Unlimited Space Adventure 5
俺はトミーさんの所有する大型輸送艦に乗ってとある宙域を目指していた。
俺だけでなく他の『桜花』の中心メンバーや、形だけ入っているプレイヤーの多くも限定依頼を受けて同行している。
その目的はまだ誰にも知られていない宇宙生物の巣の掃討、並びに特殊な資材の回収だ。
宇宙生物の巣というのは文字通り宇宙生物が集まり守っている場所のことで、宇宙生物が生物とは名ばかりの宇宙船に酷似した姿をしているのと同じように、巣と呼ばれるその場所はぶっちゃけて言えば巨大な宇宙ステーションだ。
こういったものはこれまでも多く見つけられていてその掃討時の報酬などが非常に大きいことから、発見されると誰もがこれを掃討しようと挑んでいく。
結果的に国家の支配域においては数多くの巣が掃討されていて、今では偶然近場に新たな巣が発生するのを待つか遠くまで探しに行くかしか無い。
今目指している宇宙生物の巣は『桜花』メンバーの中の一人がどの国家アライアンスの領域にも属さない未開拓領域にて見つけ出したもので、現状『桜花』以外には知られていないフリーの巣である。
今回はこれを国家アライアンスや他の大手アライアンスに情報を流さず『桜花』自ら動いて掃討しようというのである。
というのも見つけた人が宇宙生物を避けつつ情報をスキャンした限りでは何やらこれまでに見たことのない素材が大量に存在することが判明したのだ。
そもそもが生産に重点を置くヘーテルが代表の『桜花』にとって素材というのは何よりも手に入れたいものだというのと、その発見の報の少し前に俺が可能ならば作ってもらおうとヘーテルにとある設計図を渡していたためにそれに使えるかもしれないという二つの理由からそれが決定した。
ただ、目的地がかなり遠い。
トミーさんの輸送艦ベクターでさえ、何度か星系を経由しなければならないほどである。
俺の機体だと下手すると三桁も経由する必要があるかもしれないほどだ。
まあ、そんなわけで今はベクターへとドッキングした状態で運ばれている最中だ。
同じようにベクターへドッキングして運ばれているプレイヤーもいるし、それぞれが持つ中型・大型戦闘艦で自力航行しているものもいる。
今現在、この掃討作戦に参加して同行しているのはベクター含めた大型艦が10隻。
中型艦が20隻。
そして大型艦に艦載された状態で同行しているのが俺の機体含め小型艦・重小型艦が30隻ほど。
おまけにタイプ1の超大型艦までもが1隻同行している。
この計61隻で宇宙生物の巣を掃討するわけだ。
戦力としては巣を掃討するのに一応問題はない数ではある。
宇宙生物はあくまでゲームとして存在していたほうが都合がいいからと設定された敵であるためそんな軍隊規模で挑むような必要はないのである。
ちなみに俺の機体はラムアタック仕様のヒューパではない。
タイプ7の小型艦ではあるのだが、そのエリート艦を購入したのだ。
エリート艦については以前も本当に軽く説明したが、まあ要するに普通のものよりもずっと高性能の船で、お値段はタイプ2の重大型艦に匹敵するほどの高価な船だ。
うまくすれば大型艦にすら対抗することが可能になるため小型艦でプレイしていくなら最終的にはエリート艦に乗ることは必須である。
そのエリート艦の中でもいろいろ種類があるのだが、俺はその中でもスピードに特化した船を選んだ。
これまでキャラクターレベルを上げて得た強化ポイントは全てG耐久強化へと振っているのでやはりこれを活かすならスピード型であろう。
今なら一定方向へ高速移動しながら機体を乱回転させて方向転換したりピンボールの如き動きを高速で行ってもへっちゃらであるゆえにエリート艦の性能と合わさって、ヘーテルや他の『桜花』メンバー曰く変態的な機動を可能としている。
だれが変態か!
『そろそろ一度通常空間へ戻るわ。各員警戒態勢へ移行してちょうだい』
「あいあい」
そうこうしているうちに一度ワープ空間から通常空間へ戻るのだと超大型艦のほうから通信が入ったので適当に了解の意を返しつつ、操舵レバーを握る。
これだけまとまって移動していると宇宙生物がこちらを感知して通常空間へ戻った瞬間襲ってくることが多々あるためこうして通常空間へ戻るときはすぐに動けるように行動できるようにするのが長距離を集団で航行するときの常識だ。
ちなみに今の通信は超大型艦からのものでその声の主はヘーテルだ。
何を隠そうこの艦隊に唯一存在する超大型艦こそがヘーテルが個人で保有する船なのである。
『タイプ5特殊探索艦イプシロンから各員に通達ー。復帰予定座標に複数の熱源を感知したよー。結構多いからちょっとやばいかもー』
『……切り込み隊長、行って来なさい』
「体のいい囮じゃねえか畜生め」
だが気の抜けた話し方のニャーコさんが割りと危機的な状況を知らせてきて、少し考えたヘーテルが俺を指定して先にいけと告げてくる。
このプレイログで初登場だが、ニャーコさんは『桜花』の主要メンバーの一人であり、今回の巣を発見した張本人でも有り、ヘーテルのリア友でもある人だ。
で、切り込み隊長と言えばまだ聞こえはいいかもしれないが要するに復帰予定座標から敵を引き離すための囮である。
正直ありがたい役回りではないのだが、まあそこは信頼されていると思って頑張るとしよう。
「さて、んじゃ行きますか」
『ワープドライブを起動。ワープ空間との同調を開始……完了。艦隊との同期から外れます』
未だワープ空間内であるためにちょっと工程を踏まないと輸送艦ベクターから発艦することができないのが面倒だ。
『私もワープ空間内での発艦なんてされるとこちらの船が壊されないか不安なんだがねえ』
『大丈夫よ、トミーさん。ヒュージは私の彼氏ですもの。そんなミスなんてしないから』
『『『『糞ヒュージ、発艦失敗して爆発してしまえ!!』』』』
「俺は悪くねえ!」
トミーさんもワープ空間内での発艦作業などという危険な真似はしてほしくないようだが、そんな不安の声を零したトミーさんに返す言葉としては不適切なヘーテルの発言に『桜花』メンバーから理不尽なブーイングを受ける。
相変わらずヘーテルは妙にオープンで、そのとばっちりを毎回受けるのはなんとかならないものか。
そんなバカみたいなやりとりをしている間に発艦準備も整ったのでベクターから発艦し、そのままワープ速度を上げて艦隊が復帰する予定の座標まで急ぐ。
逆に艦隊はワープ速度を下げて少し遅れてくるわけだ。
それまでの間に俺は予定座標にいるであろう宇宙生物を引き離すか処理をして艦隊にダメージが行かないようにしなければならない。
そうしてワープ空間から通常空間へ出ると7体の中型宇宙生物とちょっと両手の指じゃ数えきれない小型の宇宙生物がお出迎えしてくれた。
「予想以上に多い!」
その光景に文句を言いつつもエンジンの出力を上げ船を操作する。
同時に宇宙生物からの激しい攻撃が開始され、俺はそれをめちゃくちゃな軌道で回避していく。
進む方向を変えるたびにかかるGはG耐久が強化されたこの身体であってもそれなりに強く感じるが支障は無い。
敵の攻撃はエネルギー弾だが、変則的な軌道で照準を散らすことでそのほとんどは当たらないし、レーザーのように弾着までのタイムラグが無いなんてこともなく、動きで散らされて密度の薄くなった攻撃など避けるのも難しくないので敵の攻撃を掻い潜りつつも小型の宇宙生物を仕留めていく。
仕留めればその分だけ攻撃の密度は薄くなり一掃動きやすくなるので徐々に小型の宇宙生物を減らしながらも艦隊が出現する座標から宇宙生物を引き離していく。
捉えられないことに怒りでも感じたのか、中型宇宙生物が無数のミサイルを放ってきた。
ミサイルを放ってきても彼らは一応生物っていう括りなのだが、生物ってなんだろうね。
当然ながらミサイルに当たればエリート艦といえどもタイプ7の小型艦ではひとたまりもないため全速力で逃げる。
それからメインスラスターをひとまずニュートラル状態にして慣性だけで動く状況で機体を反転させる。
そうして後ろ向きに移動しながら俺は迫ってくるミサイルへと照準を合わせレーザーブラスターを発射してその全てを迎撃していく。
流石にスピード特化型のエリート艦だけあってミサイルとの鬼ごっこもかなり余裕があった。
とは言え慣性による移動は速度こそあれ動きは単調だ。
その隙をついた攻撃でシールドが1割ほど削られてしまった。
すぐにスラスターの出力を上げ、再び変則的な軌道で攻撃を回避していく。
その間にシールドも回復し俺は順調に宇宙生物を減らしつつ引き離すことに成功していた。
そろそろかと予定していた座標へ目を向けると丁度ワープ空間から復帰してくる艦隊の姿が目に映る。
『通常空間への復帰、無事完了したわよ。30秒後に大型戦闘艦は主砲を発射してちょうだい。ヒュージはそれまでに敵を集めておいて』
「簡単に言ってくれるな」
『簡単でしょ? あんたにとっては』
同時に艦隊との通信が回復しすぐさま新たな指令が言い渡された。
この数を一箇所に集めるのはなかなか厳しいものがあるしそもそも発射の直前までそれやってると巻き込まれる可能性もあるというのにヘーテルは全く心配した様子もなく笑顔を送ってきた。
人使いの荒い彼女であるが、まあ彼女の信頼に応えよう。
ひとまず中型宇宙生物の1体を目印に高速で周回軌道を取る。
動きが速い小型の宇宙生物はそのまま俺に追随するが動きが緩慢になる中型の方はこちらに追いつけず、次第に動きが遅い中型宇宙生物同士が集まっていく。
『あと5秒……3……』
その状態を保っていると攻撃のカウントダウンが開始されたので周回軌道を止め、俺は小型の宇宙生物を後ろに従えて中心に集まっていた中型宇宙生物のほうへと突っ込むように動く。
そしてその隙間を縫うようにして向こう側へ抜ければついてきた小型宇宙生物が衝突を避けようとして渋滞を起こして短い時間ではあるが一箇所に集まった状態となった。
その瞬間を逃さず、9艦の大型戦闘艦から放たれた主砲が飲み込んで宇宙生物は一瞬で消滅してしまったのだった。
さすがの火力だ。
むしろ過剰とも言えるものだったが、やはり大艦巨砲主義は素晴らしい。
割りと機体スレスレを通ってヒヤヒヤしたけどな!
『周囲に残党の反応はないねー。とりあえずお疲れ様ー』
『ニャーコさん、あの野郎は? ちゃんと砲撃に巻き込まれて反応消えてます?』
『ヒュージくんはきっちり生き残ってますよー。流石ですよねー』
『『『『チッ』』』』
「ねえ、酷くない? この戦闘のMVP俺と言っても過言ではないよね?』
ニャーコさんがその艦の機能を活かして広域探査したところひとまず宇宙生物は倒しきったことを告げればメンバーの一人が実に腹立たしい質問をし、その解答に複数の男メンバーが舌打ちをする。
敵を一手に引きつけて、それなりの数を撃墜しつつ攻撃のアシストまでしてみせた俺に対しての仕打ちが酷い。
『大丈夫よ。私の中ではいつでもあんたがMVPなんだから何言われても気にする必要はないわ。本当にお疲れ様。後でハグしてあげる』
「お前、恥ずかしいことを真顔で」
『だってあんたは私の彼氏よ? 大好きな人が頑張ってるんだから褒めてあげないと。あ、もっと情熱的なご褒美のがいい?』
「いや、気持ちは嬉しいけど隠そう? そのバカップル感は隠そう?」
『? 好きな気持ちを隠す必要性なんてないでしょ』
『ヒュージてめえ殴らせろ』
『そうだそうだ』
『爆発しろ』
『基地外め』
「だから俺は悪くねえ!」
ひどい仕打ちに少し項垂れていると空気読めない系彼女のヘーテルがいらん燃料を投下していく。
ちゃんと労われて嬉しいし報酬も大変喜ばしいものではあるが少しは火に油を注ぐのをやめてほしい。
ヘーテルと彼氏彼女の関係になって以降『桜花』の男メンバーどもからはどういうわけか目の敵にされている。
確かに彼女は美女といって差し支えないから人気があるのはわかるが、何かしら言うのはヘーテルであって俺は何もしてないのに酷い話である。
まあ彼らもこうして騒いでからかってくるだけで、本気で襲ってきたりとかはなくちゃんと冗談として楽しんでいるようだから問題はないといえばないのだが。
まあ、彼らの言葉の殆どは本音のような気がするが、だとしても本音を言い合える関係ってのはそれはそれで素晴らしく、少なくとも彼らと出会えて俺は良かったと思っている。
ただ、もうちょっとさ。
祝福してくれてもいいとは思うけどな。
そんなことを一人つぶやきつつも俺は艦隊へ帰投した。
その際、トミーさんの輸送艦ベクターではなくヘーテルの乗る超大型艦へと着艦しきっちりご褒美のハグ+αをもらいました。
それからしばらくワープドライブにエネルギーが充填されるのを待った後俺たちは宇宙生物の巣へ向けての移動を再開したのだった。




