Unlimited Space Adventure 6
あれから何度か通常空間へ戻りエネルギーの充填を待つのを繰り返して、目的の巣のある宙域の一つ前までやってきた。
ここからなら俺の機体でも余裕でワープ可能な距離だ。
途中何度が通常空間への復帰先で宇宙生物に襲われてそれに対応していたので掃討作戦開始から2時間ほど経過している。
だが、折角宇宙生物の掃討というそれなりに珍しいイベントを前にしているからか『桜花』の主要メンバーはもちろん、限定依頼を受けて参加している者たちも時間は十分に確保しているらしいので問題もなく、俺達はいよいよ最後のワープを開始し巣へと飛び込もうとしていた。
今は『桜花』代表ヘーテルから巣の掃討に対して最後のブリーフィングが行われているところだ。
『目的地までいよいよ後ワープ1回。ワープを開始すれば5分後には巣に到着、同時に激しい戦闘になるから今のうちに心構えはしっかり済ませなさい。私のヒュージがいるから多少敵は散らされるでしょうけど流石に巣を掃討するとなると今回は私達もワープ完了直後に狙われると思うから各自ワープが完了したら即座に戦闘を開始するように』
「さらっと単騎突撃することが決められてるっぽい俺に一言」
『愛してるわ』
『頑張ってー』
『期待してます!』
『あまり無理はしないでくださいよ』
『骨は拾ってやるよ』
『爆発しろ』
『別に全部倒してしまっても構わんのだぞ?』
『栄えある一番槍羨ましいなー』
端的に到着後の動きをまとめていくヘーテルだがその中で当たり前のごとく俺が先行して撹乱することが決められていた。
そのことに対して何か弁解の一言でもないのかと返せば一級燃料投下士のヘーテルからは愛の言葉を、ニャーコさんとヘーテルのもう一人のリア友―― シーファさんからは素直な激励の言葉を、そしてトミーさんからは優しい言葉をそれぞれ頂いた。
さらには、少しの同情と圧倒的なざまあという感情を込めたヤッカミの声を『桜花』に属する男どもからを受けた。
素晴らしいメンバーで、俺幸せダナー。
「それじゃ先に行かせてもらうわ」
『死んだら許さないからね?』
「決死に追い込んでおいてよく言うぜ」
『信頼してるから当然でしょ。だからって心配してないわけじゃないってことよ』
「んじゃ俺も心配させないように頑張らないとなッ!」
相変わらずのやりとりを交わしつつ俺はワープドライブを起動し、皆より一足先に巣へと飛び込んだ。
程なくして通信が切れて俺はワープ空間を突き進む。
ヘーテルたちも5分後には来るだろうからそれまでは単騎で頑張らねばならない。
そうして気合を入れていると間もなく目的地へと到着する。
そのままワープ空間から通常空間へと出ると正面に巨大なステーションの姿とそれを守るように周囲を巡回する無数の宇宙生物の姿を確認できた。
その中には大型はもちろん超大型の姿すら混じっていてその巨体の発する威圧感は凄まじい。
「だが、まあ。当たらなければどうということはないのだよ!」
単騎で来たからか未だこちらに気づいた様子のないその群れに向かって俺は機体のエンジン出力を上げ最高速で突っ込んでいく。
どんどん近づきステーションが一層大きく見えるようになり周辺を巡回していた宇宙生物もこちらに気がついたようで俺を迎撃せんと動き出す。
釣れたことを確認したところで方向を転換。
放たれるエネルギー弾を躱しつつ乱軌道を描いて小型宇宙生物を処理していく。
そこまで脅威と思われていないのか、はたまた巣を守る役目があるからか俺を追って落とそうとしてくるのは存外少なく、10に満たないその数から狙われても余裕があったため俺は次々と小型宇宙生物を倒していたが、それが脅威度を上げたのかより多くの宇宙生物が巣から離れてこちらを襲ってくるようになった。
「そうこなくっちゃなっ!」
先程よりも激しさを増した攻撃にこちらは一気に防戦に追い込まれ処理能力は激減だ。
それでもなんとか隙を見て小型の宇宙生物を倒したり、中型宇宙生物のシールドを削っていった。
そうしているとついに一体の中型のシールドを削りきったので、上下左右ランダムに動きながらもシールドの剥げた個体へと迫り、艦首に取り付けられていた装備を起動してその赤熱した刃で腹の部分を深く斬り裂きながら通り抜ける。
使ったのはヒューパでも使っていたラムアタック用装備の改良版である『グングニル参式』だ。
参式とはいっても別に機能が大きく変わったわけではなく純粋に軽量化と頑丈さの向上を実現した上位版といったもので、圧倒的なスピードを誇るこの艦との相性は抜群で威力は絶大。
俺は現在のスピードからは信じられない程の小回りで反転し、再度中型の宇宙生物へと突撃する。
その際にかかるGは相当なものだが、極まったG耐久により一切の支障無く機体を操り今度は背を斬り裂いた。
そのまま離脱するように乱軌道を描きながらその場を離れれば再び攻撃が襲ってくる。
だが、先の攻撃で中型が倒された分その攻撃は先程よりもずっとぬるくなっていた。
でなればこちらが攻撃を仕掛ける余裕も増えたというもので再び宇宙生物を倒していくが、ここが巣であるがゆえに宇宙生物側にすぐ増援が来て再び攻める余裕が失われていく。
更に脅威度が上がったのか一層数を増し、隙をついての反撃すら許されない程の苛烈な攻撃に徐々にシールドが削られていく。
「このままだとやばい……だが」
シールドが2割を切ったところで一人そう呟くが、そのタイミングでレーダーに友軍反応が表示され、俺を追っていた宇宙生物たちをぶちぬくように一条の光線が突き抜けてその数を一気に減らす。
それは味方の大型艦から放たれた攻撃によるものだ。
『おまたせ! 各員戦闘開始! お互いカバーできるようにね! ニャーコとシーファは私を護衛して! でかいのをお見舞いしてあげましょう』
「俺は一旦引くから引き継ぎ頼むぞ」
『了解!』
『俺達だってやれるってとこ見せてやらあ!』
『美味しいところ全部持ってかれちゃ堪ったもんじゃないよね』
ようやく味方が現れたのでひとまず俺は引き後を任せる。
流石に残シールド2割じゃ不安だからな。
全速力で俺は後方へ下がり、追ってくる残党は味方によって処理されていく。
それから一気にこの戦場は騒がしくなる。
こちらの本隊到着により巣の周囲で陣取っていた大型の個体も含めて大量の戦力を宇宙生物は送り出してきた。
それを大型艦が主砲で応戦しつつ、副砲で他の敵にも攻撃を与えていく。
そうなると大型艦に攻撃が集中し始めるのだがそれを中型艦がカバーし、更に小型艦を操る者たちが編隊を組んで敵宇宙生物を処理していく。
しばらく後方で味方の頑張りを見ていれば機体のシールドも7割まで回復したので俺も戦線に復帰。
俺の場合はその変則的な動きについてこれる者がいないので一人で動くことになるが、それでも味方が周囲にいる分攻撃は緩く多少危なくなってもすぐにカバーが入るのでかなり戦いやすい。
戦局はこちらが圧倒的に優位で、宇宙生物は急速にその数を減らしていく。
そうしてしばらく時間が過ぎたところでようやく最後の守りである超大型の宇宙生物が動き出した。
「動いたか……だが、ちょっと遅かったな」
艦首がX字に変形し、その中心部に莫大なエネルギーを貯めこんだ超大型艦――アポカリプスの姿を目にしながら俺はそんなことを呟く。
『エネルギーチャージ完了。 目標、超大型宇宙生物。全艦、射線上から退避』
『『『――退避完了』』』
ヘーテルの声に一同射線から退避。
果たして超大型艦のその攻撃の威力とはいかほどのものだろうか。
楽しみだ。
『戦術級巨大砲ロストブラスター、発射!』
そしてその言葉と同時に、それは放たれた。
放たれた攻撃の余波で機体が大きく揺れて身体が揺さぶられるのに耐えながら俺はそれを見ていた。
超大型艦すらをも飲み込むような極大のエネルギーはその射線にあるものを全て消し去りながらまっすぐと超大型宇宙生物へと襲いかかり、あっという間に飲み込んだ。
しばらくその光線は残り数分後にようやく消えると、その光線が通ったエリアに残っているものは何一つなかった。
『……初めて使ったけどすっごい威力ね。これ。そりゃ戦場で見かけたらあらゆる被害を受けても撃ち落とせと言われるわけよねえ』
『『『……』』』
しばらく静寂に包まれた中、ヘーテルがそんなことをやや呆れた様子で撃ち放った攻撃の威力について感想を漏らし、それに『桜花』のメンバー全員が黙って頷いた。
まさか超大型宇宙生物すら無傷の状態から一撃で消し去る威力だとは思っても見なかった。
まあ、なんにせよいまの一撃でほとんどの宇宙生物が消え去り、宇宙生物が最後の攻撃とばかりに巣から現れたが、その数はかなり少ないものであっという間に殲滅され、宇宙生物の巣掃討作戦は成功したのである。
その後、巣を細かく調査すれば情報通り未知の素材が溢れんばかりに存在するばかりか、その素材はこの巣で無限に生成されていることが判明し、巣そのものを回収し、『桜花』の所有物とされた。
どうも、宇宙生物の巣を掃討した際は同じようにそのままステーションとして回収できる仕様のようで、一度に限り希望の場所へ転送することが可能で、巣であった巨大ステーションは『桜花』本部横へと設置されることとなった。
限定依頼を受けて同行していたプレイヤーにはタイプ2の重大型艦をフル装備で買えるほどの報酬が支払われたため彼らも文句をいうことはなく非常に喜んでいた。
その素材を使った武装を『桜花』でいつか販売するとヘーテルが告げたことも不満がでなかった理由の一つだろう。
一般プレイヤーにとっては素材なんかよりは実用的な装備のほうが重要ってわけだ。
そして、掃討作戦を終えた俺たち『桜花』は再び長い旅路を経て『桜花』本部へと戻り、メンバーは各自好きに宇宙の彼方へと散らばっていった。
「今回はお疲れ」
「ああ、流石に先行しての囮役は大変だったぜ」
「あんたならやってくれるって思ってたけどこうして無事終わって私も安心よ」
メンバーがそれぞれ自由に行動を開始していった中俺は本部に残りヘーテルと向い合っていた。
「で、例の素材だが、どうなんだ?」
「ふふ……完璧よ。まだ解析が終わってないけど、少なくとも強度については問題なし。これなら例の設計図のモノも多分作れると思うわ」
「そりゃ楽しみだな」
「ただ、完成には相当な時間がかかるだろうから気長に待っていて欲しいけどね」
「もちろんだ」
まだ、詳しくは分かっていないとは思うがそれでも聞かずにはいられなかったことを聞いてみれば、かなり前向きな返答が返ってきた。
その答えに俺は満足し、笑みを浮かべればヘーテルも嬉しいのか満面の笑みを返してくれた。
当然完成には時間がかかるということなので完成するまではお金稼ぎの日々を送ることになりそうだが、楽しみが控えているのだから決して苦にはならないと思う。
とりあえず本日は大きなイベントに精神的な疲労が溜まったのでその後はヘーテルと雑談を交わしてゆっくりと癒やされたのであった。
と、そんな感じで第4回プレイログはエリート艦に搭乗しての宇宙生物の巣掃討作戦についてまとめたわけだが、本ゲームのプレイログは次回の第5回で終了予定である。
最後何をやるのかといえば……内緒だ。
まあヒントを出すと今回出てきた設計図が関係しているとだけ言っておこう。




