Unlimited Space Adventure 7
では、プレイログ5回目を――ってそんな挨拶などどうでもいい!
そんなことよりも待ちに待ったアレが、遂に完成したのだ!
そう、ヘーテルに渡した『設計図』のアレがだ!
レーシングゲームでもできたんだ。
宇宙ゲームでできないわけがなかった!
俺がヘーテルに作ってもらうように頼んだアレとはズバリ戦闘用人型兵器、つまり人型ロボットである!
やっぱり宇宙といえばこれでしょう。
いやーヘーテルが武装を作っているのを見てピンと来たのだ。
あれだけ自由なものを作れるのなら機体だって作れるはずだと。
レーシングゲームでもなんとか作れたのだから宇宙ゲームでも作れないわけがないのだと。
「喜んでるとこ悪いけどあまり期待しないほうがいいと思うけど」
「でも、これで完成なんだろう? 素晴らしいできじゃないか!」
「うーん。私もあんたを落ち込ませたいわけじゃないんだけど、こればっかりはどうにもならないのよね」
彼女は一体何を言っているんだ。
俺の目の前には完璧な10m級のロボがあって、そのフォルムは間違いなく『DEAD RACING』で俺が愛用する機体そのものだ。
しかもこと生産においては抜きん出た実力を持つヘーテルが作ったのだからそれはもう素晴らしい機体に仕上がっているはずなのだ。
それなのになぜ彼女は難しい顔をしているのだろう。
「ま、動くことは動くしそれなりの性能は確保出来てるけど……あんたの要望には答えられていないのよね」
「え? でもどっからどう見ても俺の要望通りじゃないか」
「……まあ、実際に乗って動かしてみれば分かるはずよ。動かし方は他の宇宙船と同じだからすぐ慣れると思うわ。先に言っておくけど期待に添えなくてごめんなさいね」
彼女の声はどこか申し訳なさそうで、そのことに俺は首をかしげるがひとまず頷き、彼女が言ったように実際に動かしてみようと人型兵器――タイプ0特殊艦ブレイバーへと乗り込んだ。
確か操作方法は宇宙船と同じだと言っていたな。
宇宙船と操作方法を変えずに人型ロボの操縦をできるようにするとはさすがヘーテルだ。
ひとまずはブレイバーを上昇させる。
「……?」
その時、ふと違和感を感じたがその正体が掴めず横においておくとして今度は前進してブレイバーが格納されていたドックから宇宙へと飛び出した。
そこで再び違和感を感じて首をひねる。
何かが違う気がする。
「一体何が違うんだ? ……あ」
口に出して呟いたことでふと気づいた。
これ……普通の宇宙船の操作と何が違うっていうんだ?
腕も自由に動かせるわけじゃない。
自由ではなくとも一応、照準システムに連動して腕は動くが、それは宇宙船を操作するときも普通にある動作だ。
照準を動かせる武装を積めば連動して動く。
人型という縦長の機体だからか横に回転するのはわりかし速く縦方向だとやや遅いがこれもそういう特徴をもってるだけの宇宙船と言ってしまえるものだ。
これじゃあ……。
「宇宙船と何も変わらなくね?」
『気づいた? 一応完成はしたけど結局、その機体は単に人型という形状をした宇宙船でしかないのよ』
思わず口に出した言葉に返されたヘーテルの言葉に固まる。
人型をした宇宙船。
確かにそうだ。
「いや、あっちでは普通にロボとして操縦できてたぞ?」
『ゲームが違うもの。根底のシステムが違うのだから同じ操縦方法が使えるわけがないってことでしょう。教えてもらったゲームでは割りと自由なコントロールシステムのようだけど、このゲームのコントロールは基本的にどの位置のスラスターをどの出力で起動させるかっていう推力操作が原則だったからどうあがいても奇抜なデザインの宇宙船以上にはできないようなのよねえ』
尚も食い下がってみるが、そもそもシステムが違うことを指摘されてこちらも納得せざるを得ない。
まあ、テレビゲーム時代のロボゲーのようにコントローラーで操作しているようなものと思えばこれもロボットと言えるかも知れないが正直期待していたのものは違うので俺は項垂れる他なかった。
そしてこのタイプ0特殊艦ブレイバーはその後陽の目を見ることはなくお蔵入りとなったのだった。
まあ、仕方ない。
流石にロボットを作るというのは無理があったということなのだろう。
システムの限界を超えることはできないのである。
逆に『DEAD RACING』のシステムの異常性が見えてくるというものだろう。
出鼻を挫かれたところでタイプ0特殊艦について説明を入れて置く。
特殊艦とは既存の宇宙船と一線を画する形状や、機能を備えた艦のことで今回の人型兵器のような特殊な艦を総合したものだ。
例えば、コロニーなのになんかすげえマップ兵器撃っちゃうやつとか太陽の光集めてバーンする奴とかも、もし存在するならそれらは特殊艦に分類されるし、ステーションに推進装置をつけて動けるようにしたのがあればやっぱりそれも特殊艦で、天体そのものみたいな死の宇宙船なんかも特殊艦だ。
つまり単純に説明するとこうだ。
なんか奇抜で宇宙船とは呼べないんじゃ? と思えるようなものを総じて特殊艦と呼ぶのである。
まあ、なんにせよ俺が期待していたロボット大戦はできないってことだ。
楽しみにしていただけに落胆は大きいものだった。
そうして落ち込んでいると、ヘーテルがやってきた。
何やら悪巧みを企んでいるかのような怪しげな笑みを浮かべているから慰めに来たとかではないようだが一体?
「さて、落ち込むのもその辺にしておきなさい。ロボットはダメだったけど他に面白いことを考えてあるんだから」
「ほう……?」
そういう彼女は一層怪しげな笑みを深め、その様子に俺も好奇心をくすぐられる。
面白いことというのは俺の大好物だ。
興味を持たないわけがない。
そしてヘーテルから詳細を聞いて俺はそれまでの落ち込みが嘘だったかのように晴れ晴れとした気持ちになった。
それほどまでに彼女の提案は魅力的だったのだ。
そして、それから一週間後。
俺は全長3メートルばかりの宇宙船としてはかなり小型な艦に乗っていた。
この機体はヘーテルが人型ロボットと平行してちゃっかり作っていたもので、その名をタイプ0特殊特化艦スペーサーと言う。
武装もシールドも一切なく、ワープドライブすら積んでいない。
あるものは移動するためのスラスターのみという、ただ宇宙空間を航行する必要最低限の最小構成の機体である。
だが、その機体に搭載されたスラスターは例の巣から手に入れた素材で作られており不思議な性質を持っていて、この全長3メートルのスペーサーに搭載した場合に限り異常な出力を発揮するようになっていた。
どうやら機体の大きさによってその出力を変える特性があり、その効果が最も大きくなるのがこのスペーサーということらしい。
その出力から齎される速度は俺が乗っていた速度特化型のエリート艦よりも2倍近く速い。
もちろん機体の重量が軽いというのもあるのだろうが、それでも驚異的なスピードである。
そして何よりもこの艦は作るのに大したコストはかからないらしく、通常の小型艦程度で売りだしても十分利益が見込めるものだった。
その艦を見てヘーテルが考えついたのがとあるイベントで、俺はそのイベントに選手として参加しているというわけである。
『本日はお集まりいただき誠にありがとうございます』
会場に響くアナウンスに集まっていた人の歓声が響く。
そう、ヘーテルが考えだしたイベントとは宇宙船を使ったレースであった。
レーシングゲームでロボット対戦ができるのだから宇宙ゲームでレーシングしてもいいじゃない!
しかもどこどこのステーションを周回するとかではなく、特製のレース用のコースを用意した本格的なものだ。
生産活動に火が付いたヘーテルはそれらを驚異的な速度で作り上げていったのだ。
もっとも資材は例の巣から無限に手に入ったので大した苦労はなかったらしいが、それでも凄まじいものだと思う。
そうして本気でイベントを計画した後は選手としての参加や観客を集めるために告知をしたのだが、どうやら丁度マンネリ化していて皆やや飽き飽きしていたらしく、予想以上に拡散され多くの参加者が集まる結果となった。
『いろいろと思うことはありますが、長い話はバッサリ省いて早速始めていきましょう。桜花主催! 第1回スペースレーシング、ここに開幕です!』
そして開催を告げるそのアナウンスと同時にアップテンポのBGMが爆音で流れ花火代わりのミサイルが放たれて爆発していく。
その様子に観客は一気に興奮して思い思いに歓声を上げた。
『では、選手を紹介していきましょう! ――――』
それから順にレースに参加する選手が紹介されていき、会場に設置されたディスプレイにアップで表示されていく。
とはいえ、このゲームは個人個人の名が大きく広まることは早々無いので観客もふーんといった感じだったのでいささか寂しいものだ。
けれど参加者はみな普段から小型のエリート艦を乗りこなす熟練のパイロットたちである。
皆一様に自信満々と言った様子で構えていた。
『――続いて、我らが桜花から選手として出場するのはヒュージ選手です! ミサイル破産続出のきっかけといえば分かりやすいでしょうか? しかし彼の真骨頂は高速艦の操舵技術! 彼はレース前にこんなことを言っていました、「他の奴らはどうせヘボだし、今回は俺の圧勝だろうな」と。そんな彼がどんな動きを魅せるのか注目です!』
そして俺の紹介に入るとやたら熱が入ったアナウンスをされた
当然そんな紹介をされれば嫌でも注目が集まるし、他の参加者からは敵意を向けられている。
そんなこと言ってないし!
俺は悪くねえ!
おかしい。
桜花主催なのにアウェーな気がする。
『――では、間もなくスタートです!選手の皆さんは位置についてください』
そんな俺の思いも他所に進行は進められていき遂にスタートととなった。
アナウンスに従ってスタート位置に機体を置くとカウントを告げるランプが点灯していく。
『今、スタートです』
そして最後の青いランプが点灯した瞬間、俺も他の選手も一斉に飛び出した。
選手は総勢32人いて、それらが一同にスタートしたのだが、何人かが予想以上の出力に操縦不能となって壁に激突したのか複数の爆発音がした。
事前に機体性能は確認する時間が当てられたはずだが、必要ないと高をくくったのか?
会場はむしろド派手なクラッシュに大喜びで歓声を上げている。
俺はといえば順調にフルスロットルで機体を進ませている。
スタート直後はほぼ直線の障害のないコースだったので同じようにフルスロットルで飛ばしている他の選手の機体も確認できる。
とはいえ、すぐにカーブに入るのでここから差が出始めるところだ。
俺はほとんどスピードを落とさずに内壁ギリギリに沿って切り抜けた。
そして再び後方から爆発音。
また何機が落ちたようだ。
カーブが終わると広々とした空間に出るが、無数の光線が張り巡らされて通れる道は思いの外狭い。
シールドもなく装甲も最低限のものしかないスペーサーでは一瞬でも当たれば大破してしまうだろう。
まあ、その光線は固定されているので巣で集中砲火を受けた時よりもずっとぬるい。
それを掻い潜り更に先へと抜けた。
背後からは再び爆発音。
だが、やはりこういったレースに参加しようとするだけはあるのか10人以上が無事に切り抜けてそれほど離されないで俺の後を追っているのが背後カメラの映像で分かる。
そうして追われる形で進んでいると次に現れたのは10個ほどの穴のある壁。
それはギリギリスペーサーが通れる程度の穴でその中を通り抜けていくコースのようだ。
適当な穴を選び突入すればその先はトンネルが続いているようで途中でいくつも分岐点があった。
多分トンネルが内部で合流したり別れたりを繰り返しているのだろう。
細いトンネルを抜けると今度は普通の小型艦でも通れる程度のトンネルが広がっていた。
もちろん単なるトンネルではなく換気扇のように巨大な羽がぐるぐると回っている。
その速度は捉えられないほど速いわけでもなく間隔もあるので抜けるのは可能だが、トンネル自体も曲がりくねっているのでなかなか難しそうだ。
どうやらここでまた合流して競うらしいが……見えない。
「……落ちたわけではなさそうだが、結構スピード落としているようだな」
画面には大雑把なルートを示すマップが有り、それでどの位置に他の選手がいるのか光点で知ることができるのだが、どうやら皆細いトンネルゾーンで苦労しているらしい。
やや慎重に動いている分差が離れたということなのだろう。
あ、光点が一つ消えたな。
まあ、後ろの事は気にしてもしょうがないので俺はトンネルの中をほぼ常にフルスロットルをキープして回る羽の間を抜けていく。
右回転左回転右回転と回転の方向がそれぞれ違う3つの障害が連続してある場所も有りなかなか気が張るエリアだったが、無事切り抜ける。
そこまできて背後カメラの映像を確認しても追ってきている機体の影はなかった。
結局そのままコースを駆け抜けて優勝をかっさらった。
『圧倒的! 圧倒的なまでの差をつけてヒュージ選手がゴール!』
同時にそんなアナウンスが聞こえてきた。
一応レース中も聞こえてたんだけど雑音でしか無いというか障害物が割りと鬼畜で集中していないといけなかったから無視していたのである。
『さあ、他の選手達は果たして無事完走できるのでしょうか!?』
結局、その後3名が完走した以外は全て途中で事故って爆散していったが、それでも観客にとっては十分面白かったようで歓声が湧き、無事完走した選手たちを祝福していた。
当然その中でも圧倒的な差をつけて優勝した俺もその操舵技術を認められ大いに喝采を浴びたのだった。
こうして第1回スペースレーシングは幕を閉じたのである。
その後、『桜花』はスペースレーシングは定期的に開催することを約束し、同時にコースに対する意見を大々的に募集することを告知した。
今後もこのスペースレーシングは進化を続け、やがてはこのゲームの遊び方のスタンダードの一つとしてその地位を確立するに違いない。
そんな栄えあるスペースレーシングの初代チャンピョンになれたところで『Unlimited Space Adventure』のプレイログは終了である。




