レジェンドオブシルバ4
……。
クク……。
フハハ……!
「ハァーハッハッハッハッハ!!」
思わず笑いの三段活用、しかも最後は心のなかだけでなく口に出して笑ってしまう。
なんだっけ?
攻撃した後は相手に攻撃権が移ります?
「クソが!!!!!!!」
VRで、仮想世界で、自ら動くことのできる世界でまさかのターン制バトルだと!?
ざっけんじゃねえぞ!
こんな戦闘わざわざVRでやることじゃねえだろうが!
クソがあああああ!
なんてね。
俺はクールに冷静だ。ほんとに。
なんせ知っていたことだし。
しかし実際に味わってみると、しんどいな。すごい出鼻を挫かれた感じだ。
実のところこの辺りの不満は当初から頻出していて、当時のネットでは大炎上となっていたらしい。
だからレジェンドオブシルバのシステム面が糞だってことは最初から知っていたのだが……想像以上だった。
だってこれはVRゲームだ。
仮想世界を作り、その中で自由に動けるというのが売りのVRゲームだ。
その売りを真っ向から壊してくるターン制バトルを採用しているとどうして予想できようか。
さて、先程も挙げたようにこの戦闘システムに対してユーザーの不満は爆発した。
プレイして思うが、不満に感じて当然だと思う。
ってことでその意見を受けた運営もこれはまずいと思ったのか急遽無料DLCとしてパッチを配布した。
「戦闘強化DLC」と銘打ったそれは読んで字のごとく戦闘を強化するパッチだ。。
といってもステータスを変えるなどはともかくターン制バトルというシステムを自由な戦闘システムに切り替えるなんてのは不可能だった。
だからターン制バトルであることは変わっていない。
じゃあ、何が変わったのか。
それをこれから体験するため一旦ゲームを終了し、DLCを導入してから再度起動し設定に新しく増えた戦闘強化度という項目を一番難しい物に変更する。
同時にデフォルトである戦闘難易度も最高のものに設定した。
強化度と難易度。
若干ややこしいが、難易度はダメージ調整で強化度はシステムの変更具合を指している。
ついでに設定からチュートリアルをオフにした。
さっき説明書を読んだしこれはVRゲーム。おおまかにシステムを理解したら後は実際に身体を動かすだけなのだ。
だったら最初からチュートリアルもオフにしとけよって話だが、戦闘始まる前にまとめて操作説明入るぐらいかなと油断していた。
少なくとも最近のVRゲームはそうだった。
結局必要なのは仮想世界で体を動かすことに慣れることであって、自由に動けるというのに操作方法もクソもないからある意味当然だ。
この辺りはやはりVRゲームがまだ新しかった頃のゲームだからか。
さて、データをロードして再び兵舎から外へと続く扉を開けると先ほどと同じようにイベントが始まり、デッドウルフが現れた。
おそらくここはチュートリアル戦闘なので戦闘強化DLCの設定が適応されるかは分からないが適応されるものとして挑むことにした。
「ガウッ!」
「っぶね!」
現れて程なくデッドウルフが攻撃を仕掛けてきたので慌てて回避。
最初の時と同じ心構えでいたら普通に攻撃を食らっていただろう。
おそらくDLC関係なくチュートリアルをオフにすると普通の戦闘になる仕様なのだろう。
しかも先制はデッドウルフ側と大変いやらしい。
「ガッ!」
「っ!」
そんなことを考えてボーっとしていたのも数秒のこと。
デッドウルフが再び攻撃を仕掛けてきたので再び回避する。
これこそが戦闘強化DLCによる挙動だ。
ちゃんと自由に戦えるようになっているじゃないかと思うかもしれないが、その実ターン制であることは変わりない。
同ターンに複数行動できるようになったかといえばそうでもない。
相変わらず攻撃権はどんなものにせよ攻撃するごとに相手に移る。
違うのは攻撃権を保持する時間が設けられたということだ。
攻撃権を得ても一定時間攻撃しないと攻撃権が相手に移ってしまう。
これによりDLC導入以前よりも遥かにスピーディーな戦闘を可能とする。
そしてこの攻撃権の保持時間を定めるのが戦闘強化度であり、最難設定だとわずか2秒だ。
カウントは相手の攻撃を受けたり、回避したり、防御したその瞬間に始まるのでこの設定時間はかなり厳しい。
最悪相手の攻撃を受け怯み、2秒過ぎて再び攻撃を受けてハメられることにもなりかねないぐらいに厳しい。
だが、この設定はプレイヤーだけに適応されるのではなく敵にも適応される。
つまり逆にハメ倒すことが可能ということだ。
DLC導入ついでにおすすめの設定を検索してみるとこの設定が最も楽しくなる設定だとされていた。
こうしてデッドウルフの攻撃を避けているとなんとなく納得できる。
この2秒というのは意外と余裕がある。
それでいてあれこれと考えるほどの余裕ではない。
かと言って考えなしに攻撃したり回避するとその動きにより次の動きまでに制限がかかり攻撃できたけどその後押し込まれて負けたなんてことになりかねない。
常に戦況を見て取れる選択肢を把握し、即座に決断し、先を見て行動しなければならないのだ。
これは早打ち将棋などに近いかもしれない。
打ちながらもすでに次の手を考え動く。
そういった対応が必要となるのだ。
なお、現状俺は回避するのみで全く攻撃できていなかった。
回避するという行動から素早く攻撃するには体制が崩れすぎているのだ。
「ぐ……っ!」
そしてついに回避しきれずにデッドウルフの攻撃を腕に受けてしまう。
同時に腕に強い衝撃を感じどうしようもないほどに体勢を崩され、その間に2秒過ぎて攻撃権がデッドウルフへと移り再び攻撃を受ける。
一度崩すとその後の回避はさらに難しく、当然のごとく俺は再び攻撃を受けた。
するとまたダメージを受けたことによる衝撃で体勢を崩してしまう。
たった二発でHPは半分ほど減らされた。
これは難易度を最高にしたことにより被ダメージ率が大きく上がっていたからだ。
最初の戦闘で四発で死ぬ設定とはなかなかシビアである。
「ぐっ……こんなところで……」
その後も同じような流れで攻撃権をロストし、攻撃を受けあっけなく全HPを失い死んでしまった。
倒されると同時に勝手にセリフが口から漏れる。
だがもうそんなことは気にならなくなっていた。