第七話 統括ギルド
あれからカイたちにフレンドメールを送って合流し、出来上がった革防具を分配した。
「おお! すげー! ほんとにもうできたんだ!」
「いや、これおかしくないですか!? 店でグラーグベアのレザーアーマー売ってるの見ましたけど性能の差が激しすぎますよ!?」
「いい装備が手に入ってよかったな」
「え!? そんな軽い反応で済ませていいんですかこれ!?」
渡された革防具にユウは素直に喜ぶが、カイはなにやら慌てふためいていた。
まだまだ序盤だしすぐに陳腐化する防具に何をそこまで慌てる必要があるのか。
確かに性能はまあまあいいものだが、やはりスキルのLvが圧倒的に低かったからか、かつてヘーテルが作ったものに比べればどうってことない代物だ。
「さて、分配も終わったし、これでパーティは一旦解散ね」
「「えっ!?」」
「いや、何をそんなに驚いてるんだ? 今回のはそもそも臨時パーティだったろ」
そして革防具を無事渡し終えたヘーテルの宣言に驚くカイとユウに、俺は首を傾げる。
報酬もらってはい、解散! なんてよくあることだと思うが。
おまけに固定パーティを組もうにもそれぞれの都合がある他、何よりも致命的なのはヘーテルがあくまで生産プレイヤーであるということだ。
どうあがいても戦闘プレイヤーと生産プレイヤーではそのプレイスタイルが大きく異なってしまうので、一緒に行動するというのは何か理由があるか、どちらかが大きく譲歩しなければ到底成り立たない。
俺はもちろんヘーテルの傍にいるという至上の理由があるので今後もパーティは継続するが。
まあ、フレンド登録はしてあるのだから気軽に連絡取り合って気が向いたらまたパーティを組めばいい話である。
そんなことを説明するとカイ達も納得したようで早速もらった防具を身につけてモンスターを狩りに町の外へと向かっていった。
「で、俺たちはどうしようか?」
「ガガウルフの素材あたりで何か作って売るのもいいけど、まだ始まって初日だから皆お金がなさそうだしね」
「じゃあギルドでも行くか?」
「そうね。情報は集めておきたいしそうしましょうか」
何かすること決まっているのか聞いてみれば、未定なようなのでずっと気になっていたギルドへ行かないかと提案すればヘーテルも賛成してくれたのでギルドへ向かうことにした。
ギルド――正式には統括ギルドというのだが、このギルドはよくある冒険者ギルドだとか生産ギルドなどのメジャーなギルドからマイナーなギルドまで、様々なギルドの機能をまとめた組織の事で、各分野の情報交換や支援を目的としている。
実のところ協会もそのギルドの一つであり、その役目は迷い人に対する支援と監視だ。
監視っていうと聞こえが悪いが、常に見張られているということではなくモンスター討伐の実績やら評判などが記録される程度だ。
そのかわり、協会は迷い人の身分を証明してくれているのである。
本来ギルドの機能は全て統括ギルドへと集められているはずだが、迷い人という特殊な存在を相手にするためか協会だけは別に設置されているため当初は俺たちも統括ギルドを華麗にスルーしていたのだった。
ちなみにこの辺は協会での説明で教えられたことなのだが、実際に説明を受けた時にはほとんど聞き流していたので俺は覚えていなかった。
ヘーテルも興味ないことにはとことん興味を示さないので同じくそんな説明は覚えていない。
じゃあ、なぜ今こうして説明できるのかといえば、俺は全プレイログを残しているからそのログと、会議の内容や説明を自動で分かりやすくまとめてくれるツールを使い、整理された情報ファイルを作成しておいたのでそれを見ただけのことだ。
どうやっているのかわからんが、このツールは極めて正確に情報を整理してくれるので様々なことで大助かりである。
余談になるが、このツールのおかげで例え話が大好き過ぎて盛大に脱線した挙句何事もなかったかのようにいつの間にか本題へ戻り学生に混乱と睡魔を植え付ける悪魔教授の講義もしっかり理解できるようになった。
もちろん、整理された情報を後で自分で把握する必要はある。
最終的に自分の知識として情報を蓄えるには努力するしかないのだ。
ご存知の通り脳に情報を直接インプットするのは人格形成に非常に悪い影響を及ぼすとされて禁止されているのだから。
さて、俺も話を脱線させすぎているので話を戻すとしよう。
結局先の提案通り俺たちはすぐに統括ギルドへと向かった。
協会が街の東側に設置されているのに対して統括ギルドは西側に設置されているのだから中々意地の悪いことだ。
おまけに広場を通って西へ行こうとすると通りの人に突然、
「ちょっとあんた。迷い人だろう? 協会は反対側だよ」
と、声をかけられるのだ。
既に行って登録済みだと告げれば「ああ、たしかにそのようだね」と納得してくれるのだが、しばらくするとまた別の人に同じことを言われるので、これはもう完全に迷い人を協会のほうへ隔離していると考えたほうがよさそうだ。
そういえば協会で迷い人登録した時もらったカードがあった。
首から駆けられるように紐がついていたが、
「固有空間に入れていても大丈夫ですので」
と言われていたためしまったままだ。
確かに街を出るときも衛兵に数秒確認されただけで問題なく通れたからその言葉に嘘はないと思う。
ただ、ここまで隔離されているっぽいとなると「入れていても大丈夫」というこの言葉。
非常に怪しい。
本来は首からかけておくものですが、っていう前置きが頭に付きそうな感じだ。
「試しに首からかけておくか……」
「ん? 私もかけておいたほうがいいかしら?」
「いや、実験としてヘーテルはそのままで頼むわ」
物は試しだと俺はインベントリからカードを取り出し、首にかける。
それを見たヘーテルが自分もかけたほうがいいか聞いてきたので首を振る。
これでもしもヘーテルにだけ声をかけてきたら俺の推測通りだろう。
そして、それから5分後。
「おい、そこの嬢ちゃん! 協会ならあっちだぜ? ちゃんと迷い人登録はしてるのか?」
と、厳ついおっちゃんから声を掛けられた。
その声は完全にヘーテルにだけ向けられていて俺のことなどガン無視なので思った通りのようである。
ちらっとこちらを見て頷くヘーテルの様子から彼女も、どういうことか悟ったらしい。
「ちゃんと登録してるから大丈夫よ、ほら」
「ああ、片方は明かしているからもしやとは思っていたんだが、いや、すまんな」
ヘーテルがカードを取り出しながら告げればそのおっちゃんはすぐに納得したように頷いて謝罪してきた。
やはり、カードを見せていれば無駄に協会へ誘導されるってこともないようだ。
また、ここまで出会った人の態度を見る限り、隔離こそされているが別に登録さえされているのなら悪く思われても居ないらしいな。
その後は特に声を掛けられることもなく統括ギルドへと辿り着いた。
やはり様々なギルドの機能を集めているからか、相応に大きな建物だ。
「ようこそ、統括ギルドへ。本日はどちらのギルドをご利用ですか?」
「俺は魔法ギルドで」
「私は生産ね」
「かしこまりました。魔法ギルドは二階正面窓口から、生産ギルドは一階の右奥窓口からそれぞれ手続きしていただきます」
中へ入れば即座にギルドの職員と思われる女性に挨拶され、用件を聞かれる。
それに答えれば、軽快な様子でそれぞれのギルドの窓口の場所を案内してくれた。
「んじゃ、後でな」
「終わったらそこのロビーに集合ね」
そう言ってヘーテルと別れ、俺は階段を登って魔法ギルドの窓口を目指す。
そして案内通り、階段を登り切ってすぐ正面に魔法ギルドの窓口はあり、都合よく人が並んでいるということもなかったのでささっと窓口へと向かった。
「今、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。ご用件はなんでしょう?」
「ここなら協会にはない魔法球が多数あるって聞いたのでとりあえず売り出している魔法球の一覧がほしい。あと魔法についての理論を教えてくれる本とか借りれたらと思うんだけど」
「一覧はこちらですね。本は当ギルドだと入門書しかありませんね。もっと大きな街にあるギルドならもっと専門的な本も有りますが」
「いや、十分です。じゃあ、特定の属性とかじゃなくて魔法全般に関する本当に基本的なことについて書かれた入門書があればそれを」
「かしこまりました、直ちにお持ちします。また、本を貸すのは無料ですがギルド外への持ち出しは厳禁ですので、ご了承ください。では、そちらの方で少々お待ち下さい」
窓口にいた女性に声をかけ、ひとまず用件を告げる。
魔法球についてはすぐに一覧が渡され、借りたいといった本についてはいろいろ確認され、それを終えると受付の女性は席を立って窓口内にあった扉の先へと姿を消していった。
俺は言われたとおり傍にあったベンチへと腰掛けて渡された一覧を見て、どんな魔法を覚えようかと考えをまとめることにする。
ちなみにカイたちとパーティーを組んで得たガガウルフの素材を全部売っぱらっているので俺の所持金は5000Sほどあるから、最初に覚えた魔法と同程度のクラスの魔法なら5個覚えられる計算だ。
どれを覚えるかしばらく悩んでいると先ほどの受付さんが戻ってきた。
「こちらが魔法の基本について書かれた入門書ですね」
「どうも」
笑顔で渡されたその本は驚くほどに薄かったが俺はそれを顔には出すことなく受け取った。
多分顔には出さなかったはずだが……まあどっちでもいいか。
ひとまずそれを流し読みで読み、裏で文字データとして保存。
そして情報整理ツールで整理を開始する。
本格的に理解するのは後回しだ。
この世界に住んでいる人からすれば酷いズルである。
流し読みしながらもある程度理解できたのは、ひとまず魔法を使うなら各魔法ごとに呪文が必要らしい。
というか、本当は必要ないんだけどそれは中々難しい技術らしく、呪文を唱えるのは魔法発動の補助に近いようだ。
補助とはいってもその呪文に意味や力を乗せることによって魔法そのものを強化することも可能らしいからどれだけ技術を高めても無駄になるものではないようだ。
尚、この呪文も例によって例のごとくオリジナル呪文を作成する必要がある。
改めてそう認識してみれば確かにキャラクリエイトの時と同じように呪文を作成する際のハウツーが脳裏に表示される。
さて、俺はそんな呪文を唱えること無く魔法を使っていたわけだがこれはどういうことだろうか。
それを知るべく早速整理された情報ファイルを見てみて納得した。
魔法とは魔力をどのように制御するかによって発動の有無が決まるようでその制御能力が一定以上備わっていれば特殊なスキルなどなしに発動することが可能だということだ。
つまり呪文詠唱はこの魔力制御を大きく補助してくれる効果があり、俺は魔力制御スキルがあるから呪文詠唱による補助がなくても発動ができたってわけだな。
また魔法毎に制御難度が設定されているらしいから、ある魔法は呪文詠唱無しで発動できても別の魔法は詠唱必須ってパターンもあるようだな。
というか、普通にそうなるだろう。
この辺りの情報を知れたのは多いにプラスだな。
それから本を受付の人に返せば、ほんとに一瞬目を見開いて驚いた様子を見せたのだがそれもすぐに笑顔に変わって受付の人は再び窓口の裏へと消えていった。
そして受付の人が戻ってくる頃には俺も新たに習得するべき魔法の選別が終わったので、窓口に向かい欲しい魔法球について告げつつ、お金を支払えば即座に受け取ることができた。
「どうも」
「またのご利用をお待ちしております」
用事も終わったのでひとまず窓口を後にした。
ちなみに購入した魔法級は風属性魔法のウィンドカッターと土属性魔法のアースバインドの2つだ。
やはり魔法としては最初に覚えたものよりも上位のものなのか一つ2000Sと高めだったのだ。
それから階段を降りて行くと、先に用事が終わっていたのかヘーテルがこちらへ手を振る姿が目に映る。
こちらも手を振り返し早々にヘーテルの元へと向かった。
「悪いな、待たせたか」
「いえ、こっちもさっき終わったところよ」
「そっか。こっちはひとまず新しく魔法を二つ覚えてきたぞ」
「私は採掘道具とかを揃えたわ。西に鉱石が取れる洞窟があるらしいのよ」
「んじゃ、次は西だな」
そして互いに得たものを報告すれば、ヘーテルの告げた言葉によってすぐさま次の目的地が決まったのであった。
ただ、今日はもう随分長くプレイしていたので翌日に、ということになったけどな。
このゲーム、何よりも街の構造などがリアルすぎて、移動時間がネックになっている。
この辺りは賛否が分かれそうなところである。




