
<鍛冶>Lv33 <調合>Lv34 <繊維加工>Lv28 <皮革加工>Lv35 <木工>Lv40
全体的にヘーテルのスキルは戦闘で扱うスキルはやや低く、その代わり生産系はそれなり高いレベルでまとまっている感じになっている。
しかも<武器マスタリー>、<武器適正・槌>の戦闘系スキルと、<採掘>、<採取>、<繊維加工>の生産系スキルを加えたうえでだ。
ちなみに戦闘系のスキルを新たにヘーテルが取ったのはLvが上がるにつれてどう考えてもステータスが魔法を使うのに不向きに成長していったかららしい。
そんな感じでスキルの数も多く、さらにある程度育てているのだからステータス的にはヘーテルのほうが優位かもしれない。
まあ、全体的に戦闘よりも彼女の生産プレイに付き合う比率の方が大きかったからというのもある。
だからこそ生産系スキルが満遍なく高いレベルで成長しているわけだし。
非有効化スキルも通常の半分とはいえステータスが加算されるのだから自身の強化を図るなら俺も本来はもっとスキルを取ったほうが良かったのだろうがまあ、結局取ってもある程度育てないと雀の涙でしかないから現状特に問題はないだろう。
それにヘーテルの生産プレイに付き合った分装備などは逐一ヘーテルが作ったものでより良いものへと更新されているから装備込みならより高いLvのプレイヤーにも引けをとらない能力に仕上がっているしな。
ちなみにヘーテルの生産プレイに比重が傾いた結果、出来上がった装備は当然俺たちの分だけなどという話ではなく、それなりの数が市場へと流された。
ここで言う市場はプレイヤー達にという意味ではなく、本当にこの世界の市場のことだ。
もちろん協会を通じてだから、細かい調整は協会任せだったけどな。
で、結果的にヘーテルの作った装備はどれも評価が高く、かなりの高値で売れ俺たちはちょっとしたお金持ちになった。
実際にはヘーテルが稼いだ資金なのだが、常に行動を共にするのだからと彼女からパーティー資金にしようと提案されたわけだ。
で、そのお金で馬と質のいい木材を購入し、さらに木材から馬車を組み上げて俺たちは馬車という移動手段を手に入れたのである。
そして今現在その馬車に乗って向かっているのは国一番の交易都市、トグクロスという名の街であった。
「そろそろ見えてきたわ」
「っと、ようやくか」
丁度、御者をしていたヘーテルからそう声をかけられたので荷台から顔を出して外を伺えば確かに進行方向に巨大な壁を要する都市が見えてきた。
流石国一番の交易都市。
俺たちの進む街道とは別の街道を進む馬車の姿もちらほらと見える。
ちなみに俺たちの前後にも商人たちが馬車を進ませている。
俗にいうキャラバンの隊列に組ませてもらっているのだ。
もちろん有事の際は俺たちも戦闘に参加することとなっていて、既に何度かモンスターを倒している。
「ん、なんだ?」
「後ろが騒がしいくなったわね……?」
「タイラントボアが出たぞーっ!!」
そうして周囲を見渡していると突如隊列の後方が騒がしくなる。
何事かとヘーテルと顔を見合わせていると慌てた様子でモンスターの襲来を告げる男の声がした。
「猪か」
「牙がそれなり上等な武器に、皮はいい感じのマントになるわね」
「大丈夫、覚えてるって。じゃ、とりあえずお先に」
こういった時に戦闘に参加するのが俺の役割なので立ち上がった俺にヘーテルがなんとも悠長なことを告げてくる。
既に何度か狩った相手であるのだから言われるまでも無い。
御者台の端から馬車の進行方向に向かって飛び降りる。
既にキャラバンは全体的にスピードを上げていてそれは俺たちの馬車も例外ではなかったが、魔法職とはいえLvによりステータスの上がったこの状態なら問題なく着地することができた。
着地してすぐに振り向いて両手に魔力をそれぞれ練りあげて集中させる。
キャラバンの後列がどんどんと俺を追い越して行き、やがて最後尾の馬車の向こうに問題のタイランドボアの姿が現れた。
それに並列するように馬に乗った冒険者が弓を射ったりしているのだが、タイラントボアの硬い毛皮はあっさりそれを弾き、執拗に馬車を追いかける。
実はあの馬車がなにかやらかしたんじゃないかと思う状況だが、タイラントボアは一度狙いを定めたらよほどのことがない限りターゲットを変えない性質を持つ。
今回目をつけられてしまったのがあの馬車っていうことだな。
ってことでまずは狙いを変えざるを得ないような余程の衝撃を与えなければならない。
俺は両手に魔力を集中させた状態で地面に両手を付く。
「マッドプール!」
そう宣言したが、実際に発動させたのは土属性魔法のサンドホールと水属性魔法のウォーターピラーだ。
どちらも魔法の規模をかなり抑えた形でタイラントボアの進行方向の街道に対して発動しており、サンドホールの効果によって直径1mぐらいの範囲で地面が砂状に崩されて蟻地獄のようになる。
そしてその場所からかなりショボい水柱が吹き出たかと思えば砂と混ざり合ってそこは泥が満たす窪みとなった。
マッドプールというのは俺が勝手に複合魔法として呼んでいるに過ぎない。
そして街道に出来上がった泥の窪みにタイラントボアが勢い良く前脚を突っ込んだかと思えば、当然足を取られて盛大に転び、さながら高速で走っていたバスがクラッシュして何度も横転するかのごとき様相で俺の方へと転がってきた。
まあ、俺がタイラントボアの進行方向にいたから当たり前なんだけどね。
慌てず足に魔力を集中させ、そのまま地面に流して足元を目標に土属性魔法のロックピラーを発動。
すると結構な勢いで地面が盛り上がり俺の身体を持ち上げるのでその勢いを利用して高くジャンプし、転がってきたタイラントボアをやり過ごした。
おまけにロックピラーによってできた傾きがタイラントボアを空中へと放り投げ、1mほどの高さまで浮いたタイラントボアの身体を地面に強く打ち付ける結果となった。
「顕現せよ、ミラージ! でもってパニック!」
とはいえタイラントボアもこの程度て死ぬほどもろくもないので俺はミラージを喚び出し、指示を出す。
するとミラージがタイラントボアの目の前に光球を発現させる。
これは以前ガガウルフにやった時のものとは違ってただの光球ではない。
その光球には見たものを正常な判断ができない状態にするパニックの状態異常に陥らせる効果がある。
ただこれは冷静を保っている相手に使ってもなかなかパニックになってくれないが、何か相手が動揺しているタイミングであれば面白いように効く。
当然、足を取られ盛大に地面を転がったタイラントボアは軽く動揺中であり、その結果立ち上がろうとしたタイラントボアはその光球を見てパニック状態になる。
「大地の力、今ここにその力を示し楔を打ち込め、アースバインド!」
すぐさま俺は通常発動よりも多くの魔力を消費しながら呪文を詠唱して相手を拘束する魔法でタイラントボアの動きを封じ込めた。
この魔法はもう呪文無しで発動できるが、呪文詠唱してかつ魔力を多く消費することでその強度が格段に増すのだ。
「流石だぜヒュージ!」
「畳み掛けろォ!」
その様子にNPC冒険者達が騒ぎ立てる。
俺たちは今キャラバンとして攻撃しているのだからこうして俺が相手の動きを止めたところで一斉攻撃というのは間違ってないから俺も止めようとは思わない。
だが、もう遅い。
いきり立つ彼らには申し訳ないが既にタイラントボアの命運は尽きている。
「素材は私が貰うのよ! ピッククラッシュ!」
誰よりも速く、それこそその場所にタイラントボアが叩きつけられた時点で両手で握ったメイスにチャージという攻撃力を増大させる武技で延々力を溜めながら向かっていたヘーテルの一撃が冒険者達の猛攻が始まる前にタイラントボアにぶつけられる。
そして彼女の存在強度と正確に急所を射抜く器用さに武器の性能とチャージにより増大したエネルギーが合わさってその一撃はタイラントボアの存在値を根こそぎ削り取ったのだった。
「くそ! また成果全部取られたぞ!?」
「実力は認めるけど俺たちにも活躍の場を寄越せー!」
結局見せ場もなくモンスターを仕留められて冒険者達は揃って悔しがるが、彼らは本気で文句を言っているわけではない。
その証拠に彼らの顔には一様に笑みが浮かんでいる。
もちろん彼らがお人好しだから……っていうわけではなく、
「っし、解体終了っと。んじゃ、残った肉なんかはご自由に」
「ヒュー!さっすがわかってるぜ!」
「皮や牙に関しての施しが無くても肉がこれだけの量なら結構な稼ぎになるな!」
ヘーテルが皮や牙などの素材しか回収しないため、残りの肉はそのまま神の施しとして戦闘に参加したものたちに分配されるからこその態度であった。
ほとんど苦労なくそれなりの収入が得られるのだから彼らにしても文句はないのだ。
「相変わらず現金ね」
「その内お前のこと姉御って呼びそうな雰囲気だな」
「そのときは私の槌が赤く染まるわね」
その様子に傍までやってきたヘーテルが呆れた様子で呟く。
更には物騒なことまで言い出してそれを聞いていた冒険者の一部がビクッと肩を震わした。
そんな感じで、俺もヘーテルもそれなりに強くなりつつもこの世界をのんびりと楽しんでいる。
こういったちょっとしたクエストみたいな騒動もよくあるので飽きることもない。
ゲームとしてプレイしていると移動時間とかはやはりネックだろうが、時間を持て余す俺たちにしてみれば本当に異世界で生活しているかのように感じられるこのゲームは素晴らしいものである。




