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VRゲームで遊ぼう  作者: イントレット
ファルクール(雰囲気ゲー)
32/72

ファルクール

一話完結

 最近めっきり寒くなってきた今日このごろだが、俺は暖房の効いた空間で気ままなゲーム三昧生活を送っている。

 少し前から一緒に暮らしている同居人も同様で、日夜ゲームに励み生産することに飢えているようである。


 そんなわけで特にこれといった理由はないがなんとなく目についたので今回は「ファルクール」というゲームをプレイしたいと思う。

 全く前後で繋がっていない?

 そんなことはどうでもいいから早速ゲームスタートだ。





 ゲームを起動すると何も見えない真っ暗な世界にいた。

 同時に現れたのは名前を入力する画面。


 いつもどおりにヒュージと入力し決定すれば真っ暗だったその世界は光りに包まれた。

 そして光が収まると世界は一変していた。

 俺は何か白いブロックの上にいて、辺りはどこまでも続く自然が広がっていた。

 空は青く、遠く澄み渡り、青々と茂った草花に満たされた大地は遥か遠くの眼下で広がっている。

 だがそんな空と大地も、この世界で一際存在を主張する目の前の大樹の前には霞んでしまう。

 その大樹はあまりにも巨大であり、枝葉は空を覆い尽くさんばかりに広がっていて幹も大陸並にあるのではないだろうかという驚きの太さであり、それは注意して見なければただの巨大な壁に見えてしまうほどだ。

 そんな幹を支える根はこの世界の果てまで伸びているに違いない。

 それこそ世界の大地全てに支えられていると言ってもいいだろう。

 ……いや、それも違うか。

 大樹は支えられているのではない。

 この世界こそが大樹に支えられているのだ。


 別に何かしらの情報が示唆されたわけではない。

 それでもその答えに辿り着いてしまうほどに、目の前の大樹の存在は大きかった。

 その雰囲気だけでそう納得させられてしまうほどに大きな存在だった。


 世界を支え、圧倒的な存在感を放つその大樹を短い言葉で表現するならば。

 それはやはり「世界樹」と表現することになるのだろう。






「これは……すごいな」


 しばらく世界樹を見上げ観察してようやくの反応はそんなありきたりな感嘆の声だった。

 説明も無く、派手な演出があるわけでもないのにただその存在を見るだけでそれが何なのかを理解させられてしまった。

 一体どういう技術を使えばそれをなすことができるのか。

 あいにくとプレイ専門の俺には到底理解できるものではないが、理解する必要もないだろう。


 ただ、この世界は素晴らしい。

 それだけを認識できれば問題はないのである。


 さて、放心するのも程々にして気をしっかりと持ち、このゲームを進めるとしよう。

 世界樹の周囲には無数の白いブロックが浮いている。

 ともすればミスマッチで無機質なそのブロックは不思議と違和感なくそこに存在している。

 今俺が立っているのはそんなブロックの一つであり、スタート地点である。


 このゲームに敵は存在しない。

 ただひたすらゴールを目指してブロックからブロックへと飛び移っていく。

 それだけが目的の極めて単純なゲームだ。

 さて、まずは飛び移るべきブロックは……と探すのだが近い場所にブロックはない。

 ならば一番近いものはどれかと確認すると大樹のほうを向いて右側やや上方にあるものが一番近そうで、それでも間にバスが収まってしまう程度の距離が開いている。


 うーむ。

 ある程度身体能力とか強化されている感覚はあるので大丈夫だとは思うが、強化具合が分からないからなあ。

 とりあえずチャレンジするしかあるまい。

 では、一番近いブロックをしっかりと見据え、前屈みに構える。


「スゥ……フゥ……よし」


 一つ深呼吸して気持ちを落ち着かせ、覚悟を決めて足元のブロックを力強く蹴った。

 一つ一つのブロックの大きさは四畳半といったところで多少の助走は可能だった。

 俺は一歩一歩とブロックの端へと駆け、一番端で強く踏み切って跳びあがる。


 否応なく眼下の景色が目に入りその高さに思わず身体が震える。

 それは当然恐怖もあったのだろうが、不思議と俺は興奮していた。


 絶叫マシンに乗ったのとはまた違う不思議な興奮を正確に言い表すことはできないが、確かに俺は興奮を感じていたのだ。

 空を駆けて身体に感じる風は心地よく、恐怖を感じるはずの遠き大地は落ちても構わないと思えるほどに美しく感じた。

 そう思ったから、というわけでもなく単純に踏み出す力の調整を誤ったのだろう。

 思い切り踏み切って跳び上がった俺の身体は目的のブロックの上を軽く超え、その先まで到達し、やがてはブロックも何もない空間へ落下していった。


 先程まで空を飛んでいたかのような感覚は一転して落ちていく感覚へと変わる。

 だが、思いの外落ちていく現状に恐怖を感じることもなく、現実で絶叫マシンに乗った時の気持ち悪さもなかった。

 段々と地面が近づいてくる。


 このままだと地面に叩きつけられることになるだろう。

 だが、どれだけ地面が近づいてきても恐怖は全く感じられなかった。

 なんとなく大丈夫だと感覚が告げていた。


 そして地面へと衝突するその瞬間。

 体全体が何か暖かく優しいものに包まれたかのような感覚が合ったかと思うと気づけば草花の絨毯の上で仰向けになって倒れていることに気づく。

 空を仰いで見えるのは遠く、高い青空。

 俺がさっきまでいたはずの白いブロックは目を凝らしてようやく見えるかというほどの小さい影だった。


「あんなに高いところから落ちたのか……不思議だ」


 それだけ小さく見えるということはその分遠くにあるということで、どれほどの高さから落ちたのか理解させられるというもの。

 だが落ちている最中に恐怖を感じることもなく、地面に衝突した衝撃を感じることもなく気づけばこうして天を仰いでいる。

 ゲーム的にはミスをした状況なのだが苛立ちを感じることは一切なくどこか清々しくもある。


 こうしてこのまま横になっていたいそう思えるほどに不思議と安らげる。

 だが、それ以上にあの高い空へ行きたいと思った。

 あのそびえ立つ世界樹の頂上を目指したいと願った。

 そこにたどり着けばきっと今以上に感動できる何かがあるのだと直感が告げていた。


 手を伸ばす。

 最初に俺が降り立ったと思わしきブロックの小さな小さな影に向かって手を伸ばす。

 当然手は届かない。

 届くはずがない。


 手を開き強く求めるようにその掴もうとする。

 そして手のひらを閉じたその瞬間。

 強い風が吹き、思わず目を瞑る。


「――戻ってきた」


 風が止み目を開けばそこは最初に見た景色だった。

 気づけば俺はあの白いブロックの上に立っている。

 俺はまたゴールを、世界樹の頂上を目指すことができる。

 そう思うと不思議と笑みがこぼれた。


 俺は再度、一番近いブロックを見据える。

 なぜだろう。

 今度は失敗せず跳べると思えた。


 深呼吸するまでもなく心は落ち着いている。

 覚悟を決める必要もなく、跳ぶのだと気負い構える必要もない。

 ただ、あの場所へ移るだけ。

 軽くステップを踏むように一歩二歩と歩き、三歩目で俺は跳んだ。

 空へ跳びだして感じる風はやはり心地よく、俺は重力から開放されたような気がした。

 そしてそのままフワリと見据えていたブロックへと足をつけ、着地する。


 たったひとつブロックを移っただけだというのにそれだけで気分が少し高揚する。

 けれどこの旅はまだ始まったばかりだ。

 このまま心を軽く、自然なままに先へ進んでいこう。


 そうして俺はステップを踏むように次から次へと飛び移っていった。






 ブロックからブロックへと飛び移ることしばらくのこと。

 周囲に渡れそうなブロックはなく、残されたのは世界樹の内部へ誘う横穴のみ。


 誘われるがままにその穴へと飛び移ればやはり内部へと続いているようだ。

 俺はその中を普通に歩き進んでいく。


 少しして広い空間に出た。

 そこは暖かな光を放つ不思議な光球がいくつも浮かび、フワフワと浮いて気ままに動く風船のような何かが漂う幻想的な空間だった。


 のんびりと風船みたいなソレがちょうどいい位置まで来るのを待って飛び乗ればポヨンとした感触を足裏で感じる。

 その感触に逆らわず少し力を入れてソレを蹴れば俺の身体はフワッと跳ね上がり、高い位置にあった別のソレのところまで跳ぶことができた。

 そうして跳ねることを繰り返しかなり高い位置まで来たがこれ以上高い位置に足場になりそうなものはなく、周囲を見てもやはり何も見当たらない。


 唯一それらしい道は天井にポッカリと空いた縦穴だが、跳ねる風船を用いても到底届かない位置にそれはあった。

 とても届きそうにない。

 俺の身体は既に流れるまま一番高い位置の風船を使って跳ねて空中にある。

 落下地点に別の風船があるということもない。

 このままここで落ちるしかないのか。


 そう思いつつも実際は落ちることにたいして忌避感はなく、せめて落ちる先はどんな景色が広がっているのかと眼下を見れば巨大な風船がそこにあった。


 中心から外側へと向かって淡いグラデーションを描いた青いソレは今までの風船よりも遥かに大きい。

 俺の身体は丁度その大きな大きな風船の一番色が濃い場所へ向かって落下している。

 俺は流れに逆らわずそのままその場所に着地するつもりで体勢を整えた。


 そして遂にその巨大な風船へと着地すればソレは大きく沈み込み、同時に足裏から元の形に戻ろうとする感触を感じ取る。

 そしてある程度沈み込んだ状態で固定されてしまったかのように変化が止まる。

 けれど今まさにその力が開放されようとしているのだとその上に直接乗っている俺にはハッキリと伝わっていた。

 俺は膝を曲げ、その時を待った。


 そして遂にその力は開放され、ものすごい勢いで巨大な風船は元の形へ戻ろうとする。

 大きい分全体から見ればソレは非常にゆるやかに見えるのだろうが、実際乗っていて感じるその勢いは凄まじかった。

 だが、俺はそんな勢いに気負うこと無く天井の穴を見据えて最善のタイミングを図っていた。


 ふと、ここだ! という強い感覚が走った。

 その瞬間俺は一気に足に力を込めせり上がるソレを強く蹴った。


 景色が物凄い勢いで下へと流れていく。

 俺の身体は物凄い勢いで上昇していく。


 あっという間に天井の穴は近づいてきて、そのままその穴へと吸い込まれるように入っていった。

 穴に突入して尚勢いは治まることを知らず、上昇し続けること十数秒。

 何やら穴の先が光で照らされるのが見えてきたと同時に上昇する勢いが落ちてきた。


 そして丁度穴からでたところで勢いは完全に落ち、俺は再び落ちないように穴の淵へと着地した。

 そうして辿り着いたのは巨大な水の球体が無数に浮かぶ場所だった。

 ただ水が球体になっているだけでなく流れも存在するらしく、ところどころ渦を巻いている様子も伺える。

 また、水球の中心には何か強い光源があるようで、その光が水流を通って揺らめく様はとても美しい。


「さて……どこをどう進めばいいものか」


 その景色は素晴らしいが問題があった。

 周囲に渡れそうなブロックや足場はなく、唯一届くのはあの水の球体のみ。

 泳いで移動すればいいのだろうか。

 だが、こうして見ているだけでもその水球を形成する水の流れは複雑でまともに泳げるかも怪しいところだ。

 それに水球を用いて移動するというのなら水球から水球へ移動する必要があるが水中からのジャンプで届くような距離で存在しているわけでもない。


 そうして悩んでいるとふと水球の中で何か光を反射している物が流れていることに気づく。

 なんとなしにその物体をを追っていたがどの位置でも常に光を反射しているようだ。


 他の水球の方を見てもやはり同じように光を反射している物体が流れているのが確認できた。

 ならその物体が何かしら道を繋ぐ鍵になるのではないだろうと予想すると、俺はすぐに水球の中へと飛び込んだ。


 水の中に入るが息苦しさはない。

 それどころか普通に呼吸もできるようだ。

 それでいて確かに水の中という感覚はあるので不思議な感じだが、この感覚は他のゲームでもよくある感覚だったのでそこまで戸惑うことはない。

 そんなわけで光を反射していた物体を探そうとするのだが、この球体を形成する水の流れは外から見ていた以上に速くとてもじゃないが自由に泳ぐことなどできそうになかった。

 だから慌てること無く流れに逆らわない程度に少しづつ位置を変えたりしながらゆっくりとあの物体を探していく。


 そうしてしばらく水に揉まれていると遂に例の光を反射する物体の傍まで辿り着いた。

 手を伸ばせば簡単にそれを掴むことができたが、掴んだ瞬間砕け散ってしまった。


「あれ……ああ、道ができてるな」


 違ったのかと一瞬不安になったがすぐに水球同士を水の橋が繋いでいることに気づいて安心する。

 再び少しずつ位置を変えて行き俺はその橋から別の水球へと移った。


 それから何度も同じ工程を経て水球浮かぶそのエリアを踏破したのだった。







 その後も不思議で幻想的な光景の中を様々なギミックを駆使して進んでいき俺は世界樹の頂上へと到達した。

 難易度としてはそう難しくもないし、何かストーリーがあるわけでもなかった。

 だが、道中に見たあらゆる景色は美しく心落ち着かせる素晴らしいものでそれは想像以上に価値のあるものだと断言できる。

 特にゴールである頂上からの景色は素晴らしい以外の何物でもないものだった。


 ただ、この辺りのことは大幅にカットしておいた。

 初めは最後までくっきりログに残そうと思ったのだがコレは実際に自分でプレイして欲しいと思ったからだ。


 最後に改めてこの「ファルクール」ゲームについて説明しておこう。

 このゲームはジャンルに分類することが難しいのだが、強いて言えばアクロバティックだろうか。

 念のため説明しておくとアクロバティックというのは旧時代におけるアクションゲームのことだ。

 VRゲームが主流になった関係でゲーム全般アクション要素のあるものになったからFPSと同じくその名称が変化していったわけである。


 そんなわけでこのゲームはアクロバティックゲームと言えるし、パズル要素もあるからパズルゲーと言えなくもない。

 だが、やはり一度慣れれば動きも難しくなくパズルも考える必要性がほとんどないものばかりであるためどちらとも言いがたいものがある。

 ジャンルとは言えないが一番しっくりくるのは雰囲気ゲーという分類だろうか。


 実際このゲームで作られた世界は本当に素晴らしいもので、その雰囲気だけで出来ていると言っても過言ではないものだった。

 普段戦闘ばかりのプレイをしているがたまにはこういうのも悪くはない。

 そう思わせてくれる素晴らしいゲームだった。

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